企業型確定拠出年金の運用商品を見直し、継続投資教育を刷新したヤマト運輸が加入者の反響を得た手応えとは
ヤマト運輸では企業型確定拠出年金(DC)加入者の多数を占めるドライバーの職場環境にマッチする継続投資教育の手法として自宅への冊子の送付や動画配信などを組み合わせている。DC強化にあたり商品ラインアップを整備し、役職者へのセミナーを通じてDCの重要性を訴求、加入者アンケートで大きな反響を得た一連の取り組みの核心をヤマト運輸 働きやすい職場作り推進部 社員福祉センター マネージャー 楠神 健史氏に聞いた。
商品ラインアップの課題を解決し、継続投資教育の強化に着手
当社の退職金制度は1966年設立のヤマト運輸厚生年金基金が始まりです。2004年に代行返上を行い、グループ化したヤマトグループ企業年金基金に移行、退職一時金と確定給付企業年金(DB)で運営してきました。DCの導入は2006年12月、基金が運営管理機関に登録し、ライフプラン年金(選択制DC)として発足します。2021年10月に退職金部分についてDBからDCへの移行を実施。現在は退職手当金としてキャッシュバランスプランの一時金部分とDC部分が50%ずつの割合です。DCには正社員5年経過後からの加入となります。
現在、運営管理機関は当社と金融機関との共同運営管理形式を採用しており、実施事業所数は18社、加入者数は約68,000名。運用商品採用数は21本、指定運用方法はバランスファンドの配分固定型を採用しています。
DCの業務体制は、会社組織としての「社員福祉センター」とグループの共済会である「ヤマトグループ社員福祉センター」が連携し複数名体制で運営しています。
業務運営で心掛けている点は属人化させず組織的に取り組むこと。例えば、教育コンテンツはメンバーで相互チェック、問い合わせ対応などの情報も共有するなど、仕組み化して一人に業務が集中しないよう配慮しています。
DCへの取り組みを強化し始めた2022年9月、商品分析に着手しました。運営管理機関からのモニタリングレポートのほか、外部アドバイザーにも商品分析を依頼し課題を洗い出したところ、3つの課題が浮上しました。
1つ目は元本確保型商品の割合が高く、分散投資・長期投資の効果が活かされていないこと。2つ目は商品本数が多い上に類似商品が複数あり、商品を選択する際に分かりにくい状況となっていることでした。3つ目は信託報酬が高い商品があることによってパフォーマンスに差が生じることです。
それらの課題を解決するため、DC運営管理委員会で商品見直しの方針を説明し、選定基準を明確化しました(図1)。元本確保型は絞り込み、バランス型ファンドは分かりやすく「債券重視型・均等型・株式重視型」の3種類に整理し、信託報酬も考慮した結果、商品ラインアップは30本から21本へとシンプルになりました。
図1 運用商品の見直し
ライフプラン便りを年4回自宅に送付、家族ぐるみの理解を促進
商品ラインアップの仕組みを整えたことで次の課題である継続投資教育の見直しに取り組みました。全加入者を網羅する施策として、年4回自宅に送付する「ライフプラン便り」を発行しています。
従来の福利厚生全般の紹介から、DC継続教育用教材に特化し、DCや投資信託の仕組みなどをシリーズ化して紹介するほか、商品ごとのリターン率を掲載するなど内容を工夫。自宅に送ることでご家族を含めた理解の促進につながっていると考えています。
ライフプラン便りのような継続的な取り組みの一方、新たな試みとして役職者向けにオンラインの「資産形成セミナー」を開催しました。全国90カ所の拠点で毎月行われる業務改善会議を活用して18日間で計32回実施し、3,160名が参加。
セミナー後のアンケートでは「とても参考になった」「やや参考になった」の回答が98%と高評価を得ることができました。
「もっと早く聞きたかった」「受講対象を拡大してほしい」という声もあり、次の課題として年代別セミナーの開催を検討しています。
資産形成は「50代からでも遅くない」動画配信でスキマ時間を有効活用
ライフプランセミナーは以前から退職準備をテーマに56歳の節目に行ってきました。定年引き上げなど60歳以降の働き方が変化する中、公的年金などを含めた金融教育や資産形成にテーマを変更し、対象者も50代全般に拡大することにしました。併せてスキマ時間を活用できる動画の提供が効果的ではないかと考え、「50代から考える定年後のお金のハナシ」というテーマで8本のショート動画を制作。個人のスマートフォンからも視聴できるようにしました。
そのほかのフォローアップとしてファイナンシャル・プランナー(FP)による個別面談サービスも好評です。グループの福利厚生制度を理解している提携FPに1回90分、年3回まで無料で相談できるサービスで、毎月多数の申し込みがあります。
これらの取り組みの成果は徐々に表れています。資産残高ベースの元本確保型の割合は1年で54.2%から42.4%に減少しました(2025年3月時点)。
一方で、20代の元本確保型のみの保有者が約4割と他の年代に比べて高いことや、事業所間で取り組みにばらつきがあることなどの課題も見えてきました。年代別のアプローチではまずアンケートを実施し、「資産形成に関する不安」「どのような情報源を活用しているか」などの質問への回答を参考に、効果的なセミナー内容を検討していきたいと考えています。
また、加入者への情報提供については従来の紙媒体に加えてメッセージアプリなどのデジタルツールの導入も視野に入れています。
難しいからこそやりがいがあるDCの仕事、相談を大切に
当社が大事にしていることは、マーケティングの観点重視の考え方である「社員の声を聞く」ということで、ポータルサイト、社員へのメール、冊子の送付などを一体的に運営する体制作りに取り組んでいます。
運用の重要性を全社員に伝えることは難しいからこそDC担当者としてのやりがいがあると感じています。担当者の皆さまには一人で悩まずに仲間と情報交換する場へ参加されることをおすすめします。運営管理機関にも積極的に相談し、分からないことは恥かしがらずに聞くことも大切です。当社の例が参考になればうれしく思いますので何かあればご相談ください。給与制度や人生設計が多様化する現在、DCの役割はより重要性を増しています。老後の資産形成に影響する主要な制度であるDCに、事業主としてしっかりと取り組むことが今後一層、不可欠となるでしょう。
会社概要 本社:東京都中央区 業種:運輸 加入者数:68,000名
