当シリーズでは、高千穂大学の商学部教授で三菱UFJ銀行の外国為替のチーフアナリストを務めた内田稔氏に、為替を中心に金融市場の見通しや注目のニュースをウィークリーで解説してもらう。※この記事は7月17日に配信された「内田稔教授のマーケットトーク 第90回 ドル円失速、円安はクロス円へ」を再編集しています。ご質問はYoutubeチャンネルのコメント欄からお願い致します。
今回は「ドル円失速、円安はクロス円へ」について解説します(スライド1)。

米CPIでドル軟化も円は最下位:ドル円失速の背景
今週のドル円は予想を下回った米6月消費者物価指数(CPI)を受け、やや軟調に推移しました(スライド3)。

実際、主要通貨の対ドル変化率をみるとドルが軟調だったことがわかります。但し、円が最下位となっており、そのドルよりも下位に位置しています。この為、今週はドル安ではあったものの、ドル円は底堅さも維持しました(スライド4)。

ドル高は一服か?米経済指標と株式市場の動向
ドル指数について、2025年前半の戻り高値「102(赤破線)」を上抜けすれば、更なるドル高相場入りする可能性もありましたが、足元ではそれに失敗し、100台前半まで軟化しています。当面、ドル高の動きは和らぐと考えられます(スライド5)。

もっとも、24種類の労働関連の経済指標から算出される労働市場情勢指数(LMCI)のうち、労働市場の勢いを示す「モメンタム」はプラスを示しており、水準も19カ月ぶりの高さです。米雇用統計は予想を下回り、ドル高に水を注しましたが、労働市場は緩やかながらも改善傾向にあると考えられます(スライド6)。

また、実質GDP成長率の事前推計値である週間経済指数(Weekly Economic Index)を見ても、7月16日時点で前年同期比2.6%成長と高い伸びを示すなど、米経済は総じて好調を保っています。但し、前週比0.6%ポイント減速しています(スライド7)。

そこでウェイトの高い週次の個人消費をみると7月に入り、高水準ではありますが、6月から伸びが低下しています。7月に入り、米国ではハイテク株を中心に株式相場の調整が見られています。逆資産効果が影響した可能性もあり、株式相場の動向には今後要注意です(スライド8)。

円安の勢いも鈍化:長期金利と国債入札から見る円の回復
今週、ドルよりさらに弱かった円ですが、その度合いはやや和らいだと考えられます。これは円を押し下げた長期金利の上昇が一服したためです。長期金利上昇の一因となっていたタームプレミアムの上昇に歯止めがかかっています(スライド9)。

また、月初の10年国債の入札では、応札倍率が低下しましたが、その後の30年物国債、20年国債の入札ではどちらも応札倍率が6月から大幅に上昇するなど、強い需要が確認されました。このことから、「骨太の方針」に端を発した国債市場でのリスク回避的な動きが一旦沈静化したと考えられます(スライド10)。

ドル円は膠着、円安はクロス円へ:市場が期待する中期的な見通し
従って、ドル高、円安がともに和らぐ結果、当面ドル円の続伸は阻まれそうです。通貨オプション市場のリスクリバーサルを見ても、3カ月物はドル安円高警戒となっています。ただ、6カ月物では中立に転じ、1年物は約4年ぶりのドル高円安を期待している水準まで上昇しています。市場は依然として中期的なリスクはドル高円安方向とみているようです(スライド11)。

結局、短期の実質金利がマイナス圏にとどまり、国際収支面での円売り需要も根強い中、引き続き円は弱いままと考えられます。その点、以前の動画でもご紹介した通り、円安にも二つのパターンがあります。ドル高の場合、ドル円相場は上昇しますが、ドル高に下押しされて他通貨もやや軟調に推移する為、クロス円は動きにくくなります(図の左側)。反対に、ドル安の場合、ドルと他通貨の位置が入れ替わります。ドル円が膠着する一方、クロス円が上昇するパターンです(図の右側)。米雇用統計とCPIが予想を下回ったことからしばらくの間、ドルはやや軟調な値動きが見込まれ、円安が進む場合、クロス円に向かうと考えられます(スライド12)。

その動きをドル円とクロス円を指数化したグラフで確認しましょう。3月は有事のドル買い、5月以降は利上げ観測の台頭により、ドル高地合いとなりました。その間、ドル円(黒の太線)は堅調に推移しましたが、クロス円は横ばいかやや下落しています。一方、今週はドル円が横ばいとなりましたが、総じてクロス線が上昇していることがわかります(スライド13)。

来週の注目ポイント:中東情勢、米株式市場、そしてECB
来週のポイントです。ドル円相場を162円台後半まで押し上げた「ドル高」と「円安」がどちらも失速するとみられ、ドル円が上値を更新する動きは影を潜めると考えられます。とはいえ、実質金利がマイナス圏にとどまっていることから、円は依然として脆弱とみられ、ドル安円高に転じる可能性も低いでしょう。
主要通貨の中ではドルもしばらくは軟調に推移するとみられ、ドル円は弱い通貨同士の綱引きとなります。この結果、ドル円はややもみ合うとみられる一方、相対的に他通貨が上位に浮上することから、クロス円が底堅く推移しそうです。但し、中東情勢次第で有事のドル買いが再燃する可能性もあり、一定の注意が必要です。
米国の株式相場の調整が続く場合、逆資産効果が警戒され、利上げ観測が後退する可能性があります。その場合、弱い円よりもさらにドルが弱くなり、ドル円も160円を割り込むと考えられます。
そのほかでは来週ECB理事会を控えています。政策金利は据え置きが見込まれており、ラガルド総裁の会見に注目です。原油価格の反発を踏まえ、タカ派のトーンとなった場合、ユーロ高ドル安となるでしょう。為替市場で最も出来高が大きいユーロドル相場でのドル安は為替市場全体にも波及するため注意が必要です。反対にハト派のトーンであればドル高に作用し、ドル円を支えることになります(スライド14)。

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