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分散投資の次なる一手を考える ニッチオルタナ最新トレンド
第6回 リーガル・ファイナンス

2026年7月21日

国内投資家にはまだ普及していない投資対象である「ニッチオルタナ」のリスクやリターン特性、投資妙味を検証する本企画。オルイン本誌で連載していたものを、オルインWebに引っ越し、不定期で連載していく。

第6回はリーガル・ファイナンスにフォーカスし、同分野で高い実績をもつビクトリー・パーク・キャピタルでマネージング・ディレクターを務めるチャド・クラミッジ氏にその魅力や留意点について聞いた。

ビクトリー・パーク・キャピタル マネージング・ディレクター チャド・クラミッジ氏


リーガル・ファイナンスの歴史と市場規模

――近年注目を集めるリーガル・ファイナンスですが、現在までの拡大の歴史や市場規模、取引の概要について教えてください。

リーガル・ファイナンスは、1990年代にオーストラリアやイギリスで誕生しました。その後、国際的な企業紛争、知的財産権、集団訴訟など、訴訟や仲裁が世界規模で大型化・複雑化したことで、膨大な訴訟費用を捻出するために、米国を中心に市場が発展。現在の市場規模は、参入企業が40社超、運用資産残高は約161億米ドルと推定され、ある程度のサイズをもったニッチ市場へと拡大しました。*

2032~2035年にかけては、現在の倍近い370億米ドルから530米億ドル規模へと成長していくと見積もられています。訴訟案件が大型化していることや、インターネットやAIの進展に伴い、グローバルなビジネス展開の中で著作権をはじめとする知的財産権や独占禁止法などに関連する紛争が急増していることがその理由です。

*Harvard Law School Center on the Legal Profession、Westfleet Advisors、Market Research Futureなどの情報源に基づく推計値

――銀行はこの分野に融資をしないのでしょうか。また、成長が期待されながらも、参入企業が40社程度に留まっている理由は何でしょうか。

大きく2点に分けられます。

第一に、法律事務所に関わる規制・職業倫理上の制約です。米国では多くの州において、弁護士以外の第三者による法律事務所の所有、経営への関与、弁護士報酬の分配が厳しく制限されています。そのため、外部資本が法律事務所そのものに直接出資したり、訴訟の運営や弁護士の専門的判断に関与したりすることは容易ではありません。一方で、リーガル・ファイナンスは法律事務所を所有・支配するのではなく、訴訟関連債権や将来キャッシュフローなどを分析し、法的リスクとクレジットリスクを見極めたうえで資金を提供する領域です。このため、単なる資本力だけでなく、法務・訴訟実務への理解と、弁護士の独立性を損なわない適切なストラクチャリング能力が参入障壁となっています。

第二に、伝統的な銀行では実務上、法律事務所の将来キャッシュフローや担保価値を見極めにくいという問題です。法律事務所の収益の多くは成功報酬に依存していますが、法廷闘争が数年間に及ぶ間、和解が成立するか判決が確定するまでは、どれほど勝訴確率が高い案件であっても収益として認識することはできません。銀行の一般的な融資審査の枠組みでは、この不確実なキャッシュフローに与信を与えることは困難です。ここに構造的な資金ギャップが生じるため、専門的な目利きを持つプライベート・クレジットマネジャーが資金を支援するニッチな投資機会が成立しています。

リーガル・クレジットと訴訟ファイナンスの違い

――リーガル・ファイナンス市場にはどのような投資戦略がありますか。

よく知られているのは、「訴訟ファイナンス」です。出資する見返りとして、訴訟で得られる和解金や成功報酬などの一部を得られる、というものです。これとは別に、「リーガル・クレジット」と呼ばれる、弁護士費用や成功報酬、和解金といった法律事務所の事業活動から生じる複数のキャッシュフローを担保にした貸付があります。

最大の違いは、それが「単一案件の成果に依存するベンチャー型投資」か、あるいは「法律事務所の様々な資産を裏付けとしたクレジット投資」かという点にあります。訴訟ファイナンスは、特定の訴訟案件の勝敗にリターンが大きく左右される投資です。勝訴すれば高いリターンを得られる可能性がある一方、ノンリコース型であるため、敗訴した場合には元本回収が困難になるリスクがあります。また、投資期間が訴訟の進行や和解・判決の時期に左右されるため、資金回収までの期間が長期化するリスクもあります。

対するリーガル・クレジットは、法律事務所全体の包括的な受取債権を担保に取り、事務所そのものに融資を行うクレジット投資です。何を担保に取るか、裏付けとなる資産に応じてセクターがわかれます。

