連載 小倉邦彦の資産運用時事コラム 第23回企業年金のご意見番ニッセイ基礎研 徳島さんに聞く 「企業年金を取り巻く昨今の環境変化と2025年の運用課題」(後編)
企業年金を取り巻く環境は政府による資産運用立国推進の流れの中で大きく変わってきた。金融庁が作成し2023年4月に公表したプログレスレポート2023では確定給付企業年金(DB)がフォーカスされ、運用の高度化のためにはDBの専門性や人員の不足への対応が必要である点が指摘された。また、2023年11月には金融サービス提供法(金サ法)の改正案が成立し、DBも金サ法上の「金融サービスの提供等に係る業務を行う者」に該当することが規定され、「顧客等の最善の利益を勘案しつつ、誠実かつ公正に業務を遂行すべき義務」が課せられることになった(この点に関し厚労省は従来の忠実義務と変わらないと説明している)。
資産運用立国に関しては、内閣官房下の「資産運用立国分科会」でDBを含むアセットオーナーの改革が議論され、2023年12月に「資産運用立国実現プラン」が公表された。この中ではアセットオーナー・プリンシプル(AOP)を策定することが施策として盛り込まれたほか、DBの改革としては、ア)資産運用力の向上(人材育成等の取り組みや委託先の評価、見直しの促進)、イ)共同運用の選択肢の拡大(連合会の共同運用事業の発展等)、ウ)加入者のための運用の見える化の充実(他社と比較できる見える化:情報開示)、が課題や施策として記載された。
資産運用立国実現プランを受けて、2024年8月にAOPが策定され、現在多くのDBが受け入れに向けて作業を進めているところである。AOPの詳細については省略するが、アセットオーナーが受益者等の最善の利益を勘案して、その資産を運用する責任(フィデューシャリー・デューティー)を果たしていく上で有用と考えられる5つの原則から成り立っている。DBはこれを受け入れるにあたって、従来にも増して専門的知見の確保や実効性のあるガバナンス体制の構築が求められるほか、適切なリスク管理、運用委託先の評価や定期的な見直しが要求される。AOPの策定に合わせる形で、DBの資産運用業務における遵守事項を定めた資産運用ガイドラインの改訂案が、本年1月初旬に厚労省から通知された。
このようにDBを含むアセットオーナーを取り巻く環境が大きく変わりつつある中で、前編ではDBに直接影響するAOPや資産運用ガイドライン改訂の意味するところや留意点、今後DBが運用力やガバナンスの向上を求められる中で、どのように対応していくべきかを、企業年金のご意見番とも言えるニッセイ基礎研 徳島氏に伺った。
後編では日米金融政策が異なる方向に向けて動くと想定される中で、カナダ・メキシコへの関税発動発表(その後延期)や対中国関税発動と既に関税政策の動きが本格化する等、トランプ政権の施策で波乱が予想される市場環境を踏まえた、2025年におけるDBの運用課題についてお話を伺う。
注)本インタビューは2月13日に実施された。
目次
はじめに
【前編】DBを取り巻く環境変化~ガバナンスや運用力の向上が求められる
金融庁による金サ法改正でDBも顧客等の最善の利益の対象に
資産運用立国実現プラン~DBは改革を求められる
アセットオーナー・プリンシプル~多くのDBにとっては従来の延長線上
資産運用ガイドライン改訂~想定の範囲内だが実務はこれに縛られる
DBを取り巻く環境変化にどう対応すべきか?
【後編】トランプ2.0による波乱も予想される2025年の運用課題
2025年も経済のファンダメンタルズは良好、トランプ2.0は大きな波乱要因
債券 2025年は円債回帰の年になるか?
ヘッジ外債 2025年は受難の年?
オープン外債の方がよいのか?為替ポジションはどうすればよい?
株式:収益ドライバーとしての期待は高いが割高感も強まる
マグニフィセント7に振り回されるアクティブ・ファンド
パッシブ運用とアクティブ運用どちらがよいのか?
マルチアセットは復活するのか?
オルタナ投資は今後も拡大?
2025年にお薦めの資産クラスは? インフラ、不動産、PD、PE?
人気のセカンダリー投資は今後も拡大?
プライベートデットの堅調は今後も続く?
安定の国内私募REIT, 海外不動産もそろそろ底打ち?
