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トランプ関税で全世界のマーケットを敵に回した代償 米国トリプル安の衝撃とその余波とは

「内田稔教授のマーケットトーク」をWeb記事で
2025年4月16日
内田 稔 /  高千穂大学 教授/FDAlco 外国為替アナリスト

当シリーズでは、高千穂大学の商学部教授で三菱UFJ銀行の外国為替のチーフアナリストを務めた内田稔氏に、為替を中心に金融市場の見通しや注目のニュースをウィークリーで解説してもらう。 ※4月11に配信された「内田稔教授のマーケットトーク 【第26回】マーケットを敵に回したトランプ」を再編集しています。

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第26回のマーケットトークです。「マーケットを敵に回したトランプ」と題して4月7日週の話題についてお話したいと思います。

出所:内田氏

大きなテーマは市場を敵に回したトランプ大統領が今後どのようなツケを払うのかということです。4月7日週のマーケットの振り返り、米国のトリプル安、円が強くなくともドル安ならドル円が下がるなどの点について来週の注目ポイントを交えてお話しします。

出所:内田氏

まずはドル円相場です。過去1年間のドル円相場を図にまとめました。足元では※142円割れ目前まで下落し、いったん143円台に戻したあと、143円を少し割っている状況です。

※4月11日20時時点

昨年9月に139円58銭を付けましたが、その水準まであと2円と少しというところまで下がっています。この背景について、メディアでは円高だと報じられていますが実際にはドルの全面安です。

出所:内田氏

2022年以降のドル指数(青線)と米国長期金利(赤線)をまとめたグラフを見ていただくとお分かりの通り、基本的に米国の長期金利が上がるとドル高、その反対も、また然りでした。

ところが図の右端の4月7日週のデータを見ますと一時4%を割った長期金利が4.5%台まで瞬間的に急上昇し、足元でも4.3から4.4%程度まで上がっています。一方のドル指数は2022年4月以来3年ぶりのドル安水準となっています。金利の上昇は債券相場の値下がりですから、4月7日の週の米国は株安・債券安・ドル安のトリプル安に見舞われました。

長期金利上昇の背景は

その長期金利が上がった背景を見ていきます。以前もご説明した通り、長期金利はその国がどれほど成長する体力があるのか(期待潜在成長率)、先々のインフレはどうなりそうか(期待インフレ率)、プレミアム(悪い金利上昇)の3つから成り立ちます。

出所:内田氏

その点、4月7日の週は期待インフレ率が横ばいだった一方、タームプレミアムが上昇しました。

図の黒線は10年物タームプレミアムです。現状4月9日までのデータがニューヨーク地区連銀のホームページでも公表されています。4月7日週、米国議会ではトランプ減税の延長や追加減税、債務上限の引き上げが決まりました。

まだ議会での調整が必要ですから、最終的な金額はまだ変わる可能性がありますが、拡張型の財政出動に向けた道筋が開かれたというのが現状です。これらも含めて米国の財政に対する先行きの警戒から、タームプレミアムが高まったと考えられます。

ここで2023年8月に、格付け機関であるフィッチ・レーティングが米国債を最上位の「AAA」から「AAプラス」へ1段階引き下げたときの事例を見てみます。当時はタームプレミアムが上昇し、悪い金利上昇が生じましたが、赤い点線で示されたドル指数は上昇しています。

昨年の秋以降もトランプ大統領の帰り咲きを見越し、財政拡張が予想された局面で同様にタームプレミアムが拡大する悪い金利上昇にやはりドル高の反応でした。

ドル以外の事例もみても、2010年代初頭のユーロ圏でも、ギリシャの財政危機に端を発しスペイン・イタリアなどユーロ圏の長期金利が上昇してユーロが下がりました。

このほか2022年、トラス首相時のイギリスが財政の大盤振る舞いを打ち出した際、長期金利急上昇とポンド安が見られました。従って、悪い金利上昇が通貨安を招くのが本来の姿です。しかし、基軸通貨のドルに限ってはここ近年、悪い金利上昇であってもドル高という反応が出ていました。

こうした理由から従来、私は米国の財政拡張の方向性が決まると、長期金利は4%前半から半ば程度まで上がるとともに、ドル高方向になると予想していましたが、4月7日週は悪い金利上昇に対してドル安が進みました。

その要因の一つとして、中国が米国債を売却し、それで得たドルを売却したとの見方がささやかれています。

ただ、もしそうだとすればこのドル安はそれほど長続きしないはずです。なぜなら、米国債とドル安は中国人民銀行が持つ外貨準備の評価を下げるからです。

もっとも、各国の米国債保有に関するデータは2カ月ほど経たなければ判明しません。たしかに可能性はありますが、今回に関しては別の要因があると私は考えています。

トランプ大統領は関税によって同盟国も含めて世界中に貿易戦争を吹っかけました。その結果、安全資産の筆頭である米国債に対してマーケットは「本当に安全資産とみなしてよいのか」という疑念を抱いたのではないでしょうか。

そもそも、現在の米国は財政拡張に向け、外国の投資家に米国債を買ってもらわないといけない状況です。世界に貿易戦争を吹っかけておきながら米国債も買ってもらうといった虫のいい話に対する市場からのしっぺ返しとして米国債が売られ、ドルも下がったと考えられます。

仮にこういった流れでドル安になっているのだとすれば、これは少々根が深く、非常に先行きが懸念される動きでした。

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後編:【米ドル全面安でどうなる円相場 トランプ関税90日間の猶予が与える影響を読み解く】では、トランプ関税の影響をさらに深掘りする。

「内田稔教授のマーケットトーク」はYouTubeからもご覧いただけます。

公式チャンネルと第26回公開分はこちらから

内田 稔

 高千穂大学 教授/FDAlco 外国為替アナリスト

1993年慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、東京銀行(現、三菱UFJ銀行)入行。マーケット業務を歴任し、2007年より外国為替のリサーチを担当。2011年4月からチーフアナリストとしてハウスビューの策定を統括。J-Money誌(旧ユーロマネー誌日本語版)の東京外国為替市場調査では、2013年より9年連続アナリスト個人ランキング部門第1位。2022年4月より高千穂大学に転じ、国際金融論や専門ゼミを担当。また、株式会社FDAlcoの為替アナリストとして為替市場の調査や分析といった実務を継続する傍らロイターコラム「外国為替フォーラム」、テレビ東京「ニュースモーニングサテライト」、News Picks等でも情報発信中。そのほか公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、証券アナリストジャーナル編集委員会委員も兼任。日本証券アナリスト協会検定会員、日本テクニカルアナリスト協会認定アナリスト、国際公認投資アナリスト、日本金融学会会員、日本ファイナンス学会会員、経済学修士(京都産業大学)

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