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【オンラインセミナー・レポート】
Tokyo Asset Management Forum2021

2021年3月31日
/ FinCity.Tokyo 

東京都が掲げる「国際金融都市・東京」構想のプロモーションを担う一般社団法人東京国際金融機構 (以下、FinCity.Tokyo)では、2月24日(水)にオンライン形式のイベント「Tokyo Asset Management Forum2021」を開催した。

行政関係者のほか、大手および新興の資産運用会社、先進的な大学基金やベンチャーキャピタルなど、わが国の資産運用に関わる多様なスピーカーが出演し、それぞれの視点からのプレゼンテーションやパネルディスカッションが展開された。

弊誌『オル・イン』もメディアパートナーとして参加したこのフォーラムの模様をダイジェストで紹介する。

はじめに

2008年の金融危機以降、日本の年金・機関投資家が投資する対象資産・手法がそれまでと比べて大きく広がっている。特に企業年金の間では、それまでの株式リスクに依存したポートフォリオを見直す過程で、多くの企業年金が株式比率を大幅に引き下げてきた。

とはいえ、歴史的な低金利環境の中で債券中心の安全資産でポートフォリオを固めてしまうと予定利率の達成もおぼつかなくなるため、オルタナティブ資産への分散に活路を見出す傾向が鮮明化している。とりわけ、流動性を犠牲にし、非流動性プレミアムの獲得を目指す「プライベートアセット」への投資が特に関心を集めている。

この10年余りの間で投資対象資産・手法が従来に比べて大幅に広がっていった半面、新たなマネジャーの発掘という面では依然として課題が残ると言えるだろう。法律面や資金規模など、日本ならではのさまざまな制約もあって、信託銀行や大手投資顧問が取り扱うマネジャーの中から投資するマネジャーを選択しているのが多くの企業年金の実情だろう。

一方で世界を見渡すと、日本には「未上陸」の優れたマネジャーも数多く存在し、日本国内においても、大手金融機関から独立した有能な運用者が自ら運用会社を設立する動きも見られる。

そうしたマネジャーとアセットオーナーとの出会いの場がもっと提供されることで、日本の企業年金をはじめとするアセットオーナーの投資対象の拡大も、進んでいくのではいだろうか--

そうした問題意識のもと、FinCity.Tokyoでは創設以来定期的に、新興マネジャーとアセットオーナーとのネットワーキングの機会である本フォーラムを開催してきた。新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われた状況も踏まえ、2020年度はオンライン形式の開催となったが、事前に540名を超える参加申込が寄せられるなど、関係者間の関心の高さがうかがえる。

開会のご挨拶 東京版 Emerging Managers Program の紹介
「Tokyo Asset Management Forum 2021」

一般社団法人 東京国際金融機構 専務理事 有友 圭一 氏

フォーラムの冒頭、FinCity.Tokyoの専務理事を務める有友圭一氏が「東京版Emerging Managers Program の紹介」をテーマに開会挨拶を行った。

国内の独立系新興資産運用会社及び海外から日本市場への参入を目指すアセットマネジャーへの各種サポートや、諸外国と比べて総じて保守的とされる国内アセットオーナーにインスパイアを与える活動、独立系マネジャーとアセットオーナーとの交流の機会を設けること、といった本フォーラムの開催目的を説明した。

加えて有友氏は、FinCity.Tokyoから政府への提言の活動や進捗状況を報告したほか、日米における公的年金のマネジャーエントリー制度の違いや、わが国企業年金基金を取り巻く複雑な規制環境について問題提起を行った。

続いて2つの基調講演が行われた。

基調講演① 「国際金融都市・東京」構想

東京都 戦略政策情報推進本部 国際金融都市担当部長 三浦 知 氏

初めは東京都の戦略政策情報推進本部で国際金融都市担当部長の三浦知氏による「『国際金融都市・東京』構想」と題した講演。2017年11月に策定した「国際金融都市・東京」構想について、本フォーラムの主催者でもある官民連携の金融プロモーション組織「FinCity.Tokyo」の設立や英国シティ・オブ・ロンドンとの連携協定の締結といった一連の活動が紹介された。

また東京市場に参入するプレーヤーの育成に関する取り組みとして、ミドル・バックオフィス業務の外部委託費用等に係る補助金の支給などの取り組みを説明。さらに、2021年度に向けた新たな活動としてフィンテック支援ファンド(仮称)の創設や、国内外からESG投資の資金を集める「Tokyo Green Finance Market(仮称)」の構想についても披露した。

基調講演② 資産運用の高度化について

金融庁 総合政策課 資産運用高度化室長 安野 淳 氏

2つ目の基調講演では、「資産運用の高度化について」をテーマに金融庁総合政策課の資産運用高度化室長、安野淳氏が登場。2014年9月に公表した「金融モニタリング基本方針」で資産運用の高度化を重点施策の一つとして掲げ、金融商品の開発・販売・運用を行う金融機関に対してフィデューシャリーデューティを果たすことが必要であると打ち出してきたことなど、金融庁が進めてきた資産運用の高度化に向けた一連の政策について説明した。

資産運用者プレゼンテーション①

その後、資産運用者プレゼンテーション①のセッションでは、国内外のさまざまな新興資産運用会社9社が、各社の概要や投資哲学・運用の特徴をプレゼンテーションした。1社3分程度と限られた時間ではあったものの、個性豊かなマネジャーが各々の強みをアピールしていた。

資産運用者プレゼンテーション①に参加したマネジャー

  1. GMO
  2. アミュレット キャピタルマネジメント
  3. ありあけキャピタル
  4. GO ファンド
  5. HOKU
  6. Mirage Mountain Technologies
  7. オリオール・アセット・マネジメント
  8. シルク・キャピタル
  9. susten キャピタル・マネジメント

