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経済財政諮問会議で語られた人口減少・AI時代を乗り越える「地域再生と人材改革」の処方箋を第一ライフ永濱氏が解説

2026年5月14日

国内外を覆う不確実性によって景気や市場を見通すことは困難を極めています。そこで国内屈指の著名エコノミストである、第一ライフ資産運用経済研究所の経済調査部で首席エコノミストの永濱利廣氏に、経済・市場の今後を読み解く手がかりになるテーマについて解説していただきました。

※本稿は、5月7日掲載の第一ライフ資産運用経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト、永濱 利廣氏のレポート「経済財政諮問会議(2026年4月27日)解説~「地域の経済社会構築」と「人材力の強化」について~」を抜粋・再編集したものです。

要旨

  • 〇4月27日に開催された経済財政諮問会議では、人口減少社会における「地域の経済社会構築」と、AI時代を見据えた「人材力の強化」という2つの重要なテーマについて民間議員から提言がなされた。

  • 〇持続可能な地域経済社会の構築として、人口減少やインフラ老朽化に対し、「稼ぐ力」と「社会基盤」の両面から戦略が提示された。具体的には、①強い地域経済として、都道府県の枠を超えた広域連携、地場産業の付加価値向上、土地規制の柔軟化や農地集約化などの制度改革の提案。②社会基盤の維持として、将来人口に基づいたインフラ整備の優先順位付けと、AIを活用して業務を根本から変える「AX(AIトランスフォーメーション)1」による行政の効率化。③公共事業評価として、社会的割引率の適時見直しや、多様な経済効果の計測を含めた評価基盤の刷新。

  • 〇AI社会を見据えた人材力の強化として、AIの浸透を前提に、教育と労働市場の再構築が提案された。具体的には、①教育のOS転換として、記憶重視から「課題探究型」へ移行し、自ら問いを立てる「起点力」や「メタスキル」を育成すること、また大学の機能強化と量的規模の適正化。②人材総活躍として、フィジカルAIやロボットの活用による生産性向上、同一労働同一賃金の徹底による不合理な待遇差の是正、リスキリング支援を通じた労働市場の流動化の提言。

  • 〇これに対し、筆者は日本の持続的成長のために、以下の3領域における「聖域なき改革」を提言。①農業の構造改革として、企業の農地取得規制の撤廃、減反政策の廃止と直接補助金への移行、農協モデルの修正による成長産業化。②公共事業評価の刷新として、将来の便益を正しく評価するため、社会的割引率を4%から2%程度へ引き下げること、および非貨幣的価値の評価。③労働市場改革として、選択的週休四日制の普及、定年制の撤廃とジョブ型雇用の徹底、年齢ではなく能力で評価する「生涯現役社会」の実現。

(参考)第5回会議資料:https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2026/index.html#tab0427

1.はじめに

2026年4月27日に開催された経済財政諮問会議では、人口減少社会における「地域の経済社会構築」と、AI時代を見据えた「人材力の強化」という2つの重要なテーマについて民間議員から提言がなされた。そこで本稿では、提出された民間議員ペーパーを基に、諮問会議で議論された内容を紹介する。

2. 持続可能な地域経済社会の構築

高市内閣の掲げる「日本列島を、強く豊かに」の実現に向け、人口減少やインフラ老朽化などの課題を克服するための戦略が示された。

まずは、強い地域経済の構築として3点提案された。1点目は、広域連携の加速として、都道府県の枠を超えた自治体・企業・大学の連携を促進し、地域経済の自律的な発展を目指すとの提案である。また2点目として、既存クラスターを強化すべく、地場産業への新技術導入や海外販路拡大を支援し、付加価値を向上させるべきと提案された。そして3点目として、制度改革として土地規制の柔軟化や農地の集約化を進め、地域の創意工夫を最大限に生かすべきとの提案である。

続いて、持続可能な社会基盤として3点提案された。具体的に1点目は、インフラの予防保全であり、地域の将来人口を見据えて優先順位をつけ、広域で取り組む自治体へ予算を重点配分すべきとの提案である。2点目は、公共事業評価の刷新として多様な経済・雇用効果を計測に含め、社会的割引率も金利変化に応じて適時見直すことが提案された。そして3点目は、自治体DXとAXの推進として、AIを活用して業務を非連続的に変革する「AX(AIトランスフォーメーション)」を大胆に推進し、行政サービスを効率化すべきと提案されている。