オープンエンド型ファンドで小規模DBにもプライベートアセット投資が広まる
DBにおけるESG投資への取り組み
後編:トランプ2.0による波乱も予想される2025年の運用課題
2025年も経済のファンダメンタルズは良好、トランプ2.0は大きな波乱要因
小倉:後編は2025年の運用課題について議論していきたいと思います。世界経済は2025年もトレンドに近い成長が予想されており、IMFが本年1月17日に公表した予測によると、世界全体では2025年は2024年とほぼ同じ3.3%のGDP成長率となっています。
図表1 IMFの世界経済見通し(2025年1月改訂版)

また、インフレ率が徐々に低下するなかで日本を除く中央銀行は緩和を続ける見込みですが、緩和の程度は緩やかでFRBは年1回の利下げ予想がメインシナリオのようです。日本は逆に1月会合での25bp利上げに続き、年央以降に追加上げを行い2025年末の政策金利は0.75%、来年のどこかでもう1回利上げして当面は1.0%で打ち止めとの予想が多いようです。ちなみに1.0%は日銀が推計する名目中立金利の下限値になります。
一方で、2025年の最大の変動要因はトランプ2.0が打ち出す政策であり、過剰な関税引き上げは米国経済だけでなく世界経済を混乱に陥れる可能性がありますし、トランプ減税の延長、移民流入の制限、バイデン政権下で実施された規制の緩和等はインフレの上昇圧力になることが懸念されています。
就任初日の関税発動は回避され、市場の警戒感はやや後退した感もありましたが、2月1日にトランプ大統領はカナダ・メキシコに対して25%の追加関税・中国に対しては10%の追加完全を発動する大統領令に署名、市場にも激震が走りました。カナダとメキシコへの関税発動は1カ月延期で合意し、市場もとりあえずは落ち着いた状況ですが、カナダ・メキシコへの関税発動リスクはまだ残っており、EUに対する追加関税の懸念もあるようです。また、2月10日には全ての鉄鋼とアルミニウムの輸入に対して25%関税を課すとの大統領令に署名しており、まだ予断を許さない状況かと思います。
いずれにせよトランプ2.0の政策は波乱要因にはなるでしょうが、決まったものではないので今は経済のファンダメンタルズを重視して2025年の債券、株式、オルタナ投資等の運用について考えていきたいと思います。IMFの2025年経済見通しについては徳島さんも違和感ないという感じでしょうか。また、トランプ2.0に関してDBが留意しておくべき点等あれば教えていただけますでしょうか。
徳島:
IMFの世界経済見通しを見ても、米国はやはり底堅い、欧州は少し低迷、日本はこんなものかなという感じです。これからしばらくはグローバルに停滞する時間帯かなと思います。経済が停滞すると金融商品の価格は上がりにくいですし、ショックが起きたときに大きな影響を受けるので、脆弱な時間帯になると考えています。IMFの世界経済見通しでも断トツに高い数字となっている中国ですが、中国に関しては発表する指標を信じてはいけないというのは有名な話です。GDP成長率4.8%では、中国経済はサステナブルではないという水準であり、大変な姿を描いていると思います。
そういった厳しい時間帯ですが、もう一つの課題はトランプ2.0です。トランプ1.0の時も含めて何をしてくるか分からないという点があります。いきなり北朝鮮と直接交渉するというのは前回経験しました。今回もガザを米国が所有するというような発言をしています。
ただ、明確なのは彼の頭の中にあるのが「米国第一」ということです。そういう意味では先ほど米国は底堅いと言いましたが、米国はどちらにも揺れ動く可能性があると思います。高関税を賦課することで米国経済自身にネガティブな影響がでることもありうると思います。米国経済は相対的に強いものの、「ブレる」可能性があると思いますので、世界経済には慎重な見方をしておいた方がよいと思います。
債券 2025年は円債回帰の年になるか?
小倉:それではまずは円債から話を始めたいと思います。JPモルガン・アセット・マネジメント社が毎年行っている年金運用動向調査では、図表2の通り国内債券への資産配分が2024年3月末に15.1%となり(前年は15.0%)、2009年の調査開始以来、初めて下げ止まったことがトピックスとして大きく取り上げられていました。
国内債券から外国債券(ヘッジ外債)やその他資産への流出が下げ止まったということですが、まだ大きな増加を見せるには至っていません。DB関係者に「ヘッジ外債を止めてそろそろ国内債券に回帰しますか?」と尋ねると、「今の金利水準ではまだ長期金利の上昇可能性があり、今後のキャピタルロス発生を考えるともう少し待ちたい」という回答が多かったような気がします。
では10年債でどのくらいになれば復帰を考えるか、との問いかけには、昨年夏ごろには「1.25~1.50%程度になれば」という方が多かったと思います。今は実勢レートが1.3%を超えて上昇しているので、DB関係者の想定する下限は1.25%よりもう少し切り上がっているようです。
もちろん、ヘッジ外債は一時6%近いヘッジコストとなり、逆イールドの恒常化も相まって、キャリーロールダウンが大きなマイナスになっていたので、早々に国内債券にシフトしたDBもあります。ただ、この場合もデュレーションリスクは取りたくないということで、Nomura-BPIではなく短期債(社債)やアクティブ・ファンドにシフトされたようです。
一方で、2025年は日銀も既に実施された1月会合での25bp利上げも含め、年2回程度の利上げ(25bpx2=50bp)がメインシナリオとして想定されており、図表3のように日米金融機関の予想でも2025年末の10年債利回りは1.34%程度まで上昇する見込みのようです。
足元では10年債利回りは既に年末予想の1.34%近くまで上昇していますので、年末までを見通すともう少し高い1.50%程度になるかもしれません。政策金利は2026年に利上げがあってもせいぜい1.0%程度までと考えると、イールドカーブも立っておりロールダウンもしっかり稼げる円債への投資が2025年後半には進むような気もしますが、徳島さんはどのように見ていられますか?
