メニュー
閉じる

徹底検証 マルチアセット戦略」 変貌するマーケットで問われる真価

2022年1月11日

国内投資家の間にもすっかり定着した「マルチアセット戦略」。
<
「分散効果」や「下方リスク抑制」「絶対収益獲得」など、さまざまな目的を達成する手段として活用されているが、国内投資家向けに商品提案が行われるようになったのは2010年代に入ってからで、主に景気拡大サイクルの中で採用が進んでいった。

その意味では、コロナ禍は採用が進んでから投
資家が初めて経験した「ショック」であり、マルチアセット戦略の役割が試された局面と言えよう。
果たして、コロナ禍に伴う株価下落・金利低下局面、その後の回復局面において、マルチアセット
戦略は期待通りの成果を発揮できたのか。

また、コロナ禍を経て社会構造の変化が進み、その先には金融緩和の縮小(テーパリング)と、マーケットは今までに経験したことのない局面を迎えている。そんな中、投資家はマルチアセット戦略にどう向き合っていけば良いのか。

本特集では、読者へのアンケート調査、マルチアセット戦略を活用する企業年金のケーススタディ、年金コンサルタントの見解の3つの視点から、改めてマルチアセット戦略が果たす役割を考える。/p>

PART1 オルイン投資家アンケート 

マルチアセット戦略は普及から深掘のステージへ
国内投資家の活用実態調査

PART 1では、『オルイン』読者を対象とした「マルチアセット活用実態調査」(2021年10月~ 11月実施、有効回答数94件)の結果を紹介する。2013年から隔年で実施してきた本調査も今回で5回目を迎えた。調査開始以来、国内企業年金を始めとする機関投資家の間でマルチアセットの採用は拡大を続けてきたが、コロナ禍にともなうマーケットの下落と上昇は、果たして投資家の姿勢にどんな影響を与えたのだろうか。新たな設問・視点を交えつつ、最新の実態に迫る。

新規採用は頭打ちだが
採用戦略数は増加傾向

2019年12月号に掲載した前回調査の直後、世界はコロナ禍に見舞われた。未曾有の事態にマーケットが翻弄されたこの2年間で、国内投資家におけるマルチアセットの活用実態にはどんな変化があったのだろうか。

まず、マルチアセット戦略の採用状況を尋ねた設問では「採用している」が 44.7%、「検討している」が 9.6%となった。また、今回の調査から採用していない場合の選択肢を「一度も採用したことはない」と「過去に採用したことはあるが、現在は採用していない」に分けて集計しており、それぞれ 38.3%、7.4%の回答を集めた(図1)。前回調査では「採用している」「検討している」「採用していない」がそれぞれ 50.0%、11.5%、38.5%だったことを踏まえると、マルチアセットを採用している投資家の比率はやや低下し、採用を取りやめたケースも散見される。

次に、採用中・検討中の51の投資家に対してマルチアセット戦略を最初に採用した時期を聞いたところ、2014~16年度はそれぞれ10%以上、2018年度は 15.7%の回答を集めるなど、マルチアセットブームとも言える状況で採用は増えていったが、2019年度は 3.9%、20年度は 5.9%、21年度に至っては0%まで減少しており、すでに新規採用の動きは一巡したと見ていいだろう(図2)。




ただ、採用している戦略数に関しては、前回調査時は「1本」が46.2%を占めていたのに対して、今回調査では「1本」と「2本」がそれぞれ 35.3%、31.4%となり、4本以上を採用中と答えた数も前回の 9.6%から17.6%に増加した。このことから、採用中の投資家の間では複数戦略に分散する動きが進んだと言えそうだ(図3)。


リスク抑制ニーズが強まる一方 
マネジャースキルには課題も残る

採用中または検討中の投資家を対象に、マルチアセット戦略を採用・検討する目的を聞いたところ、最も多かったのは「下振れリスクの抑制効果」の 66.7%で、前回(67.7%)とほぼ同様の結果となった(図4)。国内投資家向けには低リスク型、あるいはリスクコントロール型のマルチアセット戦略の提案が盛んに行われており、高いリターンを望まないが安定運用を望む企業年金や金融機関の間で採用が進んでいる。

次いで回答を集めたのは「絶対収益の獲得」の41.2%、「幅広い資産への分散投資効果」の 33.3%だった。この2つの目的については前回時も 36.9%と 38. 5%を集めて上位に挙がったが、前々回調査(2017年12月)の54.5%、43.6%からは明らかに減少している。この背景には伝統資産と低相関にあるプライベートアセットの普及が進んだことも影響していそうだ。なお今回、大きく順位を落としたのが「機動的なアロケーション変更への期待」で、前回は49.2%で2位にあったものが、27.5%で4位に後退している。

