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連載 小倉邦彦の資産運用時事コラム
第9回 フォローの風に乗るプライベートデットの最新動向を探る
後編:ダイレクトレンディングに関する井戸端会議 ~ 最新動向を議論する

2023年12月20日
小倉 邦彦 /  『オルイン』シニアフェロー
元 三井物産連合企業年金基金 シニアアドバイザー

パブリック市場(バンクローン、HY債)の変調を受け
PDは融資が大型化

■アッパーミドルのDLで大型融資が増加する背景

B氏:最近アッパーミドルのPDでは融資金額が大型化しているという話をよく聞きますが、これはバンクローン市場やHY債市場の状況が関係しているのでしょうか?

 

C氏:ご指摘の通りです。818日付のBloombergは「大手PEファンドVista Equity Partnersが保有するフィンテック企業のフィンアストラにDLとしては過去最高額となる53億ドルの融資枠が(DLファンドにより)提供された」と報じていました。53億ドルだと一般的なPEファンド1つ分の大きさなので、1つのDLファンドではとても融資できません。オーク・ヒル・アドバイザーズやブルー・アウル・キャピタル、HPSインベストメント・パートナーズ、KKRといった大手DLファンドがクラブディールで取りまとめたようです。数年前までは10億ドル越えのDLファンドによる融資は数えるほどでしたが、最近は数も増えパブリック市場のバンクローンやHY債の領域を侵食する勢いがあります。

 

D氏:10億ドル超えの案件は米国ではそれなりの件数が出ているようですが、欧州では米国ほどではないと思います。

 

B氏:従来、バンクローンやHY債が主戦場であったアッパーミドルの領域でプライベート市場がここまで拡大してきた背景はなんでしょうか?

 

C氏:2022年春ごろからのバンクローンにおけるプライマリー市場(新規調達市場)の低調が大きいでしょうね。銀行が低格付け企業への融資を厳格化してきたこともあり、2022年のプライマリー市場はFRBが利上げを開始した3月以降、新規発行量が大幅減になっています。2月までは月500億ドル程度の新規発行があったのが、3月以降は半減、20225月から20237月までは月200億ドルかそれ以下に落ち込んでいました。その傾向は今年も続いていましたが、20238月は410億ドルまで戻してきたのでやや回復の兆しありといったところです*5 。 ただし、これはリファイナンスも含めた金額なので、LBOを含む新規案件に限ると、さらに落ち込んでおり、ピーク時の2~3割程度になっているようです。

このようなパブリック市場での資金調達量の大きな落ち込みをカバーするために、バンクローン市場で調達をしていた大口の借り手が頼ったのがプライベート市場のDLです。巨額のドライパウダーを有し、ファンド規模も大きくなっていたDLファンドは10億ドルを超える規模のLBO案件にも5つ程度かそれ以上のファンドが集まり、クラブディールで積極的に融資を進めていったというのが昨年あたりからの大きな流れです。
5  JPMorgan HY Bond and Leveraged Loan Market Monitor 202395日による

 

D氏:20222月のロシアによるウクライナ侵攻以降、パブリック市場では価格のボラティリティが高まり、投資家、特にETF経由での個人投資家が逃避したのも大きく影響しています。バンクローンのシンジケート後に銀行がセカンダリー市場で売却することも難しくなり、自らのバランスシートに抱えてしまったというわけです。銀行はプライマリー市場での新規引き受けよりもバランスシート上のローン債権売却を優先しているという状況です。

 

B氏:なるほそそういうことですか。コスト的にはパブリックよりもプライベート市場の方が高くなりますが、それでも借り手にとってはメリットがあったのでしょうか?

 

C氏:そもそもパブリック市場では新規調達が難しいというのが第一ですが、クラブディールで限られたDLファンドのマネジャーと交渉を進めていくので、大勢の参加者がいるパブリック市場に比べて迅速に案件が組成できるということや、融資条件等で柔軟な対応が期待できるという点が評価されたのだと思います。特にユニトランシェで対応する場合はメザニンレンダーが不要となるので、より迅速で柔軟な対応が可能になると思います。従って、新規のLBOに限らず従来バンクローンで調達していた案件であっても、リファイナンスについてはDLを利用するといったケースもそれなりに出現しています。冒頭で紹介した53億ドル案件もバンクローンのリファイナンスにDLを使用したケースです。直近でも有名なPEファンドのスポンサーであるThoma Bravoが投資先で借り入れていた約30億ドルのバンクローンのリファイナンスにDLを利用しています。貸し手はゴラブ、アレス、ブルーオウル、オークヒル、ゴールドマン・サックスといった米系の大手GPが名を連ねており15ファンドのクラブだったようです。

 

B氏:DLにとっては信用力が比較的高い大手の借入人からの需要増でポジティブではありますが、1つの案件のサイズが大きいと、分散というリスクコントロールの観点ではやや問題ではないでしょうか。

 

C氏:そうですね。120億ドルの融資を5社のクラブで行ったとしても1ファンド当たりの金額は4億ドルになります。従って、アッパーミドルの大型案件を手掛けるようなファンドはファンドサイズそのものが大きくなっているようです。従来だと4060億ドル規模だったものが、大型ファンドではLP投資額だけで100億ドル近くになっているようですね。通常は集中化の観点から1つの取引先に対する融資額がファンド全体の10%以内とするといった制限があると思いますが、そこは気を付けていると思います。

 

D氏:通常は1ファンドで3040社に融資をしてリスクを分散していくので、1件で数億ドルの融資を実行するとしても、1つのファンドで取り扱う大型融資の件数は限定的だと思います。

■大型案件ではコベナンツ・ライトが進む?