図表2 国内債券の資産配分推移 (政策AMベース)

出所:JPモルガン・アセット・マネジメント 「第16回 企業年期運用動向調査」を基に筆者が作成
図表3 日米金融機関の想定する2025年の円金利見通し

出所:米銀2行と日系証券2社が1月~2月にかけて公表した2025年予想を基に筆者が平均値を算出
徳島:
一つはDBの予定利率をどの程度の水準にしているかでしょう。金利が上昇しているからと言って、すぐに予定利率を引き上げているようであれば円債回帰は難しいと思います。予定利率を2%か少し割れる程度にされているのであれば、(円債は)それなりに高い利回りに来ているのかと思います。ただし、DBでは債券は時価評価されますので、金利が上がる過程ではマイナスリターンになりがちです。金利上昇局面をどう乗り切るか、どの程度の水準まで利回りが上がると見るかによるでしょう。
日銀による現在の政策金利は0.5%ですがコンセンサスとされる1.0%程度まで上がった場合に、足元1.3~1.4%を超えてきている10年債の利回りがどこまで上昇するのかですね。普通に考えると、1.5%がいいところでしょうか。もう少し長い年限では30年債の利回りが2%を超えてきています。
超長期セクターは生命保険会社等の長い負債を持つ人たちが、買いたい水準に落ち着いて来れば買ってくるので、30年債の利回りがどんどん上昇するということは考えにくいと思います。従って、短期1.0%、10年債利回り1.5%強、30年債利回り2%強というのは順当な落ち着きどころだと思います。その辺りまで行ったら円債を買ってもよいのではないでしょうか。そこまでは慌てて買う必要はないでしょう。
小倉:政策金利が1.0%に上がっても10年債の利回りが1.5%だとすると、足元の10年債の利回りが1.34%なので、キャピタルロスもNOMURA-BPI総合で▲1.6%程度です。これであればキャリーロールダウンで何とか吸収できるので、今からスタートでもよいのではと思ってしまいますが、この点いかがでしょう。
徳島:ポートフォリオ運用というのは円債でマイナス利回りになったときに、株で儲かっていて、結果として全体で利益が出ればよいのであって、全ての個別資産で勝つ必要はないわけです。そういった意味では、円債は給付の原資にもすぐ使えますし、持っていても良いと思います。
ただ怖いのは物価の変動です。物価が2~3%で落ち着いてくれれば申し上げたようなビューでよいと思いますが、物価がさらに上昇すると金利水準も大きく変わってくる可能性はあります。
小倉:いずれにしても「円債の出番はもう少し先、今じゃない」ということですね。
徳島:
日銀が政策金利を1%に慌ててあげないことを祈っています。年内にもう1回利上げ、そして来年3月くらいまでに1%に上げるというのがコンセンサス的な見方でしょうか。
小倉:為替水準によっても動きは変わるかもしれませんね。
徳島:為替経由で輸入物価に影響がでてくるので金融政策に影響があるということになるのでしょう。
ヘッジ外債 2025年は受難の年?
小倉:円債に対してヘッジ外債は高止まりするヘッジコストもあり2025年も人気回復とはいかないようです。米国の雇用状況が予想外に好調を維持しており、トランプ2.0によるインフレ懸念もある中で、ドルの長期金利は足元では4.5%近辺で推移していますが、1月13日に一時4.8%台に上昇する場面もありました。
2024年9月には3.6%台に低下していましたので、その時からは1%以上の上昇となりました。FRBは図表4の通り2025年に政策金利を2回(25x2=50bp)引き下げる予想を出していますが、市場は1回程度の見通しに変わってきており、年後半からはインフレで利上げという予想を打ち出す評論家も現れてきています。
順イールド化してきているため、為替ヘッジ後でもキャリーロールダウンは若干のプラスになりますが、ヘッジコストが2025年末でも3%台半ばと高止まりする予想であることや、図表5のように長期金利の低下が思ったほど見込めずキャピタルゲインも大きくは期待できない中では、ヘッジ外債の保有は引き続き収益的に厳しい状況です。ただ、イールドがかなり高くなっていますので、株式等で大きなドローダウンがあった際のバッファー効果についてはかなり厚みが出てきていると言えます。
図表4 12月FOMCにおけるFRBのFF金利予想(下段は9月FOMC時点の予想)

出所:FFR HPを基に筆者作成
図表5 日米金融機関によるドル金利予想

出所:2025年1月に公表された米銀の予想値と日系証券の予想値から筆者が平均値を算出
徳島さんの市場見通しとは異なるかもしれませんが、前述のような見通しにおいて、ヘッジ外債の保有意義についてはどう考えたらよいでしょうか?またDBでは引き続き他の資産クラス、例えば変動金利のプライベートデットへのシフトや、あるいは為替ヘッジポジションの一部見直し(為替オープン化)等が進んでいるのでしょうか。
徳島:ヘッジ外債に関してはAll or Nothingではないと思っています。生命保険会社では以前からヘッジ比率は柔軟にコントロールしていますので、ヘッジ比率を状況によって変えることも十分に考えてよいでしょう。オープン外債とヘッジ外債の比率はその時々のビューで変えてよいと思います。円債とヘッジ外債、オープン外債、この3つの組み合わせをしっかり考えてやっていけばよいのです。
GPIFではヘッジ外債は為替のオーバレイ的に使っていたりもします。そういう意味では外株、オルタナ投資、それからオープン外債も含めて、外貨建て資産に付随する為替ポジションをどうコントロールするかという考え方はあると思います。
小倉:米ドル長期金利(10年国債利回り)は昨年4月に4.7%近くまで上昇した後は、インフレの収束期待やFRBの利下げもあり、3.6%台をつけた9月頃までは低下傾向を見せていました。この局面でさらなる金利低下期待から外債でDurationをLongされたDBもあるようで、今かなり苦戦されているようですが、徳島さんの方でもそのような話を聞かれたことはありますか?
