日本政策投資銀行傘下のリサーチ・コンサルティング会社価値総合研究所とニッセイ基礎研究所は、このたび共同で「わが国の不動産投資市場規模」と題する調査結果を公表した。投資家の間でプライベートアセット投資熱が高まる中、国内不動産市場は現在どんな状況にあるのか。価値総合研究所の室剛朗氏と北川哲氏に話を聞いた。
――今回の調査の目的と、その概要を教えて下さい。
これまで日本を含め世界の不動産市場を説明する際、中心になるのは取引のボリュームで、その国の本当の市場規模がどれくらいで、それに対してどの程度投資が進んでいるのか、そういった情報は不足していたのです。はたして、このような状況で投資家が日本の不動産運用について適切に投資判断を下せるのか、あるいは政策として国内外から投資家を募ってマーケットを発展させていくという目的があるとすれば、その基礎となる情報があるのか――そのような思いをきっかけに、ニッセイ基礎研究所と共同で調査をスタートしました。
現在政府は収益不動産の市場規模の推計値を利用していますが、その推計手法はGDPに一定の数値を掛け合わせて求めるトップダウン・アプローチに拠るものです。この場合、同じ尺度で各国の不動産市場を比較できるメリットがありますが、一国の市場を細かく分析していくのは困難です。そこで、私たちの調査では個別不動産の積み上げによるボトムアップ・アプローチを採用することにしました。
推計方法は収益還元法に基づきます。具体的には、統計情報をもとに国内不動産の床面積を積算し、そこにJ-REITなどが公表しているレンタブル(賃貸可能面積)比、平均賃料、平均稼働率、平均コスト比率を掛け合わせてNOI(ネットオペレーティングインカム、純収益)を算出します。そしてNOIをキャップレート(還元利回り)で割ることで、資産価値を導き出しています。
――公開情報を駆使し、個別不動産から市場規模を推計したわけですね。それでは現在の国内不動産市場はどのくらいの規模で、どこまで証券化が進んでいるのですか。
推計の結果、現在日本国内には総額にして272兆円の収益不動産が存在すると考えられます。そのうち、これまで投資対象とされてきた立地や築年数、床面積などでスクリーニングをかけた「投資適格不動産」の規模は171兆円です。現在のJ-REITの市場規模が約23.3兆円、私募ファンドと私募REITを合わせた規模が約21.1兆円なので、投資適格不動産の26%が何らかの形で証券化されていることになります(図1)。
この推計のメリットは、統計データの範囲であれば用途や立地、築年数など、細分化して分析できることです。例えば図2は収益不動産をセクターに分解し、J-REITと比較しています。右側の円グラフでは外側が収益不動産全体のセクター別比率、内側がJ-REITのセクター別比率で、双方の比較からJ-REIT市場ではオフィス、ホテル、物流施設の証券化が比較的進んでいると捉えることができます。
左側は資産額ベースでどれだけ証券化が進んでいるかを示しています。ここでの数値はJ-REITのみですが、私募ファンド・私募REITが同じセクター配分で物件を保有していると仮定すれば、収益不動産に占める割合もおよそ2倍となりますから、物流施設やホテルについては3割前後が証券化されている可能性があります。一方で住宅と商業施設はまだあまり証券化が進んでいないと見ることもできます。
図3はオフィスの収益不動産が日本のどこに、どれだけ立地しているかを示したもので、東京に59%が集中し、次いで大阪に9%、神奈川に5%が所在してします。
さらに対象を「投資適格不動産」に絞ると、上位3都市は東京23区の76%、大阪市9%、名古屋市3%の順になります。このように不動産市場をわかりやすく視覚化することで、投資家の方にとってより実感を伴った情報となり、投資の際に合理的な説明ができるようになるのではないでしょうか。
――市場に拡大余地は残るとのことですが、いま以上に投資家の資金を受け入れるにはどんな手段が考えられますか。
1つは投資対象の拡大です。日本でも物流施設やシニアリビングなどへと投資対象が広がってきた歴史がありますが、この動きがもっと進めば自然と市場は拡大していくはずです。
もう1つは既存セクターの中で物件を選別し深掘していくことです。これまでは、本来投資適格の都市や不動産であっても「わかりやすさ」を重視するあまり切り捨てられてきたところがあると思います。もっと細かく市場を分析して投資対象を探っていけば、市場拡大の余地は残っています。
こういった観点から、本調査の結果を利用できるのではないかと考えています。今後のマーケットメイクに資する情報を提供できるように、シニアリビング、データセンター、林業分野、公的不動産などへと調査領域を拡大していく考えです。
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