国内投資家の間にもすっかり定着した「マルチアセット戦略」。
「分散効果」や「下方リスク抑制」「絶対収益獲得」など、さまざまな目的を達成する手段として活用されているが、国内投資家向けに商品提案が行われるようになったのは2010年代に入ってからで、主に景気拡大サイクルの中で採用が進んでいった。
その意味では、コロナ禍は採用が進んでから投資家が初めて経験した「ショック」であり、マルチアセット戦略の役割が試された局面と言えよう。
果たして、コロナ禍に伴う株価下落・金利低下局面、その後の回復局面において、マルチアセット戦略は期待通りの成果を発揮できたのか。
また、コロナ禍を経て社会構造の変化が進み、その先には金融緩和の縮小(テーパリング)と、マーケットは今までに経験したことのない局面を迎えている。そんな中、投資家はマルチアセット戦略にどう向き合っていけば良いのか。
本特集では、読者へのアンケート調査、マルチアセット戦略を活用する企業年金のケーススタディ、年金コンサルタントの見解の3つの視点から、改めてマルチアセット戦略が果たす役割を考える。
PART1 オルイン投資家アンケート
マルチアセット戦略は普及から深掘のステージへ
国内投資家の活用実態調査
PART 1では、『オルイン』読者を対象とした「マルチアセット活用実態調査」(2021年10月~ 11月実施、有効回答数94件)の結果を紹介する。2013年から隔年で実施してきた本調査も今回で5回目を迎えた。調査開始以来、国内企業年金を始めとする機関投資家の間でマルチアセットの採用は拡大を続けてきたが、コロナ禍にともなうマーケットの下落と上昇は、果たして投資家の姿勢にどんな影響を与えたのだろうか。新たな設問・視点を交えつつ、最新の実態に迫る。
新規採用は頭打ちだが
採用戦略数は増加傾向
2019年12月号に掲載した前回調査の直後、世界はコロナ禍に見舞われた。未曾有の事態にマーケットが翻弄されたこの2年間で、国内投資家におけるマルチアセットの活用実態にはどんな変化があったのだろうか。
まず、マルチアセット戦略の採用状況を尋ねた設問では「採用している」が 44.7%、「検討している」が 9.6%となった。また、今回の調査から採用していない場合の選択肢を「一度も採用したことはない」と「過去に採用したことはあるが、現在は採用していない」に分けて集計しており、それぞれ 38.3%、7.4%の回答を集めた(図1)。前回調査では「採用している」「検討している」「採用していない」がそれぞれ 50.0%、11.5%、38.5%だったことを踏まえると、マルチアセットを採用している投資家の比率はやや低下し、採用を取りやめたケースも散見される。
次に、採用中・検討中の51の投資家に対してマルチアセット戦略を最初に採用した時期を聞いたところ、2014~16年度はそれぞれ10%以上、2018年度は 15.7%の回答を集めるなど、マルチアセットブームとも言える状況で採用は増えていったが、2019年度は 3.9%、20年度は 5.9%、21年度に至っては0%まで減少しており、すでに新規採用の動きは一巡したと見ていいだろう(図2)。
ただ、採用している戦略数に関しては、前回調査時は「1本」が46.2%を占めていたのに対して、今回調査では「1本」と「2本」がそれぞれ 35.3%、31.4%となり、4本以上を採用中と答えた数も前回の 9.6%から17.6%に増加した。このことから、採用中の投資家の間では複数戦略に分散する動きが進んだと言えそうだ(図3)。
リスク抑制ニーズが強まる一方
マネジャースキルには課題も残る
採用中または検討中の投資家を対象に、マルチアセット戦略を採用・検討する目的を聞いたところ、最も多かったのは「下振れリスクの抑制効果」の 66.7%で、前回(67.7%)とほぼ同様の結果となった(図4)。国内投資家向けには低リスク型、あるいはリスクコントロール型のマルチアセット戦略の提案が盛んに行われており、高いリターンを望まないが安定運用を望む企業年金や金融機関の間で採用が進んでいる。
次いで回答を集めたのは「絶対収益の獲得」の41.2%、「幅広い資産への分散投資効果」の 33.3%だった。この2つの目的については前回時も 36.9%と 38. 5%を集めて上位に挙がったが、前々回調査(2017年12月)の54.5%、43.6%からは明らかに減少している。この背景には伝統資産と低相関にあるプライベートアセットの普及が進んだことも影響していそうだ。なお今回、大きく順位を落としたのが「機動的なアロケーション変更への期待」で、前回は49.2%で2位にあったものが、27.5%で4位に後退している。
では、最も期待される「下振れリスクの抑制効果」を、投資家はどう評価しているのだろうか。
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