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【為替相場】米財政悪化でもドル安・円高は進まない?日銀利上げ観測とジャクソンホールで変わるドル円の行方

2026年8月24日

当シリーズでは、高千穂大学の商学部教授で三菱UFJ銀行の外国為替のチーフアナリストを務めた内田稔氏に、為替を中心に金融市場の見通しや注目のニュースをウィークリーで解説してもらう。※この記事は8月21日に配信された「内田稔教授のマーケットトーク 第95回 米財政悪化はドル安要因か」を再編集しています。ご質問はYoutubeチャンネルのコメント欄からお願い致します。

米ドルが冴えない週、円も対ドルで弱含み

今回は、「米財政悪化はドル安要因か」について解説します(スライド1)。

協調介入の後、155円23銭まで下落したドル円でしたが、8月に入ってからジリ高に推移しています。ただ、160円台の手前では上値が重くなった上、今週は19日に米財務省が国債の買い戻し額を増やすと発表したことを受け、一時米国の長期金利が低下し、ドル円も158円03銭まで下落する場面が見られました。もっとも、その動きも持続せず、長期金利の反転とともにドル円も159円付近まで持ち直しています(スライド3)。

今週の主要通貨の対ドル変化率を見るとドルが全面安だったことがわかります。一方、円もドルに次いで弱かったことから、クロス円が堅調に推移しました(スライド4)。

円安には二つのパターンがあります。一つはドル高の場合です。この時、ドル円は上昇しますが、他通貨はドル高に抑えられることから、円と他通貨が弱い通貨同士となる結果、クロス円は停滞します。一方、円とドルがともに弱い場合はドル円が停滞する一方、ドル安を支えに他通貨が堅調に推移する結果、円と他通貨のコントラストが鮮明となります。これはクロス円が堅調に推移するパターンであり、今週はまさにこの動きでした(スライド5)。

米長期金利上昇と財政悪化がドルに下押し圧力

このように今週、ドルが冴えなかった一因に、米国の長期金利の上昇が挙げられます。そこで、2024年以降の米長期金利とドル指数の動きを重ねてみると、2025年の春先まで両者は概ね連動していました。しかし、昨年4月以降は、いわゆるトランプ減税の恒久化を目指す財政法案の審議を横目に、米国でも国債の需給悪化が警戒されました。加えて、トランプ政権による相互関税により、欧州勢の米国債離れも連想され、当時の長期金利の上昇は、いわゆる「悪い金利上昇」とみなされ、かえってドルには下押し圧力が加わりました。2025年の終盤から今年6月にかけ、再び長期金利とドル指数は連動性を取り戻していましたが、7月以降、両者は再び逆行していることがわかります(スライド6)。

米国のタームプレミアムをみると、7月以降、上昇しており、それとともにドル指数も下落しています。タームプレミアムは、国債の投資家が相場の変動リスクに対して求める対価とされていますが、これが上昇する時、いわゆる悪い金利上昇との見方が強まる傾向にありあす。もっとも、タームプレミアムが最近の最も高い水準まで拡大している割に、ドル指数は昨年来の安値圏まで下落していません。これは、地政学リスクや原油価格の上昇によるいわゆる「有事のドル買い」や5月以降の利上げ観測の台頭によって、ドルがいくらか支えられていることが影響していると考えられます(スライド8)。

ここで現在の米国の財政に関連する不安要因をいくつか見てみましょう。財政赤字(フロー)、公的債務残高(ストック)ともに、悪化が見込まれています。また、GAO(Government Accountability Office)によれば、国債の利払い費が2025年度に国防費を上回ったとされています。こうした米国の財政事情が今後、クローズアップされる可能性があり、それに連れてドルには下押し圧力が加わると考えられます。ただし、ドル安=円高ではありません。確かにドル安となればドル円も多少は下落するかも知れませんが、先ほどの5ページの通り、円も弱いままであれば、クロス円は堅調に推移すると考えられます(スライド9)。

日銀の利上げ観測高まるも円高は進まない?実質金利が鍵

ここから日本をみていきましょう。日本の長期金利も上昇傾向にあり、3%目前です。ただ、足元でタームプレミアムや期待インフレ率は上昇していません。足元の長期金利上昇は日銀の9月利上げを織り込む動きが影響していると考えられます(スライド10)。

実際、OIS(オーバーナイトインデックススワップ)市場では、日銀の9月の利上げが8割程度も織り込まれており、年末までに約1.5回の利上げを織り込んでいます。これに対し、米国に関しては7月分の雇用統計や消費者物価指数そして小売売上高が予想を下回ったことから、現在は年内1回の利上げも完全には織り込んでいない状況です。従って、本来ならドル円は下落しても不思議ではない状況です(スライド11)。

しかし、そうならない主因は、日本の実質金利(=政策金利-インフレ率)が、次の利上げを以てしても、依然としてマイナス圏にとどまることと考えられます。21日には日本の7月消費者物価指数が発表されました。総合では前年比1.9%まで上昇しており、日銀が政策金利を1.25%まで引き上げても実質金利は引き続きマイナスのままです(スライド12)。

米国の個人消費は「悲観視不要」の見方も

今週は米小売り大手の決算が冴えなかったほか、先週14日に発表された米7月小売売上高も予想を下回ったことから、俄かに米国の個人消費への警戒が高まっています。ただ、民間の週次データを見ると、確かに7月から8月にかけ、勢いに陰りがみられますが、それでも前年比で7%台と高水準を維持しています。米国の個人消費は、特に資産効果が現れやすく、株価の動向に注意が必要ですが、現状では必ずしも悲観視する必要性は高くないとみています(スライド13)。

来週の注目イベント:日銀副総裁発言とジャクソンホール

では、来週のポイントです。27日に氷見野副総裁が、金融経済懇談会に参加します。現在、マーケットは9月の利上げを8割程度も織り込んでおり、こうした見方を行き過ぎとみるのであれば、ある程度、火消しのような発言が出るでしょう。一方、9月利上げをある程度、想定しているのであれば、敢えて否定的な発言もきかれないと考えられ、注目です。もっとも、9月の利上げを8割まで織り込む過程でほとんど円高の動きは見られませんでした。実質金利がマイナス圏にとどまる限り、引き続き日銀の利上げが円高材料とはなりにくい状況が続きそうです。

次に、来週28日からカンザスシティー地区連銀が経済シンポジウムを開催します。開催地をとっていわゆる「ジャクソンホール」と呼ばれています。ここでウォーシュ議長の発言に注目です。具体的な金融政策の方針は示さないと考えられますが、高止まりするインフレ率を重視する姿勢を示すのか、予想を下回った7月雇用統計を念頭に、景気への慎重な見方が示されるのか、によってFRBのスタンスのヒントが得られるかも知れません。

とは言え、日本は実質金利がマイナス圏にとどまっており、引き続き冴えない展開が見込まれ、ドルも財政リスクが意識され、上値は重そうです。従って、ドル円に関しては158円から160円程度で方向感に乏しい値動きが続くと考えられますが、クロス円は底堅く推移しそうです。

一方、米国がイランに対する経済制裁を発表するとされています。有事のドル買いや円ショートの縮小、すなわち円の買い戻しが誘発されることにより、クロス円が反落するリスクもあり、要注意です(スライド14)。

「内田稔教授のマーケットトーク」はYouTubeからもご覧いただけます。

公式チャンネルと第95回公開分はこちらから

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