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【為替相場】ドル円155円台攻防!日米金融政策の綱引きと急落の背景、日銀の12月利上げは?

2026年9月7日

当シリーズでは、高千穂大学の商学部教授で三菱UFJ銀行の外国為替のチーフアナリストを務めた内田稔氏に、為替を中心に金融市場の見通しや注目のニュースをウィークリーで解説してもらう。※この記事は9月4日に配信された「内田稔教授のマーケットトーク 第97回 日銀の12月利上げと米8月雇用統計」を再編集しています。ご質問はYoutubeチャンネルのコメント欄からお願い致します。

今週の為替市場概況:円独歩高とドル軟調の背景

はじめに、今週の主要通貨の対ドル変化率です。今週は円が独歩高でした。一方、米国ではISM非製造業景気指数やADP雇用報告が予想を下回ったことから、ドルはやや軟調に推移しました。ただ、先ほど発表された8月雇用統計が予想を上回ったことから、この位置まで持ち直しました。もっとも円を除き、今週は総じて小動きだったこともわかります(スライド3)。

ドル円155円台急落の舞台裏:日米要人発言と介入疑惑

今週はドル円が大幅に下落しました。先週金曜日28日にはFRBウォーシュ議長のジャクソンホールでの講演を受けてドル買いが優勢となりました。議長が「基調的物価の目標への鈍化に確信なければ​やるべき仕事ある」と利上げスタンスを示した為です。また、同時間に発表された雇用統計の年次改定値もドル買いを促した可能性があります。2025年4月から2026年3月までの非農業部門雇用者数に対する改定値(暫定値、来年2月に確定値)が示され、7万9千人の減少にとどまったことが明らかになりました。減少ではあるものの、その幅が限られ、労働市場の緩やかな回復が確認された格好です。

今週に入り、ドル円はベッセント財務長官による執拗な日本に利上げを求める発言にもかかわらず、160円台を維持しました。2日には植田総裁が、「次回の会合を含めて毎回の会合で利上げをしっかり議論する」と発言しました。具体的な会合に言及するのは、事実上の利上げ宣言に等しく、9月会合での利上げはこれでほぼ確実でしょう。ただ、9月の利上げはすでに織り込み済みであり、それでもドル円は底堅さを維持しました。高田審議委員からもタカ派の発言が聞かれましたが、同氏はもともとタカ派で知られており、相場にどの程度、影響したのかは不明です。ただ、その後、為替介入にも似たドル円の急落をみた後、3日にドル円は155円台まで急落しました。

尚、この下落に関し、日銀の当座預金残高の事前予想と実績に大きな乖離はありませんでした。また、先ほどFRBから公表されたFIMAレポ実績もゼロでした。従って、為替介入ではなかったことになります。ここで、興味深いのは今週のドル円の安値が155円30銭でとどまったことです。なぜなら、年初来、ドル円の安値がわずかずつではありますが、切り上がっているからです(スライド4)。

155円は強力なサポートラインか?その重要性と背景

年初来のドル円を見ると、レートチェック後の安値が155円04銭でした。また、7月31日の協調介入後の安値が155円23銭。そして、今週の安値が155円30銭です。やはり、155円は強力なサポート(下値支持線)として機能していることが確認されました。もっとも、強いサポートを仮に下抜けすると、今度はそこが強いレジスタンス(上値抵抗線)として機能することも多く、留意が必要です(スライド5)。

日米金融政策の綱引き:利上げ観測と米国債市場への波及

今週はベッセント財務長官が執拗なまでに日本に利上げを求める発言を繰り返しました。一国の財務大臣が他国の政策にここまで注文する例はありません。これは裏を返せば米国債の下落、すなわち長期金利上昇への強い警戒の表れでしょう。日本の緩和的な政策は、円安を煽り、インフレ期待を刺激しながら、長期金利を押し上げます。長期金利はグローバルに共振し合いますから米国にも波及するのです。こうしたことを避けるため、米国は円安を止める日本の自助努力として利上げを求めているのでしょう(スライド6)。

今週の内外からの発言を受け、日銀の年内利上げに対する織り込みは2日にはほぼ2回に達しました。これは、四半期毎の利上げであり、来年半ばにも日本の政策金利が2%に達することになります。その際のインフレ率にもよりますが、短期の実質金利(=政策金利-インフレ率)のプラス転が視界に入れば、円相場が反転する可能性も高くなります(スライド7)。

