さらなる分散効果が期待される農地・森林投資だが、実際にポートフォリオに組み入れている国内投資家は多くはない。そんな中、日本政策投資銀行は2020年11月に米エクイリブリウム社が提供する農業系ファンドへの投資を発表した。出資の背景や経緯について、日本政策投資銀行の関係者に話を聞いた。
企業金融第3 部 課長
杉浦 克実 氏
企業金融第3 部 調査役
小川 卓也 氏
――出資の背景を教えてください。
杉浦:
このファンドは農業用ハウスを開発し、それを農業法人にリースすることで固定収入を得ています。欧州発祥の施設で米国でも普及しつつあるようですが、日本の一般的なハウスとは生産性の高さや環境負荷が軽微な点で異なります。
小川:
日本の農業は小口分散化していて生産性が低いと言われており、農業従事者の高齢化や後継者不足などの問題を抱えています。こうした課題に対して、後発の立場を生かした当行なりの関与ができればと考
え、調査を進めていたのです。
杉浦:
今回出資を決めた理由は4つあります。1点目は日本への還元を考えた際に、まずは海外の先進的な取り組みに出資の形で関わり、得られたノウハウや技術を日本に持ち帰ろうと考えたからです。
2点目は、主たる収益源が固定リース料という発想がインフラのプロジェクトファイナンスに近く、当行が培ってきた知見を活かせる対象でした。
3点目に、投資家が出資しやすい仕組みがよく練られていることが挙げられます。リース料を収益源としながらも、高品質の作物を安定的に仕入れたい大規模小売チェーンと農業法人の間で長期契約を結べるよう支援しています。エネルギー分野にはPower Purchase Agreementと呼ばれる長期の電力購入契約がありますが、それに近い発想です。
4点目はESG投資の観点です。気候変動や水質汚染は世界的な共通の課題ですが、当ファンドは露地栽培に比べてCO2や排水の再利用などに力を入れており、ESGの観点でも意義があります。
――どのような形で日本の農業に還元したいとお考えですか。
杉浦:
もちろん、このハウスのような農業の仕組みを導入するのも1つの方法です。あるいは、野菜を自社生産しようとしている国内小売、外食業界に、ファンドの仕組みなどを提供することも考えられます。
小川:
日本の農家も省人化に取り組んでいますが、海外のファンドマネジャーは、1つの成功事例をさまざまな国・地域の事業環境に合わせて適用させるノウハウを有しています。また、日本の農業に今までと異なる資金が流れることで、その仕組みや発想に変化をもたらすでしょう。
――国内農業へ還元するために、他にどんな取り組みをされていますか。
杉浦:
初期的に学んでいる段階ですが、最新技術を農業に導入した「アグリテック」「フードテック」ファンドへの投資は引き続き検討しています。
小川:
今般のような危機時にも強い耐性を有する事業だと改めて確認できたことで、農業ファンドへの信頼感が増しました。食農は人が生きていく上で欠かせないもので大衆市場のパイは大きく、極めて安定しているのでしょう。国内のニーズを収集しながら、海外の先進的な事例を学ぶためにも、この分野への出資を増やしていきたいと考えています。
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