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デジタル資産の現状と未来

2022年4月22日

【Part2】
「暗号資産」が「デジタル通貨」へと飛躍する可能性

海外・日本国内の活用状況

日本におけるデジタル通貨の活用状況

牧野 後段では、仮想通貨や暗号資産というカテゴリーからもう少し範囲を広げて、

デジタル通貨全般を見ていきます。最近では、「中央銀行デジタル通貨(以下CBDC)」が話題になることも多く、かなり注目度が上がってきました。CBDCを含めたデジタル通貨の動向は、今後の暗号資産のマーケットにも大きな影響を及ぼすと想定されます。そこで、まずは改めてデジタル通貨の定義について押さえたいと思います。

 

小野 前段で申し上げた通り、デジタル通貨は、「インターネット上でやり取りされる通貨」と言うことができます。広い意味では、電子マネーやスマホにチャージができるポイントなども含まれます。ただし、ここが重要なのですが、広義のデジタル通貨の中で、CBDCや暗号資産に言及するときは、電子マネーとは区別しておくことが必要です。電子マネーは、あくまで国が発行する法定通貨の代わり、つまり代替物です。お金のように使うことは可能ですが、当然、お金ではありません。例えば、電子マネーを決済手段として使われた店舗は、受け取った電子マネーをお釣りにしたり、仕入れの代金として使ったりすることはできません。店舗側にしてみれば、クレジットカードと同じく、電子マネーの発行元から現金を振り込んでもらうことになります。

 

牧野 あと、電子マネーを使用するときは、あらかじめ現金を電子マネーに変換しておく必要がありますが、いったん電子マネーにすると、基本的に現金に戻すことはできません。一部、銀行口座に戻して出金できるタイプもありますが、その際は手数料がかかります。

 

小野 これに対して、デジタル通貨は、通貨そのものですから、お釣りとして使ったり、銀行口座に入金したり、他人に送金をすることができます。デジタル通貨を受け取った人は、それを通貨として使えるのです。私は、デジタル通貨というよりも「電子信号通貨」と呼んだ方がいいのではないか、その方が電子マネーと区別しやすいと思っています。

 

牧野 そうした電子マネーとは異なるデジタル通貨は、すでに国内でも発行されていますね。代表的なのは、みずほ銀行の『J-Coin』でしょうか。あと、三菱UFJ銀行も早くから『MUFG coin』の開発をしていて、試験段階にあることが報道されています。

「デジタル地域通貨」はブームの様相

小野 実は、地銀や信金といった地域金融機関では、実用化している例が多数あります。その先駆けの成功例としてよく紹介されるのは、岐阜県の飛騨信用組合が運営している『さるぼぼコイン』でしょう。他にも千葉県の木更津信用組合の『アクアコイン』や鹿児島銀行の『Payどん』など、現在では相当な数に上っています。こうした地域で発行されるデジタル通貨のことを、デジタル地域通貨などと呼んでいます。

 

牧野 デジタル地域通貨の場合、現金化することはできません。地域で流通するお金を増やすことが最大の目的といえます。経済を活性化させるための、地域振興の一環として捉えられるでしょう。また、ビットコインの基幹技術であるブロックチェーン(分散型台帳技術)を活用しているタイプも増えています。

 

デジタル通貨のインパクト

小野 金融機関にとっては、デジタル通貨を発行するメリットはまだあります。大幅なコストの削減につながるからです。例えば、銀行のATMの本体価格は1300万円程度、設置するスペースの賃料やメンテナンス費、現金輸送などの人件費を含めた経費は、年間で700万円という試算もあります。銀行業界全体で年間2兆円に上るとみられるこれらのコストは、通貨や紙幣という現金を扱うことに起因しています。仮に、すべての現金をデジタル通貨に置き換えた場合は、こうしたコストも削減できます。おそらく、現在のネットバンキングよりも少し多い程度のコストで済むでしょう。

 

牧野 デジタル通貨になれば、銀行は紙の通帳も廃止できますし、国内の銀行や信用金庫の預金口座数は、合計で約9億と推定されているので、印紙税だけでも巨額です。デジタル通貨にして、エクセルのような形式で口座の履歴を保存できれば、このコストも不要になります。

 

小野 同じことが中央銀行にも当てはまります。中央銀行が現金を扱うためのコストは膨大で、よく言われるのが、硬貨の製造原価です。例えば、造幣局が作る1円玉1枚当たりの製造原価は、約3円と言われています。5円玉は約10円、10円玉は約13円とされています。10円玉などは、年間で2億枚近く発行されることもあり、しかも、その輸送にも人件費などがかかります。中央銀行がCBDCを発行する動機は十分にあります。

 

中央銀行デジタル通貨は歴史の必然

牧野 すでに、海外ではかなりCBDCの研究開発が進んでいますよね。

 