ここから米国の8月雇用統計を振り返ります。赤字は7月の実績や8月の事前予想を上回ったもの、青字はその逆です。非農業部門雇用者数をはじめ、多くの項目が赤字となりました。特に、労働参加率の上昇に注目です。これは就業者に求職者を加えたもので、労働参加率の上昇は、失業率に対する上昇圧力となります。労働市場にそれだけ多くの人が参加しているからです。それにもかかわらず、今回失業率は横ばいを維持しており、実際には「赤字」に近いと評価してもいいでしょう(スライド8)

※小数点以下第2位まで求めると実際には4.09%から4.14%に小幅上昇

ところで、市場では雇用統計が注目されますが、この動画では非常に便利な指標としてカンザスシティー地区連銀の労働市場情勢指数(LMCI)を紹介してきました。これは、20種類以上の労働市場に関連する経済指標から労働市場の状態を表すものです。過去平均と比較した現在の労働市場の状態を示すレベル(赤線)と労働市場の勢いの方向性を表すモメンタム(青線)とに分かれます。特に、モメンタムについては、7月の時点ですでに4年ぶりの水準まで上昇していました。この為、本動画でも7月の雇用統計後、労働市場が改善しているとの見方を変える必要性は低いとの見方を示しています。今回の雇用統計は、そうした見方を裏付けるものと言えます。尚、このLMCIは雇用統計の翌週に発表されます。来週の日本時間の10日午前0時です(スライド9)。

一方、金融政策に対する見方はFRBの中でも割れています。先週の動画で紹介したシュミット総裁やハマック総裁、そしてウォーシュ議長はインフレへの警戒を強める一方、ウィリアムズ総裁、ウォラー理事らはやや楽観的です。実際、個人消費支出物価指数(PCE)のヘッドラインやコアが高止まりしている一方、上下24%ずつを除いた同刈込中央値(ダラス地区連銀算出)は2%台前半まで低下してきました。9月利上げを占う上で、来週の米国の物価統計が重要です(スライド10)。

ところで、以前、協調介入が繰り返される可能性は低いことを紹介しましたが、それを裏付ける発言が聞かれました。ECBの政策委員のメンバーでもある独連銀ナーゲル総裁が、先日の円買いユーロ売りに対する欧州としての不快感や不信感を示したからです。やはり、ベッセント財務長官が協調介入の根拠に挙げた円安やアジア通貨に波及する懸念はG7では全く共有されていなかったと考えられます。従って、仮に協調介入があるとすれば、米国はドルを売らざるを得ないでしょう。ところが米国は経常赤字国であり、不足する資金を海外勢による米国債投資に依存しています。そうした中で、ドル安を招きかねないドル売り介入には慎重とならざるを得ないでしょう(スライド11)。

来週のドル円展望:155円の攻防と日米の物価・景況感指標

では来週のポイントです。155円割れには日銀の12月利上げ観測の高まりという円高要因に加え、米国の利上げ先送りとの見方によるドル安も必要でしょう。そこで来週は、日米の物価統計に注目です。仮に、米国の物価が落ち着く一方で、高い日本の企業物価の伸びが確認された場合、ドル円が155円を下抜けする可能性が高まります。155円がこれまでの強いサポートだっただけに、仮にそこを下抜けすると、年初来安値である152円付近まで下落する可能性があり、要注意です。

一方、日銀は為替相場だけを見て金融政策を運営しているわけではありません。当然、日本の景況感も重要であり、来週の日本の景気ウォッチャー調査にも注目です。こちらが改善していれば、もちろん利上げに対する追い風ですが、悪化していれば、さすがに12月利上げの織り込みは後退するでしょう。その場合、ドル円が157円台を回復する可能性も十分と言え、来週は広い値幅を想定する必要があります(スライド12)。

その景気ウォッチャー調査は、年明けに急落した後、いくらか持ち直したとは言え、「現状」、「先行き」ともに50を大きく下回ったままです。こうした状況の中、9月利上げに続いて12月も利上げに踏み切るとは考えにくく、現時点では9月の次の利上げは来年以降にずれ込むと予想しています。仮に、12月利上げに踏み切るとすれば、それはこれまでの政策が後手に回っていた「ビハインド・ザ・カーブ」を自ら認めるようなものでしょう(スライド13)。

「内田稔教授のマーケットトーク」はYouTubeからもご覧いただけます。

公式チャンネルと第97回公開分はこちらから

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