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企業年金担当者が知っておきたい 海外DC最新事情 
第13回 メキシコ

2026年10月15日
樋渡靖一郎 /  野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング株式会社 投資戦略部 シニア・ポートフォリオ・マネージャー

DBの普及が頭打ちになるなか、同じ企業年金としてDBとDCが連携強化を図る動きがある。また、日本のDCが海外の制度を参考に創設されたことを踏まえると、海外のDC事情についてアンテナを張っておくことは、企業年金の今後を考える上でも非常に有意義だろう。そこで、DC制度の調査を進める野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティングの樋渡靖一郎氏から、海外DCの事例を紹介していただく。

はじめに

今回はメキシコを取り上げます。メキシコは、中南米ではチリなどに続いて、個人勘定型へ移行した国です。

1997年に積立方式が導入されてから約30年が経過し、「最初の世代の受給」が始まる時期に入りましたが、これまでにも制度改革が行われてきました。まず、その特徴について見ていきましょう。

メキシコの年金制度の全体像(3層構造)

メキシコの老後所得保障は、①税財源による高齢者向け給付、②就労に伴う義務的な年金、③任意の上乗せ貯蓄という3層で構成されています。ただし、すべての人が同じ順序で3層の給付を受け取るという意味ではありません。

第1層は、税財源による高齢者向け給付です。

最も基礎的な制度が、「高齢者福祉年金(Pensión para el Bienestar de las Personas Adultas Mayores)」です。保険料の納付歴を問わず、65歳以上のすべての国民に定額が支給されます。

財源は全額税金です。現役時代に正式な雇用に就いていなかった人や、十分な年金保険料を納められなかった人にとっても、老後の所得を支える役割を果たします。就労履歴に左右されにくい点が特徴です。

さらに、2025年からは、60~64歳の女性を対象とする「女性福祉年金(Pensión para el Bienestar de las Mujeres)」が段階的に導入されています。家事や育児によって就業期間が短く、個人勘定の残高が少ない女性への配慮を打ち出したものです。

第2層は、正規雇用を中心とする義務的な年金制度です。

民間被用者は主にIMSS、公務員は主にISSSTEの制度に加入します。IMSSは1997年、ISSSTEは2007年に、賦課方式の確定給付型から個人勘定型へ移行しました。後ほど詳しく説明します。

第3層は、任意の上乗せ貯蓄です。

加入者は、個人の判断でAFOREの口座に自主的な上乗せ拠出を行うことができ、一定の範囲で所得控除などの税制優遇を受けられます。また、アプリ(AforeMóvil)やコンビニ(OXXOなど)から少額の拠出ができ、個人事業主も口座を持つことができます。第2層から漏れた人々を制度に取り込む入口としても位置づけられています。

個人勘定(第2層)について

個人勘定への全面移行(1997年)

IMSSの年金は、現役世代の保険料で高齢者の年金を賄う、賦課方式の確定給付型年金でした。しかし、財政の悪化が見込まれたことから、1995年に新しい社会保険法が成立し、1997年7月に施行されました。これにより、加入者一人ひとりの口座に保険料を積み立てる個人勘定型へ全面的に移行しました。

新制度では、加入者の口座に雇用主・労働者・国の三者が拠出し、積立金の運用は、AFOREと呼ばれる民間の年金運用会社が担います。加入者はAFOREを自由に選び、乗り換えることができます。

実際の運用は、各AFOREが設定するSIEFOREという投資ファンドを通じて行われます。監督機関として、CONSAR(退職貯蓄制度全国委員会)が設置されました。

公務員年金の改革(2007年)

公務員を対象とするISSSTE(国家公務員社会保障庁)の年金も、個人勘定型へ移行しました。新規採用者は個人勘定に加入することとなり、公的なAFOREであるPensionISSSTEが設立されました。

ターゲットデート型ファンドの導入(2019年)

それまでの年齢層ごとのファンドから、生まれた年ごとのファンド(SIEFOREs Generacionales)に切り替えられました。若いうちはリスク資産を多めに保有し、退職が近づくにつれて安定的な資産へ移していく、ターゲットデート型の運用です。

拠出水準と受給要件の見直し(2020年)

1997年の制度設計では、老齢向けの拠出率が賃金の約6.5%と低く、最低保証年金を受け取るには1,250週(約24年)の拠出が必要でした。所得代替率は3割前後にとどまるという試算もあり、2020年に大きな改革が行われました。主な内容は次のとおりです。

① 拠出率の引き上げ:雇用主の負担を2023年から2030年にかけて段階的に引き上げ、総拠出率を約6.5%から約15%へ高めます。引き上げ幅は賃金水準によって異なり、高所得者ほど雇用主負担が重くなります。労働者本人の負担は据え置かれ、国の拠出は低所得者に重点的に配分されます。

② 受給要件の緩和:最低保証年金の受給に必要な拠出期間を1,250週から750週へ短縮しました。その後、2031年にかけて1,000週まで段階的に引き上げられます。

③ 最低保証年金の増額:保証額を、年齢・拠出期間・賃金水準に応じて決定する方式に改め、以前より手厚くしました。

④ 手数料の上限規制:AFOREの手数料について、米国・コロンビア・チリの平均を参照した上限を設けました。これにより、手数料は上限規制で大きく低下、時点によっては0.5%台まで低下しています。

年金福祉基金(Fondo de Pensiones para el Bienestar)の創設(2024年)

賃金が一定水準(IMSS加入者の平均賃金程度)以下の人を対象に、上限付きで退職前の賃金水準まで補う「年金福祉基金」が創設されました。ただし、財源の一部に、請求されていない休眠口座の資金を充てることについては、批判が集まりました。

このように、メキシコの個人勘定(第2層)は、国が給付を下支えする仕組みを重ねてきたといえます。

日本への示唆

① 制度からこぼれる人への対応

メキシコでは、露店や日雇いなどのインフォーマル就業(社会保険に加入していない働き方)に従事する人や、会社勤めとの間を行き来する人が多くおり、こうした人々は、個人勘定への拠出を続けることが難しいのが実情です。

2020年の改革で、最低保証年金の受給に必要な拠出期間は短縮されたものの、社会保険に加入できる仕事に就きにくい人の問題が十分に解消されたわけではありません。日本でも、企業型DCやiDeCoの加入機会を広げるだけでなく、拠出を続けにくい人への対応を考える必要があります。

② 公的な下支えと自助努力のバランス

メキシコでは、拠出率の低さが早くから指摘されていたにもかかわらず改革が遅れ、積立だけでは不足する分を、後から国が給付で補うことになりました。日本でも、就職氷河期世代など、将来の年金額が低くなりやすい層への対応が課題になっています。2025年改正では、基礎年金の底上げについて、将来の措置を検討する規定が盛り込まれました。DCなどの自助努力を広げる一方で、それだけでは十分に備えられない層を公的年金でどのように支えるのか、早めに方向性を示すことが重要です。

 

樋渡靖一郎

 野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング株式会社 投資戦略部 シニア・ポートフォリオ・マネージャー

マルチアセット分析部(現ファンド分析部)にて、機関投資家(年金含む)向けのファンドの評価業務を行う。現在は投資戦略部でファンドオブファンズの投資助言及びそれに関する調査・分析業務に従事。