国内企業年金の間で採用が進む各種プライベートアセットだが、解約流動性の低さはもちろんのこと、情報入手の難しさや管理の煩雑さもあり、これらが投資のスタートや拡大に際してのボトルネックとなることも珍しくない。
伝統4資産の収益が低迷する中でもプライベートアセット(以下PA)は昨今、高い収益性を実現しています。筆者の所属する年金基金でも不動産やプライベートデット等PAの安定したインカム収入が債券等のマイナスをカバーしているのが実態です。年金基金の関係者と話していても「債券は金利上昇でマイナスが続きそうなので、収益の安定した低流動のPAにシフトしたい」という話をよく耳にします。
2021年度の資産クラス別のリターンを見ていても米国私募不動産やプライベートエクイティは驚異的なリターンを示していますが、これらは果たして持続可能なものなのだろうかと思ってしまいます。また、日本の不動産私募REITは設立がリーマンショック後だったこともあり、これまで継続して安定的なリターンを実現してきていますが、年6~7%近いトータルリターンが未来永劫持続できるものなのでしょうか?
PAは流動性を犠牲にして、いわゆる流動性プレミアムを享受することで高いリターンを得るものですが、流動性以外にも数多くのリスクを内包しています。市場に起因するリスク以外はマネジャーが上手くコントロールしているため普段は顕在化しにくいのですが、PAはさまざまなリスクを内包しているがゆえに、高いリターンを享受できているとも言えます。本シリーズではPA投資における「心構え」を第1回で紹介し、第2回以降では主要資産クラスごとに投資における留意点をお話ししていきたいと考えています。
幸いにして筆者は年金基金に着任する前にインフラや不動産についてはスポンサーの立場でさまざまな案件に接する機会がありそれなりの知見を得ることができましたが、年金基金での運用経験は5年数カ月、まだまだ駆け出しの域を出ない立場でもあります。運用経験の長い方からすると「そんなこと知ってるよ」ということも多々あるかと思いますが、これから始める方やまだ始めて間もない方に「なるほど、そうだったんだ」という感想を持ってもらえることを主眼に書いていきたいと思いますので、最終回までお付き合いいただけると幸いです。
プライベートアセット投資を始める前に考えること
まずは「何のために投資をするのか?」という投資目的を明らかにする必要があると思います。大きく分けると不動産やインフラのようなインカム系の資産で安定的なインカムゲインを狙っていくのか? あるいはプライベートエクイティのようにリスクはあるがキャピタルゲインを主体に高いトータルリターンが期待できるものに投資し、基金全体のリターン拡大を狙うのか? という目的を明確にする必要があります。これは基金全体の目標リターンを達成するためには、どのような資産構成にすれば良いかというところから決定されるものだと思います。
また、同じデット系でも基金の目標リターンが2%台であれば、シニアローン主体でレバレッジも抑え、円ベースで3~4%程度のリターンが期待できるファンドでも十分だと思いますが、基金の目標リターンがそれよりも高い場合は、同じデット系でもメザニンを一部組み入れ、ファンド自体に多少のレバレッジを効かせて円ベースの目標リターンを5~6%程度に嵩上げする必要があるかもしれません。もちろん、どれを選ぶかはポートフォリオ全体の中で考えていくことになると思います。
プライベートアセットの投資上限をどう考える?
次に「低流動のPAはどこまで投資可能なのか?」という基金全体の流動性を勘案した許容限度枠を大雑把でも良いので考えておく必要があるかと思います。リターンが良いからと闇雲にPA投資に突進し、気が付いたら低流動性資産がポートフォリオ全体の5割を超えていました、では洒落になりません。
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