2024年の日本経済を振り返ると、春闘における賃上げ率は33年ぶりの高水準となったほか、日銀が金融政策の正常化に踏み切り17年ぶりとなる利上げを実施するなど、象徴的な1年となった。そして25年に入ってからも日銀が短期の誘導目標金利を0.5%に引き上げることを決定、引き続き日本経済の先行きと金融政策の見通しへの注目度は高い状況が続いている。大きな転換点を迎えた日本の経済・物価・金融政策をどのように見通していけばよいのか、金融業界の第一線で活躍する有識者たちのパネルディスカッションを3回にわたってレポートした。
※当記事は2月6日(木)に行われた「ナウキャスト創業10周年パーティー」内のセッション「日本の金融経済の現状と先行き」を採録したものです。
パネリスト
キャプラ・インベスト・マネジメント 共同創業パートナー
浅井 将雄氏
ゴールドマン・サックス証券 経済調査シニアアドバイザー
大谷 聡氏
三井住友銀行 副頭取執行役員
小池 正道氏
内閣府 政策統括官(経済財政分析担当)
林 伴子氏
東京大学大学院経済学研究科教授 ナウキャスト創業者
渡辺 努氏
日本のインフレの起点となったのは「コロナ禍とプーチン大統領」
――長きにわたり停滞していた物価が動き始めたのはなぜでしょうか。渡辺 よく海外の物価上昇が国内に波及したと説明されますが、私は根本的に違うと考えています。確かに輸入物価は上昇しているものの、国内物価はそれ以上に高騰しているからです。この国内要因を説明しなければ、物価上昇の説明にはなりません。
国内物価を単独で動かした要因は、「インフレ予想」です。私たちは毎年春先に各国の消費者に対してインフレ予想調査を実施していますが、これまで日本の消費者は物価据え置きを予想する人が多く、海外とは全く異なる傾向でした。しかし、2022年春の調査で変化が見られました。日本の消費者も物価上昇を予想する人が増え、欧米並みの傾向になったのです。これは大きな変化でした。このインフレ予想の上昇をきっかけに、企業も価格転嫁に踏み切ったというのが私の理解です。