さて、前回は資産クラス編の第3回として、インカム系で日本の年金基金の運用においても急速に普及しているプライベートデット(以下PD)を取り上げました。今回はプライベートアセット(以下PA)投資では歴史も長くその主流となっているプライベートエクイティ(以下PE)について説明したいと思います。
PEは一言で言うと、投資家から集めた資金を用いて未公開株式を取得し、中長期的に経営に関与して企業価値を向上させた後に、株式市場でのIPOや第三者への売却(エグジット)を通じて資金を回収し、高いリターンを獲得することを目的とした投資ファンドです。
本論に入る前に少し横道にそれますが、PEの成り立ちについて簡単に振り返ってみたいと思います。PEの中でも創業期の企業に投資をするベンチャーキャピタル(以下VC)はかなり歴史が古く、現在とほぼ同じ形のVCは1946年にボストンで設立されたARD(American Research & Development)が第1号と言われていますが、その原型はハーバード・ビジネス・スクールのトム・ニコラス教授の著書*1によると、19世紀の米捕鯨産業になるとのことです。捕鯨船の航海には巨大なリスクが伴うものの、運よく捕鯨がうまくいけば莫大な富を生み出すというロングテール型の投資構造*2が現在のVCと同じであり、また、資金を提供する資産家(LPに該当)、捕鯨で一攫千金を狙う船長や船員(投資先企業)、両者をつなぐ捕鯨エージェント(GPに該当)によるパートナーシップが今のVCの構成と類似しているという点を理由に挙げています。
私見にはなりますが、15~16世紀の大航海時代の貿易船、あるいは大航海時代が始まる前に東方貿易を独占していたベニスやジェノバの貿易船もコンセプトは同じだと思いますので、実は中世からVCはあったと言っても過言ではないと思います。当時は一航海ごとに王侯貴族や裕福な商人から資金を集め、航海が終わると利益を関係者で残らず山分けにして一種のパートナーシップを解散していたので、これはクローズドエンド型ファンドの草分けとも言えるのではないでしょうか。
*1 ハーバード・ビジネス・スクール トム・ニコラス教授著「ベンチャーキャピタル全史」による
*2 ロングテール型投資:成功確率は低いが成功した場合の利益は莫大である投資。ニコラス教授の著書では縦軸を企業数、横軸を利益水準とした場合に、VCではグーグルのようにリターン水準が突出した極少数の投資案件が全体のリターンの大半に寄与しているので、グラフの線が釣り鐘型の正規分布ではなく、長いしっぽ(ロングテール)のようになると説明されている。
一方で、PE投資の主軸であり成熟企業に投資をするバイアウトファンドは、1976年に設立されたコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)が最も古い米系のPEファンドと言われており、買収先の資産やキャッシュフローを担保に資金調達を行い、買収を実行可能とするレバレッジド・バイアウト(LBO)の手法を編み出した先駆者になります。以降、米国では次々とPEファンドが設立されてきましたが、以前より米年金基金の主要資産クラスになっています。
PEの投資戦略もバイアウトやVC、グロースなどがありますが、投資形態でもプライマリーやセカンダリー、共同投資など形態はさまざまです。ここから先は前回同様、立場の異なる3人の運用執行理事に登場いただき(架空の人物です)彼らの会話の中でPE投資の留意点を説明していきたいと思います。
A氏:ヘッジ外債のマイナスに頭を悩ませており、PA投資をこれから手掛けようとしている年金基金の運用執行理事
B氏:PA投資を以前から手掛けており、ノウハウの蓄積もある程度進んだ年金基金の運用執行理事でPA投資に対しては積極的
C氏:B氏と同じ経験値ながらPA投資に対してはここのところやや慎重姿勢
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