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マールアラーゴ合意が話題も、政治的な取り決めによる円高が定着するとは言い難い理由

「内田稔教授のマーケットトーク」をWeb記事で
2025年4月24日
内田 稔 /  高千穂大学 教授/FDAlco 外国為替アナリスト

当シリーズでは、高千穂大学の商学部教授で三菱UFJ銀行の外国為替のチーフアナリストを務めた内田稔氏に、為替を中心に金融市場の見通しや注目のニュースをウィークリーで解説してもらう。 ※この記事は4月18に配信された「内田稔教授のマーケットトーク 【第27回】マールアラーゴ合意の考察」を再編集しています。

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足もとでは神経質な相場が続いており、4月21日週もドル円相場が140円を割り込む、あるいは何かのヘッドラインで135円台まで瞬間的にドル安円高に触れる可能性も決して否定はできない状況です。一方で何らかの政治的な取り決めによって円高が進んだ場合もその動きが定着するとは言い難い状況です。

そもそも、ここまで円安が進んだ背景には日本の貿易赤字や新NISAなどによる対外証券投資、企業の海外への対外直接投資といった国際収支の変化があります。また、日本円の弱点でもあるマイナス圏に位置している日本の実質金利も影響しています。この点が変わらなければ円高トレンドに変わることは難しいでしょう。

出所:内田氏

そもそもトランプ大統領の狙いは、日本に対する貿易赤字の削減と米国でモノを売るのであれば米国内で作ってくれ、という点にあると考えらえます。

日本の米国に対する貿易黒字は約9兆円でした。昨年の日本の貿易収支は約5兆円の赤字で、ここには米国に対する貿易黒字の約9兆円が含まれています。この為、トランプ大統領の意向に沿って対米黒字が減った場合、日本全体の貿易赤字は5兆円から9兆円あるいは10兆円と2倍程度に膨らむことになります。

また、米国内での生産を増やしてほしいという要求をのみ、日本の生産の一部を米国にシフトすることになった場合もやはり円安要因になります。さらに、円安是正の合意が結ばれる、あるいは交渉を通じて円高方向に振れた場合、おそらく日銀の利上げも当面棚上げになる可能性が高いでしょう。

先ほどドル安円高の背景は主にドル安だとお話ししましたが、日銀の利上げ観測による円高という部分も若干はありましたから利上げが当面棚上げとなれば、円安方向に作用すると考えられます。

今後の交渉過程においてドル円相場が場合によっては135円程度まで急落する場面も否定はできませんが、そうした流れが定着し、そして円高が進む展開は考えにくいと見ています。

4月21日週の注目ポイント

最後に4月21日週の注目ポイントです。やはり注目は加藤・財務大臣とベッセント財務長官の協議です。現時点での報道によると2国間会談の開催に向けて調整中となっています。実際に加藤財務大臣は「日米間の為替の課題については、私とベッセント財務長官との間で、緊密に協議することを確認している」、「訪米時にそうした機会があれば、その機会を活用して同長官と議論する」などと発言しています。

一方、4月18日に米国から帰国した赤澤・経済再生大臣は交渉を経て最後に何らかのパッケージとして合意内容が出来上がるといった趣旨の発言をしています。従って、来週、為替に関して小出しで何かの方向性が決まるような状況にはならないと思われます。

当面、「為替の議論があった」というヘッドラインが出るだけで円高に進むこともありえる状況ですから、4月21日週については為替に関する協議があったかどうかも含めてヘッドラインリスクに注意しながら少々様子見の1週間になるでしょう。

4月14日週のドル円は145円台で上値が重い展開でした。一方でここまでご説明した通り他通貨との比較も交えますと円が非常に強いというわけではなく140円を割ったとしても、深々と円高が進む状況とは考えにくく、少々硬着感の強い相場展開になると予想しております。

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「内田稔教授のマーケットトーク」はYouTubeからもご覧いただけます。

公式チャンネルと第27回公開分はこちらから

内田 稔

 高千穂大学 教授/FDAlco 外国為替アナリスト

1993年慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、東京銀行(現、三菱UFJ銀行)入行。マーケット業務を歴任し、2007年より外国為替のリサーチを担当。2011年4月からチーフアナリストとしてハウスビューの策定を統括。J-Money誌(旧ユーロマネー誌日本語版)の東京外国為替市場調査では、2013年より9年連続アナリスト個人ランキング部門第1位。2022年4月より高千穂大学に転じ、国際金融論や専門ゼミを担当。また、株式会社FDAlcoの為替アナリストとして為替市場の調査や分析といった実務を継続する傍らロイターコラム「外国為替フォーラム」、テレビ東京「ニュースモーニングサテライト」、News Picks等でも情報発信中。そのほか公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、証券アナリストジャーナル編集委員会委員も兼任。日本証券アナリスト協会検定会員、日本テクニカルアナリスト協会認定アナリスト、国際公認投資アナリスト、日本金融学会会員、日本ファイナンス学会会員、経済学修士(京都産業大学)