小野 各国で研究開発が進む中、最も実用化が早そうなのが中国人民銀行の『デジタル人民元』でしょう。中国政府は、以前からCBDCに積極的に取り組んでいて、先の冬季北京五輪でも選手村などで実証実験が行われました。

 

牧野 日銀もやっていますよね。

 

小野 日銀は、2016年に決済機構局に『FinTechセンター』という部署を設置し、CBDCに関するレポートを発表したり、欧州中銀との共同プロジェクトに参加したりしています。そして、202111月には『中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み』というレポートを発表し、新たな実証実験を開始することを明らかにしました。

その実証実験は、すでにスタートしています。通貨の歴史を振り返ってみると、いつの時代でも、そのときの最先端の技術で作られているんですね。貨幣は鋳造技術が背景にありますし、紙幣は印刷技術や製紙技術が凝縮されています。日本の紙幣のホログラムは、ニセ札の製造を防止するための印刷技術の結晶といえます。そうした過去を踏まえれば、通貨や貨幣をデジタル化することは、必然だと言えるのではないでしょうか。

その場合の条件は、当然通貨としての各条件を充足し、かつ、コンピューターシステム、特にサーバーシステムを含むセキュリティの確立や取引のトレーサビリティシステムの運用体制、並びに個人情報の取り扱いについての信認が要求されることとなると思います。

 

暗号資産はアセットクラスになりうるか?

ポートフォリオの分散効果の効率化に必要な存在に

牧野 今後、暗号資産が新たなアセットクラスとして機関投資家の投資対象となり得るのかどうか、という点が気になるところです。

 

小野 少し前までビットコインは「デジタル・ゴールド」などと呼ばれていました。金は、金利が付かず配当もないので、アセットクラスとしてはビットコインと金が近いということを表現したと考えられます。つまり、ビットコインへの投資は、株や債券といった伝統的なアセットクラスを補完するオルタナティブ投資という位置づけです。

 

牧野 以前から、株や債券だけのポートフォリオでは、効率的な分散効果が得にくくなっている、ということが機関投資家共通の問題として浮上していました。ビットコインなど暗号資産への投資は、それを解決するためのひとつの手段というわけですね。

 

小野 しかも、ビットコインは金よりも株や債券に対する相関が低いことがわかってきています。したがって、今後は、ビットコインを始めとする暗号資産への投資が増えるとみる方が自然でしょう。

 

牧野 暗号資産の〝実用性〟も注目されていますよね。ビットコインに次ぐ取引高となっている『XRP』は、国際送金のコストを劇的に引き下げる機能を持っています。そうした側面が評価されることで、暗号資産に対する見方が変わってくる可能性があります。

ステーブル化でビットコインはどうなる?

小野 暗号資産にとって、将来的に大きなテーマとなるのは、法定通貨へのステーブル化でしょう。CBDCが実用化され、実際に流通するようになると、ビットコインを米ドルなどにステーブル化させるという議論が起きてくると予想されます。前段でお話ししたステーブル化が、ビットコインなどのメジャーな暗号資産において、どの段階でどういう手法で行われるかは市場全体に非常に大きな影響を及ぼすはずです。

 

牧野 ステーブル化が行われれば、暗号資産が通貨として流通することになりますね。中南米に位置するエルサルバドルは、世界に先駆けてビットコインを自国の法定通貨としましたが、現状、なかなか安定せず混乱が続いているようです。もし米ドルとステーブル化するようなことがあれば、自国通貨を持っていない国が追随するかもしれません。

 

小野 同時に、これまで捕捉されていなかったビットコインを炙り出すことができます。現在世界でどのくらい流通していて、誰が大量に保有しているのかが明らかになるでしょう。

暗号資産の特徴は発行元と発行高が明確でないことであり、確認の方法がないことです。極端かもしれませんが、いずれビットコインをはじめとする暗号資産はステーブル化し、その形態に変化が生じてくるのではないかと、私は常々考えています。

 

牧野 ステーブル化されてしまうと、ボラティティが抑制され、通貨として使えるようになることはポジティブですが、投資対象としてはリスク資産としての魅力が減少する側面もあると思いますが。

 

小野 私もそう思います。おそらく、すでに暗号資産に投資している投資家は、ボラティティが高い内に保有しておきたいという思惑があるのではないでしょうか。

コモディティとして暗号資産を捉え、暗号資産同士の交換やカスタマイズインデックスを活用した、ポートフォリオ組み入れ型の資産運用型投資は考えられると思います。

 

牧野 その意味でも、注目すべきアセットクラスとして市場での動向をフォローする必要がありますね。

 

JDR.株式会社 取締役会長 小野明夫氏

前S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス
日本オフィス統括責任者 牧野義之氏   
(取材日:2022年2月16日)

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