「Tokyo Asset Management Forum2022 Autumn」
開催レポート
運用会社の多様化でアセットオーナーの運用高度化を後押しする
東京都が掲げる「国際金融都市・東京」構想のプロモーション活動を担う一般社団法人東京国際金融機構(通称、FinCity.Tokyo)は2022年11月15日(火)に、「Tokyo Asset Management Forum 2022 Autumn (TAMF 2022 Autumn)」を開いた。オフラインとオンラインのハイブリッド形式で、会場は東京・兜町のKABUTO ONEにて催した。金融庁をはじめ行政関係者のほか、大手や新興の資産運用会社、先進的な大学基金といった多様なゲストが登場した。足元の株安・債券安を乗り越えるための運用戦略や、東京に金融人材や投資を呼び戻すための方策などをめぐって、プレゼンテーションやパネルディスカッションが展開された。
TAMFは2018年から毎年開かれている。オフラインでの開催は新型コロナウイルスの感染が広がる前の19年11月以来、3年ぶりとなる。今回は国内外のアセットマネジャーやアセットオーナーをはじめ、資産運用業界の関係者を中心に約370名が参加した。
総合司会を務めたのは、ESG投資に関する有識者アドバイザリー事業を手がけるエミネントグループの小野塚惠美氏。「オルイン」を発行する(株)想研もメディアパートナーとして協力した。イベントの模様を以下にまとめる。
開会挨拶
はじめにFinCity.Tokyoの専務理事、有友圭一氏が開会挨拶を行った。FinCity.Tokyoの活動目的は、金融面から社会課題解決に貢献することにある。特に、新興資産運用業者(Emerging Managers)への運用資金拠出促進を図る「EMP(Emerging Managers Program)」を通じ、「投資家」と「投資対象(企業等)」と「アセットマネージャー」の間で資金が好循環してゆく「インベストメントチェーン」の高度化を目指すと強調した。
基調講演1
「アセットアロケーション戦略による資産運用の高度化」
続く基調講演1では、「アセットアロケーション戦略による資産運用の高度化」と題して、GICのトータルポートフォリオ戦略シニア・バイスプレジデントのGrace Qiu氏が登壇。金利が上昇し、株式と債券がともに下落するなか、伝統的資産のみで構成するポートフォリオ戦略には限界があると説いた。そして、長期で運用実績を上げ、なおかつマクロの不確実性や地政学的リスクの高まりに対するポートフォリオの耐性を高めるためには、先進的なポートフォリオへの転換が必要であると力説した。そのためには、プライベート・マーケットなどの多様な資産の組み入れや、新興資産運用業者を含むアセットマネージャーの超過リターンやリスクマネジメントを活用しながら、ボラティリティの短期変動は甘受しつつも長期的なポートフォリオ耐性をより重視する必要であると述べた。
基調講演2
「大学ファンドの運用の考え方について」
海外では年金基金やソブリンウェルスファンドと並び、大学の運用資金もアセットオーナーの重要な一角を担っている。日本でも10兆円規模の大学ファンドが立ち上がったばかりだ。基調講演2では科学技術振興機構(JST)資金運用本部で副本部長を務める杉本直也氏が出演し、JSTが運用を担う「10兆円ファンド」の目的や運用・ガバナンスの体制を紹介した。同ファンドはグローバルな資本市場での運用益で国内トップクラスの大学の財源を確保するのが主眼だ。やがて各大学がそれぞれファンドを設置した際に指針となる運用モデルを示す狙いもあるという。リターン目標は年率4.39%以上で、一定のリスク許容度の範囲でプライベート・エクイティ(PE)やインフラといったオルタナティブ資産にも投資する。杉本氏は「JSTが成熟した機関投資家になるために、アセットオーナーや学術関係者との連携を進めていきたい」と呼びかけた。
基調講演3
「資産運用業の高度化について」
基調講演の最後に、金融庁資産運用高度化室長の安達ゆり氏がスピーチした。日本の投資信託は米国やEUに比べ運用コストが高く、日本の民間金融機関に特有の人事慣行がその要因になっていると指摘した。大手金融グループ傘下の資産運用会社の幹部は、資産運用の経験に乏しい親会社の出身者が占めている例が目立つ。近年は各社が外部から幹部人材を招く動きがみられるものの、依然として取締役会メンバーに女性や外国人が少ない。解決策として、ダイバーシティに富んで新しいアイデアが生まれやすい環境を整える必要があると安達氏は主張した。また資産運用会社への評価は営業力ではなく運用力で測られるべきだと訴え、政府として新興の運用業者への支援を強化していく方針を強調して締めくくった。
