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オル・インVol.61 (2021年9月号)特集
不動産投資の最先端
ニューノーマルで加速するトレンド、広がる投資機会

2021年11月1日

PART.3 ニューノーマルの不動産投資に投資家はどう臨むか

PART1とPART2ではコロナ禍で加速した不動産市場のトレンドと、それにともない拡大しつつある投資機会を紹介してきた。次は視点を変え、投資家の立場からコロナ禍後の不動産市場をどのように理解し、向き合っていけばよいのかを整理していこう。

コロナ禍後の不動産投資で投資家が注視すべきポイントは

コロナ禍で加速した不動産市場のトレンドに上手くキャッチアップするためには、投資家はどんなことに留意すればよいだろうか。そのヒントとして、PIMCOのチェン氏は、特定のセクターに対するコロナ禍の長期的な影響を考えることが重要になると指摘する。

「具体的には、オフィスであれば在宅勤務の傾向が今後どのような影響を与えるか、ホテルでは出張者による利用の回復曲線はどう推移するか、住宅ならば大都市からの人口流出は続くのか、などが挙げられます。新型コロナウイルスは、人々の生活と社会機能にさまざまな変化をもたらしており、投資家はこれらの変化による永続的なインパクトを考慮する必要があります」

長期的な影響という点において、ESG対応の重要性を指摘するのはJLLの内藤氏だ。コロナ禍の影響もあってESGSDGsを意識する企業が足もと急速に増えているが、同社がテナントとオーナーの双方にヒアリングを行った結果、テナントの82%がESG要素を考慮すると回答したのに対して、オーナー側の回答は66%に留まったそうだ。「古いビルの場合、環境対応のために設備投資を行うことに抵抗感を持つオーナーがまだ存在します。しかし、テナント企業がSDGsの一環として、環境認証を取得していないビルから退去するリスクも考えられますから、投資家はポートフォリオの不動産がESGに対応しているかどうかはよくチェックすべきです」。

ちなみにこの調査では、環境認証を取得した不動産であれば「賃料を多く支払う」と答えたテナントが7割程度存在したそうだ。不動産においてESGの要素はリスク抑制のみならず、明確なリターン源泉としても機能することが示された格好だ。

C&Wの鈴木氏は、ESGでは環境に加えてガバナンスの強化が今後の不動産投資において重要性を増していくと考えている。

理由は、コロナ禍を受けても、不動産価格が高止まりを続けているからだ。特に日本国内のオフィスや商業施設のキャップレート(純収益÷価格)はコロナ前から大きく変わっておらず、本当にコロナショックの影響を織り込んでいるのかについては疑問が残るという。「高値掴みとも思える案件も見られ、あまり投資のガバナンスが効いていない部分もあると感じます。不動産運用会社のESGへの取り組みを測る指標も存在しますが、Gについて細かくチェックする項目は未だに整備が不十分というのが現状です。例えば親会社からの物件取得の比率や、物件取得先の親会社の上場有無、グループ間取引時の価格妥当性、鑑定評価会社の採用基準など、取引の実態に関わる部分はチェックされて然るべきです。もっとも、今後はこういった部分が投資家から重点的にチェックされる市場環境になっていくはずです」。

「トレンド」と「サイクル」2つの視点で投資を考える

コロナ禍後の不動産市場では、構造的なトレンドを捉えることが重要になるのは間違いない。しかし、これによってこれまで重視されてきた不動産サイクルの重要性が低下するわけではないようだ。PGIMの川瀬氏は「構造的に追い風かどうか」「不動産サイクルの影響を受けやすいかどうか」によって投資のタイミングが異なることを指摘する。

「例えば、オフィスは企業業績に需要や賃料水準が左右される、サイクルの影響を受けやすいセクターであるため、不動産サイクルの拡大期には好調なパフォーマンスが得られます。コロナ禍前のようなサイクル後期には、来たる下降局面に備えてオフィス投資を減らす動きが生まれますが、現在はコロナ禍からの回復期で成長が見込まれるタイミングなので、コロナ禍前ほどオフィス投資は避けられてはいません。一方、オフィスや商業施設は、フレキシブル・ワークの浸透やeコマースの拡大といった構造的要因の影響を受けやすいため、不動産サイクルの面では良くても長期的には注意が必要なセクターと言えます」

さらに川瀬氏は、「住宅や物流施設は、逆に人口動態やeコマースの拡大といった構造的要因によって長期的な成長が見込まれますが、サイクルという点では大きく上がることも下がることもない、サイクルの影響を受けにくいセクターと言えます」と続け、不動産サイクルによる比較的短期の投資機会と、構造的な要因により長期的な成長が見込まれる投資機会のバランスをとることの重要性を訴えている。

なお、コロナ禍では構造的なトレンドや不動産サイクルとは別に、パンデミックを直接の原因として不振に陥ったセクターもある。観光やビジネス需要が蒸発したホテル、オンライン授業や留学生の移動制限が影響した学生寮、高齢者の医療リスクが一時的に増加したシニアリビングなどだ。こうしたセクターについては、コロナ禍が収束次第、正常化に向かっていくことが予想される。

最先端の投資機会には従来の不動産投資を補完する役割も

低金利環境で世界的にリターンが低下傾向にある中、投資家の不動産投資に対する興味関心はますます高まりつつある。この状況もまた、コロナ禍以前から起こっていた構造的なトレンドがコロナ禍で加速した、と言えるだろう。

一方で、世界的な投資熱の高まりによって投資に順番待ちが出ているという話も聞く。さらに、コロナ禍を経ても一部のセクターではキャップレートの低下が続いていることから、不動産投資から得られるリターンも次第に低下していくと考えられる。

これまで国内投資家の不動産投資といえば、伝統資産を中心としたコア戦略が主流だった。しかし、今回取り上げたケーススタディは、そのような従来の不動産投資に、追加リターンや分散効果をもたらす可能性を秘めている。コロナ禍を経たニューノーマル時代の運用を考える上では、こうした最先端の投資機会の重要性はますます高まっていくはずだ。

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