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連載 小倉邦彦の資産運用時事コラム 第25回
企業年金関係者が語る2025年の運用課題(前編)

2025年4月21日
小倉 邦彦 /  『オルイン』シニアフェロー
元 三井物産連合企業年金基金 シニアアドバイザー

4月2(日本時間3日早朝)にトランプ大統領は「Liberation Day(解放の日)」と称して追加関税に関する詳細を発表した。相互関税については、中国34%EU20%、日本24%等、米国の主要な輸入先の多くで20%以上の税率が設定されている。元々市場では、相互関税についてやや楽観論が生じていたこともあり、市場はリスクオフで反応し、各国の株式市場における想定を超える下落、長期金利の大幅低下という形で反応した。

まさに大きなダウンサイドの動きの中で株式から安全資産としての国債への動きが加速し、3月には1.5%を超えていた10年物の円国債利回りは、44日には1.17%まで低下した。クレジット市場でも市場センチメントが悪化するなかでスプレッドがワイド化し米ハイイールド債市場ではクレジットスプレッド(対国債)3月末には前月比で約70bp拡大している。

NHKNewsでも報道されていたが、44日にJPモルガンは関税の影響で2025年の米実質GDP成長率がマイナス0.3%に落ちこみ(前回予想は+1.3)リセッション入りするとの予測を公表した。CPI2024年の2.7%から4.4%に上昇するとの見込みでありスタグフレーションの発生を前提としている。

一方で、同社は金利見通しも大きく修正し、インフレの加速にもかかわらずFRBは利下げを強いられ20263月末にはFF金利が2.85%10年債利回りが3.65%に低下すると予測している。その後、市場がトリプル安(株安、ドル安、債券安(金利上昇))の様相を呈したことで危機感を持ったトランプ政権は、9日(米時間)に相互関税の一部停止を発表、当日は株価も大きく反発したが市場の反発は長くは続かずトランプ・プットの効果は短命だったようだ。突如の政策変更をある米投資銀行は「Liberation Day mulligan(マリガン)」と揶揄していた。(マリガンとはゴルフでミスショットをした後に、ベナルティーなしでもう一度打ち直すこと)米中間の「チキンゲーム」がエスカレートしていることもあり、本稿執筆時点の4月11日現在ではリスクオフが収束する兆しはまだ見えていない。

最終的に各国に対する相互関税の水準が、米国とのBilateral Negotiation2国間交渉)の結果どの程度で落ち着くのか、またそれがグローバル経済や各国の金融政策(金利水準)にどのような影響をもたらすかを見定めるにはかなり時間がかかるので、当面は不透明感漂う中で市場の落ち着きどころを探る動きが続くと思われる。

このように2025年度の確定給付企業年金(DB)の運用環境はこれまでになく難しい環境にあると言えるが、長期投資家であるDBは市場環境によって大きく変化するものではないので、これまで同様に「基本方針」に沿った運用を行い、リバランスも「平均回帰の原則」に従って粛々と進めていくということかと思われる。ルールに沿ったリバランスが長期的には「Buy low and sell high」でリターン向上につながる可能性が高い。

とは言え、このような市場環境なので、市場が沈静化するまでは個別ファンドの選定においては慎重に見ていく必要がある。テール・イベント発生時の予想損失が極めて大きい戦略、リセッション懸念が本格化した際に大きくスプレッドが拡大する可能性のあるクレジット市場で、リスクをdeepに取る戦略等はしばらくの間は慎重に見た方がよい。

今回の時事コラム「DB関係者による2025年運用課題」は、数多くの年金運用責任者や運用コンサルタントの方に3月上旬〜下旬にかけて個別にお会いしお話を伺った内容を、架空のDB運用責任者5名と運用コンサルタント2名による仮想座談会形式にしてお届けするものである。

時期的に42日以降の大きなダウンサイドは加味されていないので、座談会での前提となる株価や為替、金利水準は4月11日時点のそれと乖離がある。特に10年円国債の利回りはヒアリング時の1.5%超えの水準から1.3%台半ばまで低下しており、「円債回帰」の話題についても大きく背景が異なってしまったと言える。

一方で、個別のヒアリングを実施した3月上旬以降は、トランプ2.0の関税政策に対する不透明感から、市場がかなりボラタイルな動きになっていたので、2025年度の市場に大きな不透明感が漂っているとの前提でお話は伺うことができたと思う。また、前述の通り長期投資化であるDBの運用は、市場環境により短期的に大きく変化するものではないと思うので、読者の皆さまが2025年度の運用を考える際に、仮想座談会の内容が何らかの参考になれば幸いである。

また、座談会では資産運用以外にDBの大きな関心事となっているアセットオーナー・プリンシプル(AOP)への対応状況や、厚労省が進めている「他社と比較できる見える化」、また最近話題のOCIOOutsourced CIO)についても仮想座談会でテーマとして取り上げることにした。

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小倉 邦彦

 『オルイン』シニアフェロー
元 三井物産連合企業年金基金 シニアアドバイザー

1980年三井物産株式会社入社。本社、広島支店、ドイツ(デュッセルドルフ)等にて経理、財務業務を担当後、1998年~2006年 本店プロジェクト金融部室長。
2006年~2009年 米国三井物産ニューヨーク本店財務課 GM。
2009年~2011年 本店財務部企画室 室長。
2011年~2013年 三井物産フィナンシャルサービス株式会社 代表取締役社長。
2013年~2017年 三井物産都市開発株式会社CFO。
2017年5月~2022年6月 三井物産連合企業年金基金 常務理事兼運用執行理事。
2022年7月~2023年3月 同基金シニアアドバイザー。