資産運用者プレゼンテーション1
資産運用者プレゼンテーション1のセッションでは、国内外のさまざまな資産運用会社6社が、各社の概要や投資哲学・運用の特徴についてプレゼンテーションを行った。
資産運用者プレゼンテーション1に参加したマネジャー
1.Fiducia
2.FINOLAB
3.LUCA Japan
4.Nihonbashi Value Partners
5.IMPAX Asset Management
6.ORIOR Asset Management
パネルディスカッション1
「業界リーダーのビジョンと新興運用業者への期待」
続いて、国内資産運用会社のトップや著名なアセットオーナーを迎えたパネルディスカッション「業界リーダーのビジョンと新興運用業者への期待」では、新興運用業者の潜在力について議論が行われた。わが国の機関投資家は投資先に過去の好実績を求める「トラックレコード至上主義」に陥りがちで、新興運用業者に資金が集まりにくい要因になっているとの指摘が出た。東京が国際金融都市としての輝きを取り戻すために、民間だけでなく政府や自治体など公的機関が軸となって民間資金を呼び込みやすい環境をつくってほしいとの要望があった。
パネリスト
アセットマネジメントOne 取締役社長 菅野暁氏
三井住友トラスト・アセットマネジメント 代表取締役社長 菱田賀夫氏
日本政策投資銀行 常務執行役員 原田文代氏
FinCity.Tokyo EMP Special Advisor 石田英和氏
モデレーター:FinCity.Tokyo 専務理事 有友圭一氏
ファイヤーサイドチャット
「学術研究を通じた資産運用の高度化」
人工知能(AI)を駆使したクオンツ運用に強みを持つ米大手ヘッジファンド、Two SigmaのDavid Siegel共同会長がビデオメッセージを寄せた。ビッグデータの活用によって週間天気予報の精度が上がったように、予測不能と信じられてきたマーケットを予知できる未来は実現可能であると説いた。続いてTwo Sigma Asia PacificのKenny Lam CEOがマイクを握り、データ・サイエンスの進展はESG投資の発展にも貢献すると強調した。
資産運用者プレゼンテーション2
前半に続いて、資産運用者プレゼンテーション2のパートに資産運用会社7社が登場し、各社のキーパーソンが投資哲学・運用の特徴を紹介した。
資産運用者プレゼンテーション2に参加したマネジャー
1.Harrison Street Asia
2.KIWAME INVESTMENT
3.Kuni Umi Asset Management
4.Lighthouse Canton
5.MABE Japan
6.Isono Asset Management
7.Solaris Management
パネルディスカッション2
「大学が取り組む資産運用の高度化とイノベーションの創出」
イベントの最後には有名私立大学の基金やベンチャーキャピタルファンドの担当者によるパネルディスカッションが開かれた。はじめに、パネリストが各大学の運用方針やファンドの概要について説明したのち、新興の資産運用業者についても積極的に活用したいと言及があった。具体的には「トラックレコードがなくても投資の対象になり得る」「特色のある運用で専門性を発揮できる業者を採用したい」といった意向が示された。また、わが国でスタートアップによる社会課題の解決と収益機会の両立を実現させるために、大学の資産運用が果たすべき役割や課題、可能性についても議論が展開された。
パネリスト
国際基督教大学 理事長特別補佐・基金担当理事 新井 亮一氏
早稲田大学ベンチャーズ 共同代表/ジェネラルパートナー 太田 裕朗氏
東京理科大学イノベーション・キャピタル 代表取締役 マネージング・パートナー 片寄 裕市氏
上智大学 特任教授・学長特別顧問 上智学院理事 引間 雅史氏
モデレーター:エミネントグループ 代表取締役社長 小野塚 惠美氏
今回のTAMFは3時間半にも及ぶ充実したプログラムとなり、多くのアセットオーナーにとっては、これまで接点のなかったマネジャーと交流できる貴重な機会となったようだ。ユニークな新興資産運用会社の紹介にとどまらず、国際金融都市としての東京の競争力強化、わが国の資産運用ビジネスの高度化に向けた取り組みや問題意識に触れることができる機会となった。
Tokyo Asset Management Forumの詳細情報はこちら(FinCity.Tokyo 特設ページ)
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