さて前回は「プライベートアセット投資の心構え」と題してプライベートアセット(以下PA)投資を開始するに当たっての心構えや注意すべき点をお話ししました。今回からは資産クラスごとに留意すべき点を挙げていきたいと思います。
まずは不動産を取り上げたいと思いますが、不動産は米国においても年金の資産運用において比較的早くから投資対象になっています。不動産そのものはシクリカルな性格を持つものですが、地域やセクターの分散を図れば安定的なインカム収入が期待できる資産クラスです。また、同じ実物資産のインフラと比較すると投資対象となる物件に流動性があり、見た目にもわかりやすいという点も人気の一因かと思います。インフラで米国のパイプライン事業といっても大半のかたはピンとこないでしょうが、港区にあるAクラス*1のオフィスビルというと簡単にイメージが湧くのではないでしょうか。
それではここから先は立場の異なる3人の運用執行理事に登場いただき(架空の人物です)彼らの会話の中で留意点を解説していきたいと思います。A氏:ヘッジ外債のマイナスに頭を悩ませており、PA投資をこれから手掛けようとしている年金基金の運用執行理事
B氏:PA投資を以前から手掛けており、ノウハウの蓄積もある程度進んだ年金基金の運用執行理事でPA投資に対しては積極的
C氏:B氏と同じ経験値ながらPA投資に対してはここのところやや慎重姿勢
*1 Aクラスビル:一般的には都心5区にある延床面積1万坪以上、基準階面積300坪以上の大型ビル、さらに大型で延床面積2万坪以上、基準階面積500坪以上はSクラスに分類される。
不動産投資に期待できる役割とは
A氏 海外の金利上昇でヘッジ外債はさっぱりです。ドルの3カ月物Liborもこのままだと年度末には5%近くになりそうですが、そうなるとドル円のヘッジコストも5%を超える水準になるのでヘッジ外債はキャリーもマイナス、いや~、困りました。
B氏 基金の流動性に問題がなければ今は低流動のPAにシフトするのがよいのでは?価格の変動もパブリック市場の上場物と比べると小さいし、不動産・インフラ・プライベートデットであれば安定したインカムも期待できますよ。
A氏 そうですね、うちも伝統4資産主体から低流動のPAにシフトしていく必要があると思っています。でもPAも色々あって何から手を付ければよいのか・・・
C氏 基本は基金の目標リターンがどのくらいかによると思いますが、平均的な2%台後半の目標リターンであれば、リターンは低めでも安定したインカムが期待できる資産クラスがよいでしょうね。プライベートデットもよいですが、最初に手掛けるなら実物資産がわかりやすいのではないでしょうか。インフラもありますが不動産のほうが身近な存在なので、収益構造やリスクの所在等も理解しやすいと思います。国内の不動産私募REITは都心部のオフィスビルも多数保有してますが、例えば日本橋にある〇〇ビルと言えば簡単にイメージが湧きませんか。
A氏 そうですね。立地とビルのグレードで賃料もだいたいのイメージはつきますし、実際に物件を見られるのは大きいですね。
C氏 国内の不動産私募REITは毎年安定したリターンを計上してますし、米国の私募REITは2021年度にすさまじい利益を計上し、今年度に入っても今のところは順調に推移しているようです。当面は安定したインカム収益が期待できる資産クラスであることは間違いないですが、不動産投資を始めるにあたっては、この資産クラスは本来シクリカルなものであるという認識を持っておくことは必要でしょうね。
B氏 確かに、リーマンショックの時は国内のオフィスビルでも空室率が大幅に増加、賃料も大きく下がりましたね。当時私募REITはまだ組成されてませんでしたが、上場REITの代表的な指数である東証REIT指数は2007年5月31日の最高値2612.98から2008年10月28日には704.46まで下落、悪夢をみているようでした。もっとも最高値の2612は2006年秋の1700辺りから急騰していたので行き過ぎた数値だったんでしょう。それから10年かけて2019年にようやく指数が2000台を回復したのは今でも忘れられないですね・・・といっても恐れていては何もできないし、都心5区のAクラスオフィスビルなどは希少性もあり時間が経てば需要も回復すると思うので、シクリカルであるという点は肝に銘じて「大胆かつ慎重に」という姿勢で投資をするのがよいと思います。
C氏 後で話題になると思いますが、PA投資に共通する点としては分散が重要だと思います。不動産投資でも地域分散、セクター分散がリスク回避という観点で重要ですね。
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