「顔の見える関係」づくりに注力、より良い企業型確定拠出年金制度の実現に大和ハウス工業がコミュニケーションを重視する理由
近年、人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出す人的資本経営が注目されている。その観点からも企業年金の一つである企業型確定拠出年金(DC)制度の充実は、従業員の活躍やエンゲージメントを高める一因として企業価値の向上に資することが期待されている。企業型DC制度運営に熱心な企業はどのような取り組みを行い、そしてどんな成果を実現しているのか。DC制度運営に秀でた企業に贈られる「2025年DCエクセレントカンパニー」ガバナンス部門において優秀賞に輝いた大和ハウス工業の取り組みを紹介する。
企業型確定拠出年金(DC)制度を効果的に運営するためのガバナンス体制の強化は各社にとって避けて通れない課題の一つだ。グループ会社間の心理的距離を縮め、加入者目線での制度改善に取り組む大和ハウス工業では、DC運営委員会を中心に商品や制度運営に関するモニタリングを継続的に実施、グループ間の有機的な連携によるガバナンス体制を実現している。その要諦を大和ハウス工業 本社 経営戦略本部 人事部 担当部長 臼井 一博氏に聞いた。
多様な業種が集まるグループ各社の課題をヒアリングで深掘り
2011年4月のDC導入から14年以上がたち、現在はグループ32社(うち同一規約24社、独自設計8社)の規模となりました。退職給付制度は、同一規約の24社の場合、退職一時金、確定給付企業年金(DB)、DCの三本立てとなっています。
DC制度の運営は導入当初に発足したDC管理室が中心となり担ってきましたが、2025年4月の組織改編により現在は当社人事部に統合されています。
以前から研修会等を通じて各社の取り組みをディスカッションするなど横のつながりを重視してきました。
グループ全体のDC制度運営をより一層強化するためにDC運営委員会を設置したのが2024年4月になります。メンバーは当社人事部、財務部、企業年金基金とグループ会社7社(同一規約4社、独自設計3社)の各担当者。現場の実態に即した議論とするため参加者の役職は指定せず、実務担当者にも参加してもらっています。また、オプザーバーとして運営管理機関などにも参加いただいています。
制度運営の効果を上げるにはグループ会社との連携強化が不可欠です。DC運営委員会の発足に際して事前に各社から日ごろ感じている課題や困りごとなどをアンケートで収集しました。
当社グループは建設業だけでなく、ホテルや小売業など多様な業種・業態から成り立っています。各社で働く従業員は多様性に富んでおり、その特徴はDCの運用商品の選択傾向にも表れています。具体的には、元本確保型商品への投資比率が極端に高い会社、逆に投資信託比率が非常に高い会社など、顕著な違いがあるのです。
このような特性も見えてきたため、グループ各社の課題をさらに深掘りするべく、若手担当者を派遣してヒアリングを実施しました。親会社と子会社の関係では、どうしても子会社側に親会社に対する遠慮が生まれがち。私自身もグループ会社勤務が長かったのでその気持ちが分かります。
実際に顔を見てヒアリングすることが重要で、顔を見たことがある人とそうでない人とでは相談のしやすさが全く違います。グループ会社の担当者に「こういう人が担当してくれているなら聞きやすい」と思ってもらえる関係づくりを目指しました。
運営管理機関と商品を評価するモニタリング体制づくりの実際
こうしてグループの連携体制を整え、DCガバナンスの要諦である運営管理機関と商品の評価に取り組んでいます。
商品についてはあるべきラインアップを実現するために商品分類ごとにモニタリング項目を決め、評価や見直しの考え方を整理。商品選定の基本方針を組織的に定めました(図1)。
図1 運用商品ラインアップの原則
具体的には、元本確保型商品については適用金利など、投資信託商品では信託報酬やシャープレシオなどの指標を定期的にチェックし、評価に基づいて商品見直し検討につなげています。
加入者の声に耳を傾け、Webサイトをリニューアル
また、制度運営では加入者からの声に耳を傾けることが欠かせません。大規模な取り組みとしては2018年と2023年に加入者アンケート調査を実施し、結果を踏まえて改善につなげました。
例を挙げると、相談に対するニーズが高かったことからファイナンシャル・プランナーの個別相談を継続教育プログラムに導入。また、イントラネットの情報掲載ページが分かりにくいという声を受け、リニューアルのタイミングに合わせて改良しました。
DC資産の確認方法や商品情報、掛金や給付、マッチング拠出についてなど、加入者が知りたい項目別のアイコンで視認性を高め、目立つところにQ&A一覧、帳票一覧などを分かりやすく配置しました。DCだけでなく退職一時金やDBも含めた退職給付制度全体の情報を整理して掲載しています。
加入者の意見の収集は運用商品についても行っています。過去には日経225インデックス投信やインド株投信などの希望が寄せられることもありました。
運用商品本数の上限等の制約もありますが、こうした加入者の声を踏まえて商品選定の基本方針に沿って検討を行っています。
運管とのコミュニケーションがガバナンス評価の第一歩
ガバナンスのもう一つの要諦に運営管理機関の評価があります。難しい問題ですが、今から取り組めることの一例として普段からの運営管理機関とのやりとりを記録しておくことが挙げられます。運営管理機関ときちんとコミュニケーションをしている実績を加入者に示すことの証左となるからです。
一方で、当社もガバナンスは道半ばと心得ており、まだまだ課題もあります。
今後の制度運営における最大の課題はDCに対する加入者の理解と関心のレベルを上げること。Web上で自身のDC残高を確認したことがある加入者は全体の50%程度、さらに直近1年以内に確認した人は30%程度にとどまります。
加入者全体の理解レベルを底上げしていくことが先決です。加入者の理解が深まれば、おのずとガバナンスに求められるレベルも上がってきます。特に今の20代は投資に対する理解が40代、50代よりも高い傾向にあり、彼らが中堅となる10年後、20年後に求められるレベルは変わってくるはずです。
ガバナンスについて「何から手をつけたらよいか分からない」という声をよく聞きます。基本的には「あるべき姿」を考え、できるところから着実に進めていくしかありません。当社も制度導入時に60%だった投資信託比率が現在80%にまで上がってきましたが、特別なことを行ったわけではありません。
毎月のメールマガジン配信など地道な活動の積み重ねの結果です。小さなことからコツコツと、担当者があきらめずに続けていけば、必ず何年後かに成果は出てきます。
会社概要 本社:大阪府大阪市 業種:建設業 加入者数:36,177名