徳島:米国が景気後退局面に入っていくのだからDurationをLongしたいというのは、米債のトレーダーの考えからすると自然な発想です。ただそこで登場してきたのがトランプです。トランプの政策に関わらず米景気が底堅いというのもあり、利下げがどんどん進むという見方ではなくなってしまったことがあります。この後、利下げが進むかどうかは、トランプの政策要因もあり全く分からなくなってきています。FRBも利下げを行うとは思いますが、想定される利下げの回数はかなり減ってきている感じです。米10年国債の利回りが今後どうなるかに関しては、頭を悩ませるべきだと思いますし、アセットマネジャーによってビューは全く変わってくるでしょう。
図表5にあるようにFF金利はそれほど下がらないという見方もあります。景気後退局面に見られるような下げにはならないような感じになってきていますので、DurationをLongされた方はちょっと早かったのかもしれません。
オープン外債の方がよいのか?為替ポジションはどうすればよい?
小倉:ヘッジコストもピーク時の6%近い水準から多少下がったとは言え、足元でもおおよそ4%、2025年末でも図表3と図表5の日米短期金利差から推測するに、3%台半ばでまだまだ無視できない水準です。こうなるとヘッジ外債の為替ヘッジを外したくなるところです。
一方で1月上旬まで158円近辺で推移していたドル/円は、1月後半以降トランプ2.0による米景気・インフレ加速期待を背景としたトランプ・トレードの巻き戻しや、日銀追加利上げへの期待から、2月6日には151円台に下落しました。
足元では米1月のCPIの市場予想比上振れを受けて米利下げ期待が後退し、ドル円は154円近辺まで戻していますが、ドル/円のレンジが徐々に切り下がっている感じもあり、いきなりヘッジを全部外すというのはリスクが大きくいかがなものかと思いますが、3割程度外すとか、ダイナミックヘッジを導入するということも可能性としてはあるのでしょうか?
ちなみに金融機関による為替の予想も下記しましたが、おおむね日米金利差縮小を背景に2025年は緩やかな円高が進むとの予想です。ただし、トランプ2.0により懸念される円安要因が現実化してくることもあると思いますので、一方向でこうなるということではないと思います。
また為替ポジションは債券だけなくポートフォリオ全体で見た方がよいという考えもあります。おそらく平均的なDBでは外国株やプライベートエクイティ等はヘッジをしていないので、それも含めポートフォリオ全体では20~30%程度が外貨ポジションになっているのではないかと想定しております。
図表6 日米金融機関の想定する2025年の為替見通し

出所:米銀1行と日系証券2社が1月~2月にかけて公表した2025年予想を基に筆者が平均値を算出
徳島:基本ポートフォリオの作り方次第でしょう。為替オープンであるという前提で海外資産を投資対象に組み入れているのであれば、為替の動きは織り込んでいるはずです。実際は、そこを意識していないアセットオーナーも多く、為替はどう動くか分からないから影響をニュートラルに置いているのが普通でしょう。
為替の変動による影響を少し減らしたいのであれば、ヘッジ比率をオーバレイ的に調整することもできますし、実際にオーバレイを採用しているDBもあります。そういった為替へのアプローチもいいとは思いますが、なかなか手間がかかり、コンサルタントやまとめて為替をみてくれるアセットマネジャーにお願いすることになるので、委託コストはかかりそうです。
株式:収益ドライバーとしての期待は高いが割高感も強まる
小倉:強い米雇用統計やトランプ2.0によるインフレ再上昇懸念等により米長期金利が上昇し、12月から年初にかけて株式は軟調に推移していましたが、トランプ2.0が当初懸念されたよりもソフトなトーンであったことから、株式市場では安心感が広がり、1月23日にはS&P500は史上最高値を更新、日経平均も一時4万円台を回復するなど堅調な動きを見せていました。しかし、1月末に中国製生成AIアプリ「ディープシーク」出現による衝撃で、株式市場はテック株を主体に大きく値を下げました。その後も米テック株や日本株は動きが軟調なようです。
一方で、米国では株式の益利回りと債券の利回りの差である「イールドスプレッド」に関し、債券利回り>株式の益利回りとなって逆転現象が起こっているようです。2023年度、2024年度とDBのリターンを牽引してきた外国株が調整局面に入るとなるとDBとしても困ります。徳島さんは2025年の株式についてはどのように予想されていますか?
