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低金利がもたらした運用難の歴史
企業年金と歩む一般勘定の行方

2021年3月29日

2020年6月に弊誌が実施した「年金プロダクト需給調査」では、国内年金の実に約8割が生保一般勘定に投資しており、さらにポートフォリオにおける平均配分比率は2割を占めていた。低金利環境下でも利回り保証の付いた一般勘定が、年金にとって欠かせない存在となっていることがわかる。

そんな中、2020年10月に大手生命保険会社の第一生命は、21年10月以降は一般勘定の予定利率を1.25%から0.25%へ引き下げると発表した。この引き下げは、同社に資金を預ける国内企業年金の資産運用に大きな影響を与えることになるだろう。そこで、生保一般勘定の歴史を振り返りながら、今後の展開について見通していきたい。

時代とともに運用の中身や予定利率の水準も変化してきた一般勘定

日経平均株価が実に30年ぶりに3万円の大台を回復し、異次元の金融緩和や財政政策を背景に、リスク性資産への支持はなおしばらく続きそうだ。一方で、いずれ訪れる金融正常化や極端な緊縮政策(いわゆる財政の崖)に対する懸念もあり、市場の急変に一抹の不安を覚える向きも少なくないだろう。

「今後の下落を見据えるならば、利回りが保証される一般勘定にいっそう期待が高まるのではないでしょうか」と、ニッセイ基礎研究所金融研究部の研究理事で年金総合リサーチセンター長の徳島勝幸氏は語る。

現在、生保各社から提供される一般勘定の利回りは1.25%程度と、国内外の金利水準から見ても相対的に高い水準が維持されている。しかしながら、一般勘定への投資額を増やそうにも、2010年頃から新規の受託は停止されている。国内金利がゼロ近傍で固定されている現状においては、生保とて運用難にあえいでいる実体が垣間見える。

企業年金とともに歩み運用を支えてきた一般勘定

ここで改めて、生保一般勘定の成り立ちとその歩みを振り返ってみよう。戦後、経済成長が進むに伴い退職金・年金制度に対する企業の関心が高まり、生保、信託業界もその設立の必要性を関係各所に訴えていた。1966年には厚生年金基金が発足して日本の企業年金制度が本格的に動き出す中で、それに対応するべく生保各社は一斉に厚生年金基金保険(=一般勘定)の販売を開始する。

当初の予定利率は5.5%でスタートしたが、当時の金利水準を考えれば特に大きな問題はなく、むしろ関心はインフレへの対応に向いていたため、1970年代には実績還元型の商品である変額保険(=特別勘定)の導入に関する議論が活発化する。

業界内でも議論はあったようだが、1988年になると一般勘定と分別管理して運用するスキームとともに特別勘定が誕生し、1990年からは厚生年金基金にも導入された。

ところが、バブル崩壊とともに日本の金融政策は一転して緩和を迫られ、事態は急変する。市中金利の水準が、一般勘定の予定利率5.5%を割り込む事態となったのだ。

個人年金とは違って、団体年金保険では契約が存続する限り利率を保証し続けなければならず、国内金利と予定利率の乖離が続けば保険会社の存続にも関わる。実際、1990年代後半以降には生命保険会社の破綻が相次いだ。1991年度には一般勘定における資産利回りが5.5%を下回ることになったが、当時は政令に予定利率の水準が5.5%と記載されていたため、すぐさま国内金利水準に追随することができなかったからだ。

1994年4月になり、ようやく一般勘定の予定利率は5.5%から4.5%へと下がったが、そこからは国内金利と歩調を合わせて数年ごとに予定利率の水準が低下していく。1996年には2.5%へ、1999年に1.5%、2002年にはさらに.25%へと一気に下落していった。ここでようやく下げ止まった予定利率は、2010年代からの受託停止と引き換えに、現在までこの水準が続いている。ちなみに政令による一般勘定の予定利率の規定は、1996年に削除された。

市場環境や社会情勢を反映して、運用の中身も年を追って変化してきた。戦後の経済成長が著しかった1960年代は、旺盛な資金需要に対応して貸付による運用が6割近いシェアを誇っていた。残りのほとんどは株式が占め、債券は影が薄かった。しかし貸付は徐々に比率を減らし、1980年代後半からは公社債や外国証券の比率が高まっていく。2000年代に入るとその流れはさらに加速、今では債券や外国証券がポートフォリオの70%近くを占めており、
株式は全体で10%にも満たない。

利率の引き下げが不可避なら一般勘定の行方はどうなる?

この20年近くは大手生保の間で予定利率が安定してきたが、2021年に至り、ついにその均衡が崩れることになった。現時点では第一生命のみが利率の引き下げを予定し、他生保はしばらく静観の構えを見せているが、各社に波及する可能性はないのだろうか。

利率を保証するという商品設計上、リターンの上積みを狙って過度にリスク量を増やすわけにもいかない。現環境と合わせて考えれば、今後どの生保が予定利率を引き下げてもおかしくはないだろう。配当が出ているうちは多少の安心感があるとはいえ、第一生命の場合は2019年度に0.14%の配当を出していた。

「現在の一般勘定の運用は、後にそれを模して作られたマルチアセット戦略と近いものになっており、運用が困難なことに変わりはありません。今の運用はそれぞれが過去に積み上げてきた、いわば遺産の中でなんとかしているのではないでしょうか」と徳島氏は語っている。それでは、各社が引き下げに追随した場合に備え、年金としてはどう身構えておくべきだろうか。

これについて徳島氏は、「年金サイドが一般勘定をどのような目的で使っているかにもよる」と言う。まずは給付の原資などキャッシュと同様に一般勘定を使っている場合だが、本来的にはキャッシュのリターンが0であることを考えれば、運用に直接大きな影響があるとは思えない。しかし円債代替として使用していた年金にとっては、対応策の選定はきわめて難しく、本号の特集記事などが参考になれば幸いだ。

そしてマルチアセットと同じような位置づけとして使っている場合には、配当部分がどの程度の水準になるかを確認することだ。仮に利率が引き下げられたとしてもマイナスリターンにはならない点は変わらず安心材料で、その上で配当部分の設計がどうなっていて、どの程度のリターンの上乗せができるかが重要になるだろう。

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第一生命が語る一般勘定の予定利率引き下げの経緯

 

 

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