リーガル・クレジットのメリットは、単一案件、単一事務所、単一セクターに左右されることなく債権を回収できる点です。また、明確な満期が設定されているほか、定期的なインカムが得られるため、キャッシュフローの予見可能性が高いです。デメリットとしては、訴訟ファイナンスのように単一案件の成功によって大きくリターンが上振れする性質は限定的である点が挙げられます。一方で、シニア担保付かつリコース型のローンでありながら、相対的に高いリターンを目指せる投資戦略です。当社のリーガル・クレジット戦略は、ネットで13%〜15%程度のリターンを目標としています。

――リーガル・クレジットの投資対象には、どのような種類がありますか。

弊社では投資対象セクターを6つに分類し、多様な投資領域の担保プールへの分散に注力しています。例えば、保険契約を組み合わせたローンでは、訴訟関連の権利や将来キャッシュフローに加え、一定の条件を満たした場合に保険金による支払いが見込まれる仕組みを活用することで、回収可能性の安定化を図ることができます。また、すでに勝訴・和解が確定していても、実際の支払いまでに数年かかる場合もあります。「ポストセトルメントローン」は、将来支払われる和解金などを担保として法律事務所につなぎ資金を提供するローンですが、いくら回収できるかが予め分かっているという点で、リスクが抑えられたセクターです。

――伝統的アセット(株式・債券)との相関関係について教えてください。

相関係数については、2018年12月から2025年12月までの期間で見ると、株式や債券といった伝統的アセットの市場サイクルとの連動性は限定的であり、概ね低相関、場合によってはマイナスの相関を示しています。これは、訴訟や紛争に起因する資金ニーズが、必ずしも景気循環や金融市場の動向に左右されるものではないためです。景気後退局面では、企業再編、倒産、破産管財に関連する訴訟や債権回収手続きがむしろ増加する可能性もあり、伝統的アセットとは異なるリターン源泉を有する点が特徴です。

――リーガル・ファイナンス市場では、案件はどのように獲得されますか。

訴訟ファイナンス、リーガル・クレジットのいずれにおいても、案件の多くは運用会社が法律事務所や関係者との直接的なネットワークを通じて発掘・組成する形が中心です。市場規模がまだ限られているうえ、案件ごとの法的論点や資金使途、担保となる債権の性質が個別性を持つため、案件獲得には業界内での信頼関係や継続的なリレーションシップが重要になります。

――投資実行後のモニタリングやリスク管理はどのように行われていますか。

個別の案件のデューデリジェンスに加え、独自のシステムで管理するマネジャーが多いと思います。弊社では、独自のデータ分析・リスク管理システムを使用しており、取得している担保について、タイムリーかつアクティブにモニタリングしています。

また、裁判の見通しや回収可能性については、すべての案件を一律に評価するのではなく、案件ごとの法的論点、担保となる債権の性質、回収までの期間、関係当事者の信用力などを踏まえて多面的に検証しています。。過去の案件データや統計的な分析を活用しつつ、必要に応じてリーガルのバックグラウンドを持つチームや外部専門家の知見も取り入れ、定量・定性の両面からリスクを評価しています。

投資する上での注意点

――投資家が留意すべき、この資産クラス特有のリスクは何でしょうか。

主なリスクとして、担保価値の毀損、案件の長期化による回収遅延、法律事務所の破綻等が挙げられます。担保管理について、当社では独立したリスク管理チームが別部隊として存在し、過去の案件データを統計化して綿密なリスク管理を行うほか、外部専門家がデータの正確性を定期的に検証しています。

――投資家からの反応はいかがでしょうか。また、ポートフォリオに入れる際の最適な位置づけについてアドバイスをお願いします。

ここ数年、日本の機関投資家の間でダイレクト・レンディングへの配分が急ピッチで拡大してきましたが、足元では「ポートフォリオがコーポレートリスクに偏りすぎている」という課題感も浮上しています。企業の業績に依存しない別のインカム源泉を確保し、実質的な分散を図りたいというニーズの中で、このリーガル・クレジットという選択肢は非常に強い関心をいただいています。

一方で、採用への課題としては、なじみのない分野ということで、理解の難しさがあります。リスクがどこにあるのか、リターンの構造はどうなっているのかなど、投資する上で理解が必要な項目が多く、ハードルとなっていると感じます。

市場規模がまだ小さく、プライベートクレジット市場の主流であるダイレクト・レンディングと低相関であることなどを考慮すると、ポートフォリオにおける位置づけとしては、コアとなるプライベートクレジット資産に対してリスクリターンと分散効果を向上させるための補完的な役割が期待できると考えています。