徳島:ここ数年内外株式が強く収益を稼いできてくれましたが、IMFの見通し等も考えると、さらにどんどん上昇するということは考えにくいです。次の質問にも絡んでくる話ですが、マグニフィセント7というか外株のインデックス構成は大きな課題になっています。
そういった中で株価は大きな上げは期待できない程度に考えておいた方がよいのではないでしょうか。株式を持っていてよいと思いますが、ここ数年のような大きな上げは期待しないほうがよいでしょう。
マグニフィセント7に振り回されるアクティブ・ファンド
小倉:外国株についてはベンチマークのMSCI Kokusaiにおける米国株の比率が増加し8割弱程度になっているようです。その大きな原因は米国株の中でも比率が増大するマグニフィセント7です。7社の時価総額はS&P500構成銘柄の時価総額の3割ほどになっています。
一方で、マグニフィセント7のこれまでの株価上昇は飛びぬけているものの、Bloombergの2024年12月9日付Newsによると予想PERは41倍で、S&P500の23倍と比較すると倍以上の水準となっており、バリュエーションが高水準になっていることが窺えます。割高感があるのでどうしてもアクティブ・ファンドはマグニフィセント7をアンダーウエイトにする傾向があり、この数年間は結果としてベンチマークに劣後するという状況が続いていました。この傾向はしばらく続きそうでしょうか。
AIブームに乗って過去数年にわたり、株式相場を牽引してきた大手テック株もエヌビディアを除いては大幅な増益基調に少しブレーキがかかる予想のようです。また、ここにきて中国製AI「ディープシーク」出現によるテック産業での米国優位の揺らぎも気になるところです。
徳島:MSCIも含めて代表的な指数は時価加重平均で算出されているので、時価の大きな株価に振らされることになります。従って、マグニフィセント7に入っているような株が大きく下げるとダメージは大きくなるでしょう。その構造が変わらないのでアクティブ・ファンドは、値がさ株をアンダーウエイトにし他の銘柄を組み入れていました。その結果、超過収益が取れなかったというのがここ数年の動きです。
何をやるにしてもマグニフィセント7というか値がさ株の変動でインデックスが大きく振らされるので、それらの動きを見ていかないとどうしようもないのです。怖いのは先ほどの「ディープシーク」の話ではないですが、マグニフィセント7が没落するとか、他に取って代わられるようなことが起きるのであれば、要注意と思います。
パッシブ運用とアクティブ運用どちらがよいのか?
小倉:伝統4資産の最後にパッシブ運用とアクティブ運用のどちらがよいのかについてお伺いしたいと思います。それぞれに一長一短あり「どちらが?」というのは神学論争のようなもの、結局はパッシブとアクティブを併用してということになるのかとは思います。
長期的にはアクティブアルファは期待できないので、市場リターンを最小のコストで取れればよい、だからパッシブ運用主体でという考え方もあると思いますが、歴史的な金融緩和政策も終わり金融政策が正常化していく中で、銘柄間格差が拡大するのであればアクティブ運用で超過リターンを取りに行ける、トランプ2.0でボラティリティの高まる市場ではアクティブ運用による市場下落時のドローダウン低減も期待できるので、アクティブ運用の方がよいという考え方もあるかと思います。徳島さんはこの点どのようにお考えでしょうか。
徳島:私は基本アクティブ運用論者です。ただ、常に勝てるアクティブ・ファンドはありません。常に負けるファンドはあるかもしれませんが…自分がクオンツのマネジャーだったので自覚しているのですが、「過去への最適化は将来を保証しない」というのが私のテーゼ(命題)です。
過去どんなにパフォーマンスがよかったとしても、次の局面では駄目になる可能性があります。状況が変わったときに勝てるアクティブ・マネジャーをセレクトしないと、アクティブ運用では勝ち続けられません。その局面・局面で勝てるアクティブ・マネジャーを選ぶことのできるアセットオーナーしか、アクティブ運用では勝てないということなのです。
そんなマネジャー選択は容易でありませんから、結果としてパッシブも価値が高くなるものと思います。アクティブ運用に取り組むことは必要ですが、全額アクティブ運用を採用することは難しいでしょう。消去法的なアプローチもありますし、リバランスで必要ということもあって、ある程度パッシブ運用を組み入れないといけないことになります。アクティブもパッシブもどちらも全否定はしませんが、アクティブ運用に取り組まないと運用の未来はないと考えます。
小倉:アクティブ運用をする上ではマネジャーの選球眼が必要ということですね。
マルチアセットは復活するのか?
小倉:では話題を変えてオルタナ投資について考えていきたいと思います。流動性のあるオルタナの代表としてはヘッジファンドとマルチアセットがありますが、マルチアセットはここのところ収益が低迷し、DBにおける資産構成比率も図表7にある通り、2022年3月末をピークに数年来減少傾向にあります。
2022年度は株式と債券の相関関係が大きく変化し、金利上昇を受けて保有債券利回りがマイナスに陥る中、債券のマイナスを株式の値上がり益でカバーするという多くのマルチアセット運用のコンセプトが機能せず、多くのマルチアセットがマイナスリターンに沈んでしまうという事態になりました。
その後は復活の兆しはあるものの、資産配分の一番大きい債券が金利上昇局面でリターンが低迷したことや、日本のDBでは多くが為替をヘッジした円シェアクラスに投資していることから、リターンは今一つであったと思われます。
グローバルでも有力ファンドのいくつかがAUMの減少に耐えられず、運用を停止し清算されてしまいました。今後、株式と債券の相関関係が正常化してくれば、マルチアセットは復活するのでしょうか?またDB自体のポートフォリオがマルチアセットのようではありますが、DBが保有する意義というのは引き続きあるのでしょうか?