基調講演③サステナビリティ・トランスフォーメーション

環境省 大臣官房環境経済課 環境金融推進室 室長 近藤 崇史 氏

本フォーラム後半のオープニングは、「サステナビリティ・トランスフォーメーション」をテーマにした3つ目の基調講演で、環境省の大臣官房環境経済課、環境金融推進室室長の近藤崇史氏がスピーチを行った。

冒頭、近藤氏は、国連が提唱するSDGsの諸テーマを「ウェディングケーキ」に例え、経済、社会、環境の3つの側面を調和させるべきSDGsの達成にはそれぞれが相互に連関しつつ、同軸にあるべきで、ウェディングケーキのように重層的な関係にあるべきではないかと訴えた。

さらに、経済は社会の上に、社会は環境の上に成り立っているため、経済がバランスを欠けば環境や社会に悪影響が及び、環境問題が深刻化すれば社会・経済をも脅かす関係にあるとの問題意識を共有した。

加えて、一連の課題解決に向けてSDGsやESG投資を進めていく際には、経済を犠牲にした慈善活動として取り組むものではなく、各企業の本業の戦略に価値向上に利用されるべきものではないかと問題提起した。

そのうえで、日本国内で頻発する気象災害やコロナ禍の影響をふまえ、ウィズコロナ・ポストコロナの状況下では、脱酸素社会・循環経済・分散型社会へと移行していくことが求められており、そのためにESG金融の促進、グリーンボンドの発行促進など、環境省としてもさまざまな政策を推進していると強調した。

パネルディスカッション① 大学基金運用の高度化に向けて

パネリスト

国際基督教大学 常務理事 新井 亮一 氏

東京理科大学インベストメント・マネジメント株式会社
代表取締役社長 片寄 裕市 氏

株式会社東京大学エッジキャピタルパートナーズ 取締役/パートナー 坂本 教晃 氏

モデレーター

カタリスト投資顧問株式会社 取締役副社長 小野塚 惠美 氏

続いて、「大学基金運用の高度化に向けて」と題したパネルディスカッションが展開された。

海外では年金基金などと並んで、大学などの教育機関が寄付金をもとに基金を設立し運用する「エンダウメント」も、主要なアセットオーナーの一角を担っているが、日本国内では資産運用に積極的に取り組む学校法人はごく一部にとどまっている。

本パネルではパネリストとして、先進的な取り組みで知られる国際基督教大学の常務理事、新井亮一氏のほか、東京理科大学の大学基金の運用に加え事業会社の経営、ベンチャーキャピタルファンドの運用も手がける東京理科大学インベストメント・マネジメントの代表取締役社長、片寄裕市氏、さらに、東京大学をはじめとする教育・研究機関の人材・技術を活用したベンチャーキャピタル投資を手がける、東京大学エッジキャピタルパートナーズの取締役/パートナー、坂本教晃氏が登壇。モデレーターを務めたカタリスト投資顧問の取締役副社長、小野塚惠美氏による進行のもと、運用高度化に向けた大学基金の体制、ポートフォリオ、エコシステムの構築や国内のテックベンチャーの存在感について紹介された。

資産運用者プレゼンテーション②

その後、前半に続いて2度目の資産運用者プレゼンテーションが行われ、海外で実績があり、日本進出して歴史が浅い、またはこれから進出を予定している資産運用者8社の関係者が、各社の特色をアピール。前半のプレゼンテーションと同様、多彩な投資哲学・運用手法が各社から披露された。

資産運用者プレゼンテーション②に参加したマネジャー

  1. Actelligent Capital Management Limited
  2. AIP Asset Management Inc.
  3. Mayar Capital
  4. Northleaf Capital Partners
  5. Octopus Investments
  6. オービス・インベストメンツ株式会社
  7. ティケオー・インベストメント・マネージメント・ジャパン株式会社
  8. Vertex Holdings

パネルディスカッション② 資産運用業界の未来への提言

パネリスト

アセットマネジメントOne 取締役社長 菅野 暁 氏

三井住友DSアセットマネジメント 代表取締役社長兼CEO 猿田 隆 氏

三井住友トラスト・アセットマネジメント 代表取締役社長 菱田 賀夫 氏

三菱UFJ信託銀行 常務執行役員 大森 治朗 氏

モデレーター

FinCity.Tokyo 専務理事 有友圭一 氏

本フォーラム最後のセッションは、国内大手資産運用会社や信託銀行関係者によるパネルディスカッション「資産運用業界の未来への提言」が展開された。

アセットマネジメントOneの取締役社長、菅野暁氏、三井住友DSアセットマネジメントの代表取締役社長兼CEO、猿田隆氏、三井住友トラスト・アセットマネジメントの代表取締役社長、菱田賀夫氏、三菱UFJ信託銀行の常務執行役員、大森治朗氏をパネリストに迎え、FinCity.Tokyoの専務理事、有友圭一氏がモデレーターを務めた。

国内業界において求められている競争力向上、これに関わるものとしてEMPの充実、目利き力の必要性等について語られた。また、デジタルプラットフォームも活用した、個人投資家によるEM拠出の可能性や大手金融グループによるopen platform化の可能性についても議論された。

「Tokyo Asset Management Forum2021」は3時間にも及ぶ充実したプログラムとなり、多くのアセットオーナーにとっては、これまで接点のなかったマネジャーに触れる貴重な機会となったのではないだろうか。さらに、ユニークな新興資産運用会社の紹介にとどまらず、国際金融都市としての東京の競争力強化、わが国の資産運用ビジネスの高度化に向けたさまざまな取り組みや問題意識に触れることができる有益な機会となった。

今後もFinCity.Tokyoの活動に注目していきたい。

FinCity.Tokyo 

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