B氏:とはいっても大口の借り手にとってパブリック市場ではコベナンツ・ライトが当たり前だったので、PDでそのあたりが緩んでこないかちょっと心配です。

C氏:コベナンツに関しては貸し手優位の状況下なので大口の借り手に対してもしっかり保持しているとは聞いていますが、米国の大型案件ではコベナンツ・ライトあるいはコベナンツはあるもののコベナンツ・ルーズ(緩い財務制限条項)の融資も増えてきているようです。また、ユニトランシェの案件では利息の一部繰り延べが可能となるペイメント・イン・カインド(PIK)を盛り込んだ融資案を提示するケースも見受けられます。2023106日付のBloombergは「プライベートクレジット、利息繰延可能ローンで銀行に対し優位性」との見出しで、米投資会社カーライル・グループが医療機器メーカーのメドトロニックの一部事業に対して計画しているバイアウト案件で、プライベートクレジットファンドが利息の一部繰り延べが可能となるペイメント・イン・カインド(PIK)を盛り込んだ融資案を提示したと報道していました。同じ案件で競合するバンクローンと差を付けるのが狙いだったようです。LBO市場でDLと銀行とのつばぜり合いが激しくなっていることの証左でしょうか。このユニトランシェは金額が26億ドル、スプレッドはSOFR+550bp、同スプレッドの半分にPIKを適用するオプションが可能になると報じられています。


D氏:欧州ではコベナンツについては大型案件でも比較的厳格に対応しているので、米国とはちょっと状況が違いますね。

 

B氏:元々パブリック市場で資金調達できる大型企業なので、コベナンツ・ライトでも元々の信用力が高く問題ない、といった説明をファンドマネジャーからはよく聞きますが、どうなんでしょう。

 

D氏:大型でコベナンツ・ライトの案件では融資期間が通常7年程度のところを35年に短縮する等でリスクマネジメントを図っている可能性もありますね。

 

C氏:マクロ環境が複雑化してきて大型企業でも苦境に陥るところは出てくると思います。業界の中でしっかりとした基盤を築いている企業はよいですが、そうでないところはコベナンツ・ライトではアラーム機能(コベナンツのこと)が低下しているのでちょっと要注意ですね。

■DLは既に大型LBOの世界でも地位を確保、パブリック物と共存する方向へ

B氏:今はパブリック市場(バンクローン)の低迷でDLは大きな恩恵を受けており、アッパーミドルではファンドの大型化も進んでいるようですが、パブリック市場でも今年の8月くらいからは投資家のリスクアペタイトも徐々に戻っているようです。将来これが本格的に回復したときにどうなるのか?  DLもファンドサイズが大きくなっているので案件を探すのに苦労するようだと心配です。優良案件がないからといって融資先をセカンドティアにレベルダウンさせるのでは困りますね。

 

C氏:パブリック市場でのリスクアペタイトは多少戻ってはいるようですが、それでも使い勝手の良いDLは引き続き一定の存在感を維持しています。KKRは「DLは(従来パブリックを利用していた借り手から見て)一時的な(パブリック市場低迷時の)戦術的投資先としての位置付けから変化し、資産クラスとしての地位を確立しつつある」とレポートしています。今後は数十億ドルを超える大型のLBO案件では、パブリック市場のバンクローンとプライベート市場のDLを併用するようなデュアル・トラッキング・プロセスが増えてくるとも言われています。

 

B氏:なるほどですね。そうするとDLファンドも大規模融資に対応できる一部のアッパーミドルの大型ファンドと、ミドルやローワーミドル主体で中堅企業に対して堅実にコツコツ融資をするファンドに2極化しそうですね。

 

D氏:それぞれの特徴を活かしていくとそうなりますね。

 

B氏:先般コンサルタントと相談したときには、(足元では)ミドルやローワーミドルがよいと勧められました。

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DLにおけるセカンダリー投資の現状

小倉 邦彦

 『オルイン』シニアフェロー
元 三井物産連合企業年金基金 シニアアドバイザー

1980年三井物産株式会社入社。本社、広島支店、ドイツ(デュッセルドルフ)等にて経理、財務業務を担当後、1998年~2006年 本店プロジェクト金融部室長。
2006年~2009年 米国三井物産ニューヨーク本店財務課 GM。
2009年~2011年 本店財務部企画室 室長。
2011年~2013年 三井物産フィナンシャルサービス株式会社 代表取締役社長。
2013年~2017年 三井物産都市開発株式会社CFO。
2017年5月~2022年6月 三井物産連合企業年金基金 常務理事兼運用執行理事。
2022年7月~2023年3月 同基金シニアアドバイザー。

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