図表 7 ポートフォリオに占めるマルチアセットの資産配分推移 (実績べース)

出所:JPモルガン・アセット・マネジメント 企業年期運用動向調査を基に筆者が作成
徳島:マルチアセットは株がどんどん上がっているときは、株100%のポートフォリオには負けてしまいます。マルチアセットは株が下げているときにもある程度稼げるという投資対象と考えるべきです。信託の合同運用や生保の一般勘定もマルチアセット投資をしているのと考えられますし、そういう意味でマルチアセットがなくなることはないと思います。
外部委託の運用スタイルの一つとして考えってよいと思いますし、伝統4資産だけでなく一部にオルタナ資産を入れるマルチアセットもよいと思います。資産規模等から自分でオルタナティブ投資ができないDBはマルチアセット経由で組み入れるという使い方もあります。従って、マルチアセット投資に存在意義はありますが、マルチアセット投資をやれば課題がすべて解決するということではないでしょう。
オルタナ投資は今後も拡大?
小倉:DBのオルタナ投資は先行してスタートした規模の大きなDBでは資産配分的には行きつくところまで行った感もありますが、図表8の通り全体でみると巡航速度で引き続き増加中です。JPモルガン・アセット・マネジメント社が調査を始めた2010/3末にはオルタナ投資はわずか5.4%であったので、それと比べると14年で約5倍に増加したということになります。
以前はヘッジファンドやマルチアセットのような絶対収益型の流動性のある戦略が主体でしたが、最近は不動産、インフラ、プライベートデット、プライベートエクイティといった低流動のプライベートアセットの比率が増加する傾向にあります。
DBの運用においては今後もプライベートアセットを主体にオルタナ投資は増加を続けるのでしょうか?また、プライベートアセットを増やしていく意義や、その際に注意すべき点等あれば教えてください。
図表8 オルタナ投資の資産配分推移 (政策AMベース)

出所:JPモルガン・アセット・マネジメント 「第16回 企業年期運用動向調査」を基に筆者が作成
徳島:伝統的資産での運用は考え方も含めほぼ出尽くしているので、伝統資産とリスクプロファイルの異なるオルタナ投資はもう少し増える余地があると思います。その中でも局面・局面ではやりすたりはあるでしょう。上場資産が順調な時には低流動性資産にそこまで行く必要はありませんが、これから数年は低流動性資産にもっと行ける時間帯かなと思っています。
一方で、オルタナ投資を何割持てばよいかという点に関して十分な答えはありません。米国の大学基金のようにオルタナが7割といったポートフォリオはDBには適さないでしょう。オルタナ投資の比率は図表8では24.2%になっていますが、もう少し上がる余地はあると思います。ただ、平均で5割を超えるというのはないでしょう。もちろん、5割を超えて取り組むDBはあるでしょうが、オルタナを全くやらないDBもそれなりにあるので、平均を取ると30~40%程度までというのはあるかもしれません。
2025年にお薦めの資産クラスは? インフラ、不動産、PD、PE?
小倉:インフレが収束せず金利が高止まりする可能性が高い2025年に有望な資産クラスは不動産、インフラ、プライベートデット、プライベートエクイティの中ではどれになるとお考えですか?
徳島:低流動性資産であれば、現物資産の中でインフラと不動産をビンテージ分散しながら投資をするのがよいと思います。プライベートエクイティに関しては、どうしても特性上上場株の影響を受けてしまいます。この5年ほど上場株は堅調でプライベートエクイティもその影響を受けて上がってきました。今は上場株に1回下落局面があり水準調整があってからの方が入りやすいという感じです。一方で、一番悲観的に見ているのはプライベートデットです。
小倉:プライベートデットについては後ほどお話を伺いたいと思います。
人気のセカンダリー投資は今後も拡大?
小倉:最近のプライベートアセットの特徴として、プライベートエクイティではセカンダリーファンドに人気が集まっているようです。ディスカウントによるメリットに加え、Jカーブ効果が小さいこと、ポートフォリオのビンテージ分散が図られていること等のメリットがDB投資家にも評価されているようです。
一方で、インカム系の不動産やインフラ等でもセカンダリーファンドが徐々に浸透してきています。「プライマリーあるところセカンダリーあり」とも言いますので当然の流れかもしれませんが、この流れはさらに進むでしょうか?またプライベートエクイティも含めセカンダリーファンドに投資をする上で留意すべき点等あれば教えてください。
徳島:セカンダリー投資はJカーブ効果を回避するためと言われますが、Jカーブ効果が大きく現れるベンチャー投資は、DBではプライベートエクイティの範疇の中でそれほど投資をされていないと思います。であればセカンダリーをあまり優先して意識する必要はないように思います。
また、不動産やインフラを含めてセカンダリーファンドがなぜ出てきているのか?なぜプライマリーではなくセカンダリーファンドが購入できるのか?ということは考えた方がよいと思いますし、慎重に見た方がよいと思います。
もちろん、セカンダリーにも良いファンドはあると思うので、それは投資対象として考えてよいと思います。プライマリーで買った投資家はなぜ売却してセカンダリーに出て来たのか?という点は疑ってかかってよいのではないでしょうか。プライベートエクイティ、インフラ、不動産に関わらずセカンダリーを投資対象に検討するのは良いと思いますが、慎重に見た方がよいと考えます。
プライベートデットの堅調は今後も続く?
