さて前回は資産クラス編の第2回として、インフラ投資を開始するに当たっての心構えや留意すべき点をご説明しました。今回は同じインカム系のプライベートアセット(以下PA)で、日本の年金基金の運用においても急速に普及しているプライベートデット(以下PD)を取り上げたいと思います。
PDは銀行等の金融機関以外のいわゆるノンバンクが貸し手(レンダー)となる担保付融資を意味しますが、広義には不動産デットやインフラデット、スペシャリティー・ファイナンスなども含まれます。本編ではPDの中心的な戦略であり中堅・中小企業への相対(バイラテラル)での融資を意味する、ダイレクトレンディング(Direct Lending:以下DL)について話を進めていきます。
DLは変動金利が主体であり、投資家にとっては金利上昇によって固定金利の債券のようにキャピタルロスが発生するものではないので、現下の金利上昇時にも安定したインカムゲインが期待できる資産クラスです。
それではここから先は前回同様、立場の異なる3人の運用執行理事に登場いただき(架空の人物です)彼らの会話の中で留意点を解説していきたいと思います。
A氏:ヘッジ外債のマイナスに頭を悩ませており、PA投資をこれから手掛けようとしている年金基金の運用執行理事B氏:PA投資を以前から手掛けており、ノウハウの蓄積もある程度進んだ年金基金の運用執行理事でPA投資に対しては積極的
C氏:B氏と同じ経験値ながらPA投資に対してはここのところやや慎重姿勢
国内でも人気を集めるプライベートデットの仕組み
A氏 前回、インフラ投資について説明いただき大変参考になりました。PA投資も範囲が広くてどこから手を付けてよいかわかりませんでしたが、不動産やインフラのような実物資産は投資対象が形として目に見えるので初心者にもわかりやすく、留意点等も含め理解が進みました。同じインカム系の戦略ではDLも日本の年金基金の間でかなり普及しているようですね。ノンバンクによる中小企業向け融資と聞くと、ちょっとリスクが高いのではと思ってしまいますが、安定したインカムゲインが期待できるのでしょうか?
B氏 DLは債務弁済順位の高いシニアローンから、弁済順位が劣後する代わりに高いスプレッドを享受できるメザニンローン、あるいはメザニンとシニアを一体化したユニトランシェ等がありますが、日本の年金基金が投資しているDLはシニアローンが主体のファンドが大半です。コベナンツ(借り手に対する財務制限条項)もしっかりついており、コロナショックの時も貸倒れになったケースはほとんどないと聞いてます。シニアでも融資のスプレッドがLibor+550~650bp程度なので、ファンド報酬やヘッジコストを控除しても円ベースで5%前後の安定したリターンが期待できるのではないでしょうか。
デット系なので日本の年金基金が投資をする場合は、ほとんどのケースで円ヘッジをかけていると思いますが、その場合のリターンはファンド報酬控除前ではローンのスプレッドからドル円のベーシスコスト(通常は30bp程度)を差し引いたものになります。変動金利なのでドル円のヘッジコストがドル短期金利の上昇で5%近くに上昇しても、投資家のリターンはしっかり確保されています。