では、最も期待される「下振れリスクの抑制効果」を、投資家はどう評価しているのだろうか。2020年2~3月のマーケット下落時に期待通りのリスク抑制機能を発揮したかどうかを尋ねたところ、「満足している」は2.4%、「概ね満足している」69.0%、「あまり満足していない」が26.2%、「不満がある」が2.4%であった(図5)。

未曾有のイベントに直面して一時的にほぼすべての資産が下落したこともあり、リスク抑制機能や絶対収益を謳う戦略でも株式との相関が高まったり、マイナスに沈んだりした戦略も多かった。投資家ごとに判断基準は異なるだろうが、それでも「満足」と「概ね満足」という回答が7割以上に上ったということは、マルチアセット戦略が下落局面で一定の効能を発揮し評価されているようだ。他方、20年4月以降の上昇相場については、リスクパリティ系や株式比率を抑えたマルチアセット戦略では上手く追随できなかったケースが多く、期待する役割で「機動的なアロケーション変更への期待」に対する回答が集まらなかった背景には、こうしたことも関係しているのかもしれない。

マルチアセット戦略に求めるリターン、リスク水準を尋ねた設問では、リターンについては3%台が45.1%と突出して多く、リスク水準では3~5%台に満遍なく回答が集まった(図6)。前回の調査でもリターン目線については3%台が中心だったが、リスク水準は5%台(34.4%)、3%台(17.2%)、4%台(6.3%)の順に多かったことを踏まえると、リスクに対しては保守的に考える割合が増えている。



マルチアセット戦略を政策アセットミックス上のどこに位置づけるかは多くの企業年金が頭を悩ませるところだが、この点についてはオルタナティブ枠が56.9%と最も多く、マルチアセットの専用枠(21.6%)、債券枠(17.6%)と続く(図7)。伝統資産との低相関や絶対収益性を求めて採用する基金の場合はオルタナティブ投資という枠組みが最も当てはめやすいのだろう。また、債券代替的に低リスクマルチアセットを採用する場合は債券枠というのもうなずける。他方、株式枠に位置づける基金は1割程度となっており、マルチアセット戦略をリターンドライバーとして位置づけるケースはまだ少ない。


現在採用中(検討中)の運用手法については、クオンツ型が41.2%、ジャッジメンタル型が31.4%、両者の併用が49.0%となっている。

なお回答対象の51件中、複数のスタイルを採用しているのは8件(15.7%)に留まっており、「クオンツ型」および「ジャッジメンタル型」のどちらか一方にのみ投資しているというケースは21件(41.2%)だった。この数値を高いと見るか、低いと見るかは判断が分かれるところだが、コンサルタントからはコロナ禍での上昇局面においてルールベースのクオンツ型戦略のパフォーマンスはジャッジメンタル型戦略と比較して振るわなかったという指摘もある。バジェットも限られる中での戦略分散には困難もつきまとうが、安定性を求めるならば複数スタイルへの分散を検討したいところだ。

今後の方針は現状維持が最多 
一方で戦略の再評価も進む

採用状況に関する設問では「過去に採用したことはあるが、現在は採用していない」との回答がある程度存在したが、採用中の投資家に対しても「過去に解約をした」あるいは「今後解約をする」戦略の有無を聞いたところ、前者については39.2%、後者は3.4%という結果となり、複数戦略の一部を解約したり、入れ替えたりする動きは頻繁に起きている(図8)。

そこで「過去に採用したことはあるが、現在は採用していない」ケースと、採用中で「過去に解約をした」「今後解約をする」と回答したケースを合わせた29の投資家にその理由を尋ねたところ、「リターンへの不満・不安」の65.5%、「動的資産配分の効果に対する不満」の34.5%、「リスク面での不満、不安」の21.4%と続いた。

さらに、解約にともなう入れ替え先を聞くと、「他のマルチアセット」(27.6%)、「内外債券」(24.1%)、「インフラ」(17.2%)などが上位に挙がっている。もともと低リスク型の戦略を採用していた場合は流動性がある債券であれば置き換えも進みやすい。また、オルタナティブ枠として引き続き伝統資産との分散を図ったり、リスクを抑制しつつインカム水準を底上げしたりする場合にはコア型でインカム重視のプライベートアセットも選択肢に挙がるようだ。

なお、これまでに採用したことが無い36件を対象にその理由を尋ねた設問では、「パフォーマンスの再現性に対する不安」(36.1%)、「現在の運用に満足している」(22.1%)などが回答を集めた。

最後に、マルチアセット戦略の今後の採用方針については「現状維持」(53.2%)が最も多く、「今後も採用する予定はない」(31.9%)、「増やしていく」(12.8%)、「減らしていく」(2.1%)の順となった(図9)。現状維持については過去調査の中でも最も高い数値であり、国内投資家の間にマルチアセットは普及・浸透し、この先は複数年運用した上での評価をもとにした戦略の入れ替えなどが中心になっていくのだと推察される。


次ページ
PART.2 投資家ケーススタディ

 

 

よく見られている記事ランキング