小倉:プライベートアセットの中では変動金利でヘッジコストの上昇も吸収でき、リターンが安定しているプライベートデット、その中でも中堅中小企業向けシニアローンを扱うダイレクトレンディングがDBに人気です。ヘッジコストが高止まりする中でも、円ヘッジ後で5%程度のリターンが期待できることもあってDBにとっては一種のスイートスポット的な存在にもなっています。
一昨年はパブリック市場でのシンジケートローンによる調達が低調であったこともあり、コアミドル向けのスプレッドは650bp程度まで上昇していましたが、昨年あたりからシンジケートローンの復活に伴い競争も激しくなってきているので、これらと競合するアッパーミドル向けの貸し出しスプレッドは450bp~500bp程度とピーク時から100bp程度下がっていると聞いています。
とはいえ、コアミドルやローワーミドルを主体にDBでのニーズは引き続き強く、貸し倒れ案件もゼロではないものの低位安定しているようです。新規のファンドも続々と日本に上陸しているようですが、ダイレクトレンディングは今後もしばらくは堅調に推移するとお考えでしょうか?また、リスクがあるとすればどこにあるとお考えでしょうか。
徳島:景気が悪化するときに一番ダメージが出てくるのはこの領域です。以前であれば、ハイイールド債とか新興株がそれに相当しました。景気が持続するのであれば投資対象として引き続き考えて良いと思いますが、景気が持たないと思うのであれば、これは米国景気の停滞がどのくらいかによりますが、プライベートデットにも大きなダメージが出てくると考えます。
スプレッドの水準も面白くなくなってきており、コベナンツも緩くなってきているので、今からプライベートデットにどんどん行くのは相場感としていかがなものかと思います。
米国景気がまだまだ大丈夫と思われるのであれば、投資する価値はあると思いますが、景気が足踏みしている時間帯の中では、慎重に見た方がよいと思います。次に、クラッシュがあるとすればこのセクターだと思います。
小倉:金利が高止まりする中で債務者の負担が重くなっている点も気になるところです。形の上でのデフォルトは多くありませんが、PIK(金利の元本組み入れ)で凌いでいるケースが以前よりも増えているとも聞きますので、この辺りはよく見ておいた方がよいですね。
安定の国内私募REIT, 海外不動産もそろそろ底打ち?
小倉:年金のプライベートアセット投資で最大の資産割合となっているのは不動産です。年金にとっては1996年に撤廃された5・3・3・2規制時代から「20%以下」ということで認められていた歴史の長い資産クラスであることや、リーマンショック後に登場したオープンエンド型の国内私募REITが小規模基金も含めて普及していることが背景にあると思います。
まずは国内私募REITですがこれまでパフォーマンスは非常に堅調で、DBの収益に多大な貢献をしてくれた資産クラスになっています。さすがに新規物件の購入価格が上昇してきており、インカム収益は4~5年前に比べると若干低下してはいますが、それでも5%前後のトータルリターンを安定して稼いでくれるファンドが多いようです。
一方で、日銀の金融政策正常化が進んでいくと金利が上昇していくことになり、私募REITにも多少の影響がでてくるのではないかと懸念する声もありますが、徳島さんはどのように見られていますか?
徳島:最近J-REITの不人気が根強いです。私募REITも全く無関係ではないので、慎重に見ないといけないでしょう。私募REITに関しては、物件取得価格の透明性の問題、流動性の制約、マネジャーがファンドをしっかりマネージしているかどうか、これらの点をチェックする必要がありますが、これらがクリアできていれば、大きなアップサイドは期待できないとしても、国内債券よりはリターンが高く、場合によっては株式よりもよいパフォーマンスが得られるために、投資価値の下支えになるでしょう。
ただし、日銀の利上げの影響は私募REITにも当然出てくるので、組み入れ内容とかマネジャーの能力等の精査が必要で、それらのチェックを踏まえた上であれば、分散しながら投資できる対象だと思います。
小倉:DBからすると為替リスクもない円建ての資産で、毎年5%近いリターンが安定して稼げる資産なので大変ありがたい存在です。
徳島:公的年金においても、オルタナ投資枠の消化に関して、インフラでは難しいのですが、不動産に関してだけは国内枠を作るなどして国内の不動産投資を増やして行きたいと考えているようです。
小倉:海外不動産はFRBの利上げによる影響や米国でBack to Officeが進まないオフィス市場の低迷を受けて、ベンチマークのNFI-ODCEも2022年第4四半期から2024年第2四半期まで7四半期連続マイナスになりました。2024年第3四半期には+0.25%と若干のプラスに持ち直し、先月公表された2024年第4四半期は+1.16%となりました。Appreciationもわずかながらではあるものの+0.14%と久方ぶりにプラスに転じています。
足元のドル長期金利上昇は懸念材料ではありますが、Valuationはこの2年ほどで大きく低下しましたので、そろそろエントリーポイントではないかとの声も聞こえてきますが、この点いかがでしょうか。オフィスや住居、インダストリー等セクターによってもかなりパフォーマンスの乖離がありますので、セクターを選別してということもあるかもしれません。
徳島:米国に関してはセクターによってかなり状況の違いがあります。オフィスは新型コロナ以降Work from Homeで大変厳しい状況でしたが、最近はWork from Homeを禁止するような動きが目立って来ており、それがオフィスニーズに繋がってくることを確認できれば、長期的な観点では投資対象として見てよいのではないでしょうか。一方で、トランプ2.0は移民を強制送還するような政権なので、住宅などの不動産に関してネガティブな要素がないわけではありません。
