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特別インタビュー 日本生命保険に聞く団体年金保険一般勘定保険料率改定の経緯

2022年8月16日

安全資産の利回りが乏しい昨今の運用環境において、国内生命保険会社が提供する団体年金保険一般勘定(以下、一般勘定)は多くの企業年金の運用にとって重要な位置を占めているのは間違いない。

そうした中、日本生命保険(以下、日本生命)は2023年4月から一般勘定の保険料率を改定し、予定利率を1.25%から0.50%へ、手数料率の上限を0.50%から0.35%へ引き下げることを発表した。

同業他社が先行して引き下げに踏み切っていることから、運用関係者の間ではかねて他の生命保険会社の追随も予想されていたが、それでも業界最大手である日本生命の予定利率引き下げのニュースは大きな衝撃をもって受け止められた。

今回の保険料率改定にはどのような経緯があるのか、また、運用への影響に対してどのようなサポートを講じているのか、日本生命で法人商品開発課長を務める小谷明央氏と、団体年金コンサルティング課長の飯島貴之氏に聞いた。


法人営業企画部 法人商品開発室

法人商品開発課長
小谷 明央 氏

――今年4月に、2023年度から一般勘定の予定利率を引き下げることを発表されました。まずはその経緯について教えてください。

小谷 従来、金利が低下していく中で、当社としてもお客様とのご契約を継続するため、一般勘定の新規受託については抑制し、クレジット資産などへの投資拡大を進めてきました。

しかし、新たに投資する資産では十分な利回りが得られない状況が続いていますし、過去に投資した債券も満期を迎えていくため、この状況が続けば、将来の予定利率の確保が難しくなる可能性が出ています。

加えて、一般勘定のような利率保証型の商品を将来にわたって安定的に運営し、お客様の運用に貢献していくためには、日本生命の企業としての健全性が確保されていなければなりません。健全性の測り方にはさまざまな方法がありますが、現在金融庁を中心に検討が進められている保険会社向けの新しい資本規制(ソルベンシー・マージン規制)もその1つです。その考え方を踏まえてより中長期的な視点でリスクを管理していく必要が生じていたのです。

出所:日本生命保険


――引き下げを決定されるまでに、御社内でどういった議論があったのですか。

小谷 大きく、なぜ予定利率の見直しが必要なのか、②引き下げの時期や水準はどうあるべきか、③顧客である企業年金や団体にどのような影響があり、それをどう軽減するか、の3点について議論を重ねました。

①なぜ予定利率の見直しが必要なのか、については先述の通りです。②の引き下げの時期については、大きな転機は2016年の日銀によるマイナス金利政策の導入で、これによって運用に対する課題が浮き彫りになりました。この状態が短期間で終われば運用に対する影響も抑えられたのですが、すでに6年以上も継続しています。そうした中で、さらにコロナ禍で経済見通しの不透明感が高まったこともあり、2020年から本格的に引き下げの検討を開始しました。

また、保険会社の長期的な健全性を測るさまざまな指標がありますが、その1つである新しい資本規制の考え方に当てはめた場合、私たちの健全性はまだ十分ではないと捉えています。仮に十分な水準まで高めていこうとするとかなりの期間を要するため、その観点では予定利率の引き下げは早期に進める必要があります。

その一方で、お客様への影響を勘案すれば、引き下げまではある程度の期間を設けなければいけません。発表から最低でも1年程度は必要と考え、2023年の4月から予定利率を引き下げることにしました。

次に引き下げの水準ですが、これも私たちの立場だけを考えれば、引き下げるほど会社の健全性は向上します。しかし、それは決して正しい判断ではありません。お客様への影響も踏まえた上で、私たちが将来にわたって確保できる最大の水準はどの程度なのか、そのようなせめぎあいの下で検討した結果、当社グループの運用力も鑑み0.50%という水準に至りました。

③のお客様への影響については、私たちが予定利率を引き下げることで、直接的にお客様が得られるリターンは低下する可能性があります。その場合、基本的には、お客様のさらに先にいる従業員の方々の将来の年金給付が直接下がるわけではありませんが、その間に立つ企業年金のご担当者様が検討すべき内容は増えることになります。それは運用商品の見直しもあれば、制度の見直しといった議論もあるでしょう。その中でどうすれば影響を緩和できるのか。先述の通り、予定利率の水準を0.50%としたことにともない、最大手数料率も0.50%から0.35%に引き下げることを決定しました。また、お客様の検討する時間を確保するという点では、1年程度が果たして十分かというご意見もありますが、少なくともその期間は確保することにしたのです。

――日本生命グループ連結のソルベンシー・マージン比率は2022年3月末時点で1120.3%と、早期是正措置の発動基準とされる200%を大きく上回っています。この水準を以てしても、新資本規制の下では健全性の維持が難しいのでしょうか。

小谷 社内で議論が進む中で焦点となったのは、新たな規制をクリアできるかどうかというよりも、健全性の尺度が非常に多岐にわたるということでした。これまでの健全性の尺度も決して間違っているとは思いませんし、現在検討が進んでいる新しい規制の考え方も正しいと思います。あるいは、今後さらに別の健全性の尺度が出てくる可能性も否定できません。

ただ新しい資本規制で特徴的な点は、将来にわたって収支がどう推移していくのか、具体的には将来予想できる損失がある場合は、それらを経済価値(時価)で評価して加味するという考え方です。保険会社の契約は長期にわたるものが多く、それを正確に評価するか否かで健全性の捉え方は大きく変わります。新しい規制がベストかどうかはわかりませんが、現状よりもベターな面があることは確かです。そうした議論を踏まえて私たちはリスクを管理すべきと判断し、今回の結論に至っています。

結果としてお客様にはご迷惑をおかけしていますが、当社グループが健全かつ安定的な経営を続け、お客様に長期にわたって貢献していくうえでは、避けられない判断だったと思います。

――現在の市場環境を踏まえると、0.5%の予定利率を維持しながら成果に応じて配当を出すというのは、高い運用力の裏返しと見ることもできます。

小谷 当社の配当の考え方として、比較的安定的に推移するインカム部分の利回りと、時価変動的な要素によるキャピタル部分の利回りに大別して、2つの要素を加味しながら配当水準を決定しています。足もとの市場環境はボラタイルなので、時価変動部分を考慮に入れると配当も変動しがちです。

そうした中、運用については、低金利環境下においても利回りを確保していくため、円金利資産の長期化やクレジット資産の積み増し、オルタナティブ資産を中心とした国際分散投資の推進などに取り組んでいます。また、グループ全体の資産運用態勢を強化すべく、グループ会社のニッセイアセットマネジメントに運用機能の一部を移管しています。日本生命は2021年3月に、大樹生命は20223月に、クレジット・オルタナティブ運用機能とその運用人材をニッセイアセットマネジメントへ集約しました。グループで一体となることで、効率よく、かつ知見も集約しながら発展的に運用ができる体制を整えています。

足もとの市場環境には不透明な部分が多く見通しも難しいですが、高い配当利回りの確保を目指して運用の工夫を続けていきます。

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