3.AI社会を前提とした人材力の強化

2つ目の民間議員ベーパーでは、AIが社会に浸透することを前提に、日本の教育システムと労働市場を根本から再構築する提案がなされた。

まずは、教育のOS転換として3点提案された。1点目が初等・中等教育に関して、記憶重視から「課題探究型」へ転換すべきであり、自ら問いを立てる「起点力」や、学び方を学ぶ「メタスキル」の育成を重視すべきと提案している。続いて2点目が高等教育改革であり、18歳人口の減少に対応し、大学の機能強化と量的規模の適正化を進めるべきとの提案である。そして3点目が全世代型教育であり、 社会人が主体的にスキルを高め、円滑に労働移動できる「単線型教育からの脱却」を目指すべきと提案されている。

続いて、人材総活躍社会の構築として3点提案された。1点目が生産性の向上であり、フィジカルAIやロボットの活用により労働投入量の減少を補うべきとの提案である。続いて2点目が不合理な待遇差の是正であり、「非正規雇用」という呼称による不当な賃金抑制を是正し、同一労働同一賃金を徹底すべきと提案された。そして3点目が労働市場の流動化であり、人的資本投資を促進し、高い生産性を持つ企業への人材移動を促す仕組み(セーフティーネットやリスキリング支援)を総点検するべきと提案されている。

4.筆者意見

筆者は本会議において、日本の持続的な成長に向けて「農業構造の抜本的転換」「公共事業評価の刷新」「労働市場の聖域なき改革」の3点について提言を行った。

まずは、農業の成長産業化に向けた構造改革である。具体的には、現在の日本の農業が抱える規制や補助金制度を「成長を阻む要因」と指摘し、3点の改革を提言した。1点目が農地取得規制の撤廃であり、企業による農地購入を解禁し、不安定なリース方式から大規模・安定経営への転換を促すべきとした。続いて2点目が減反政策の廃止であり、食料安全保障と輸出競争力を強化するため、生産抑制ではなく、直接補助金で農家の所得を補填する方式への移行を主張した。そして3点目が、若者が集まる産業へすべきとして、兵庫県養父市の特区事例を全国展開し、農協の独占モデルを修正することで、農業を先進国型の成長産業に変貌させるべきと述べた。

続いて提言したのが、公共事業における評価基盤の刷新である。具体的には、将来世代が享受する便益を正しく評価するため、インフラ整備の意思決定に用いる「社会的割引率」を見直すべきとして2点を求めた。1点目が割引率の引き下げであり、現行の一律4%は将来の便益を過小評価している懸念があるため、諸外国の基準に近い2%程度へ下げるべきと提案した。続いて2点目が、非貨幣的価値の評価であり、貨幣換算できない効果も含めて適切に評価することで、投資の必要性に関する説明責任を強化し、透明性を高めるべきとした。

そして最後に提案したのが、多様な働き方と「生涯現役社会」の実現である。具体的には、人手不足が深刻化する中、労働投入量と生産性を同時に底上げするための労働市場改革として3点提言した。1点目が選択的週休四日制の普及であり、非正規層の正規雇用化や、リスキリングの時間を確保するインセンティブとして、政府による制度設計の加速を求めた。続いて2点目が定年制の撤廃であり、「定年」を一律の年齢の壁によるスキルの死蔵と批判し、強制退出制度を撤廃してジョブ型雇用を徹底すべきと主張した。そして3点目が社会保障の安定化であり、年齢ではなく能力で人を評価する経済へ移行し、生涯現役社会を実現することで、現役世代の負担軽減と財源の安定化に寄与するとの見解を示した。

1 単なるデジタル化にとどまらず、AIを使って業務の在り方を根本から変えることを指す。具体例として、衛星写真とAIを組み合わせた固定資産税の把握業務の効率化などが挙げられる。



永濱 利廣

永濱 利廣

第一ライフ資産運用経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト

早稲田大学理工学部工業経営学科卒、東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年より日本経済研究センター出向。2000年より第一生命経済研究所経済調査部、16年4月より現職。国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。景気循環学会常務理事、衆議院調査局内閣調査室客員調査員、跡見学園女子大学非常勤講師などを務める。景気循環学会中原奨励賞受賞。著書に『「エブリシング・バブル」リスクの深層 日本経済復活のシナリオ』(共著・講談社現代新書)、『経済危機はいつまで続くか――コロナ・ショックに揺れる世界と日本』(平凡社新書)、『日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか』(講談社現代新書)など多数。