オープンエンド型ファンドで小規模DBにもプライベートアセット投資が広まる
小倉:DBのプライベートアセット投資の最近の特徴の一つして、これまで最低投資単位の問題もあり資産規模の観点から投資を躊躇していた中小規模のDBが、国内の私募REIT以外のプライベートアセット投資に取り組み始めているという点にあるかと思います。
資産規模が100億円未満のDBだと1ファンドの最低投資単位が10百万ドルだと日本円で15億円なので、分散の観点から投資はちょっと厳しいということだったかと思います(最近増えてきた5百万ドルでも8億円弱なので容易ではないでしょう)。また、プライベートアセットはクローズドエンド型ファンドが多かったというのも阻害要因の一つであったと思います。
中小規模DBがプライベートアセット投資に取り組めるようになった背景には、オープンエンド型ファンドがコアの不動産やインフラ以外でも増えてきたこと、マルチオルタナと称するオープンエンド型ファンドで不動産、インフラ、プライベートデット、プライベートエクイティに分散投資するファンドが登場してきたことが背景にあると思います。
マルチオルタナは3億円かそれ以下でも投資可能で、ファンドの中で資産クラスも分散されているので、これまでプライベートアセット投資の経験がなかったDBにとっても取り組みやすい仕組みになっています。
徳島さんは中小DBへのプライベートアセット投資の普及についてはポジティブに見ていられますか? また、オルタナマルチのようなプライベートアセットのオープンエンド型ファンドを採用する場合の留意点等あれば教えてください。
徳島:先ほども話しましたが、マルチアセットの中に一部オルタナ資産があるのはよいですが、オルタナだけのマルチアセットはきついなという感じがします。ただし、オープンエンド型ファンドは一種の合同運用の形なので、小規模のDBの方には十分投資対象として考えていただいてよいと思います。
オルタナマルチに限りませんが、オルタナ投資をする上ではマネジャーを見る目が大事です。マネジャーがどんな物件を組み入れていて、どんなコントロールをしているか等のマネジャーに対するチェックが重要です。マネジャーはちゃんとした人かどうか、しっかりファンドをマネージしてくれるのかどうかを確認することです。投資開始時に納得できる説明をしてくれるだけでなく、投資後も半期や四半期等で運用状況等の説明をきっちりしてくれるマネジャーであることも大事です。
小倉:先ほどオルタナマルチは「きつい」とのコメントがありましたが、これはオルタナ資産だけではポートフォリオが作りにくいということでしょうか?
徳島:そうではなくオルタナ資産だけでポートフォリオを組み込むと「ごそっ」とやられるケースもあるのかなということです。私は(通常の)マルチアセットの中に多少オルタナ資産が入っているくらいの方がやりやすいかなと考えています。
DBにおけるESG投資への取り組み
小倉:GPIFや企業年金連合会に続き各共済組合も岸田前首相の掛け声の下、PRI原則に署名しESG投資への取り組みを積極化させる方向になっていますが、DBではPRI原則への署名は極めて限定的なものに止まっています。
マンパワーの問題もあると思いますが、多くのDBでは「アセットオーナーが何のためにESGに取り組む必要があるのか?」「ESG投資によって中長期的な超過収益が得られるのか?」という疑問が払しょくできていないように感じます。それでも世の中の流れに乗って、DBでもESG投資に対する関心は高まり、EUのサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)8条、9条該当商品への投資が増えていたのは事実です。
しかしながら、ロシアによるウクライナ侵攻以降、ESG投資に対する関心がやや低下してきているようであり、これがトランプ2.0の政策により加速されるのではないかとの懸念もあります。
昨年12月以降多くの米大手金融機関は気候変動対策を目的とした「ネットゼロ・アセットマネジャーズ・イニシアチブ(NZAM)」から離脱、1月9日には大手資産運用会社のブラックロックも離脱を公表しました。
気候変動対策が政治的圧力にさらされることは非常に残念なことですが、徳島さんは今後のESG投資についてどのようにお考えでしょうか。また、GPIFや共済組合、企業年金連合会と同レベルとはいかないでしょうが、DBも今以上にESG投資に積極的に取り組んでいく必要があるとお考えでしょうか。
徳島:米国のERISA法が規定している受託者責任も含めて、DBが何を優先すべきなのかということです。DBも含めてですがあくまでも運用は収益を優先すべきと考えています。従って、ESGは長期的な収益確保の支えになるのであれば意識して良いと思っています。決して盲目的なESG最優先ではありません。
GPIFも4月からの中期経計画を議論する中で、ESGに関しては市場収益率を確保しながらESG投資を行っていく方向です。つまりリターンを確保しながらESG投資を行うということです。収益を捨てたESG投資はやってはいけないと思いますし、中長期的にはリターン向上につながるという考えでGPIFも取り組んでいます。
小倉:本日は企業年金を取り巻く環境の変化から、2025年の運用課題に至る、多種多様な質問にお答えいただき誠にありがとうございました。読者であるDB関係の皆様にとって、徳島さんの含蓄のあり貴重なご意見は大変有益であったと思います。あらためて長時間のインタビューを引き受けていただいたことに対し御礼申し上げます。
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