昨年来、地政学的リスクの高まりやインフレの高進といった歴史的イベントに直面し、これまで急速に拡大してきたESG投資は一転、逆風下に置かれているといっても過言ではない。
ESG投資にブレーキをかける形となった政策変更や市場参加者の行動変化の背景にはどのような動きがあり、またESG投資自体が持続可能であるために解決すべき課題は何か。識者への取材をもとに考えていきたい。
思いがけぬ逆風にさらされた
2022年のESG投資
「世界的には、一見すると揺り戻しとも理解できる様々な動きも見られた」――金融庁のサステナブルファイナンス有識者会議が6月6日に公表した報告書案では、前回の報告書策定後の1年間をこう振り返っている。基本的にはESG投資を推進する立場にある政府が、公的文書で「揺り戻し」に言及した例はほとんどない。周知のとおり、世界のESG投資はここ10年ほど右肩上がりが続いてきたが、グリーンボンドなどサステナブル債券市場の発行額は2022年に減少に転じ、潮目の変化が感じられる(図1)。経済産業省をはじめさまざまな機関でサステナブルファイナンス分野の委員などを務める、BNPパリバ証券グローバルマーケット統括部副会長でチーフESGストラテジストの中空麻奈氏は、「勢いが鈍化した背景には、①金利水準の変化、②新型コロナウイルスの収束観測、③ロシアによるウクライナ侵攻の3点があった」と指摘する。