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第一生命経済研究所の永濱氏が予測する2025年度の業界展望 日銀短観から見た上方修正が期待できる業種とは

第一生命経済研究所の永濱氏が読み解く、経済・市場展望の手がかりは
2025年12月23日
永濱 利廣 /  第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト

国内外を覆う不確実性によって景気や市場を見通すことは困難を極めています。そこで国内屈指の著名エコノミストである、第一生命経済研究所の経済調査部で首席エコノミストの永濱利廣氏に、経済・市場の今後を読み解く手がかりになるテーマについて解説していただきました。※本稿は、12月16日掲載の第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト、永濱 利廣氏のレポート「12月短観から見た25年度業績見通し~「その他情報通信」「物品賃貸」「建設」等に上方修正期待~」を抜粋・再編集したものです。

要旨

〇12月短観における25年度の大企業収益計画は増収減益も、売上高下方修正の一方で経常利益は上方修正。

〇売上高計画の上方修正が目立ったのが、これまでの原材料価格高騰や人材不足等に伴う人件費高騰等のコスト高に応じて価格転嫁が進んだ「鉱・採石・砂利採取」「その他製造」、万博等に伴う国内旅行やインバウンド消費が活発だったことに加え、円安や原材料高、人件費高騰などに伴う値上げも追い風となっている「宿泊・飲食サービス」、生成AIブーム等に伴うITサービスに対する堅調な需要拡大が織り込まれた「電気機械」、インターネット付随サービスなどの需要が高まっている「その他情報通信」。

〇経常利益計画を基に上方修正が期待される業種を見ると、売上高上方修正の「その他情報通信」以外に、建設機械等の産業用機械や、ITサービスに対する堅調な需要拡大等に伴うオフィス機器等のリース需要拡大の影響が大きい「物品賃貸」、建材価格上昇などに伴う価格転嫁に加え、再開発や工場新設等の建設需要が高まっている「建設」、商品市況の低下などに伴う原材料価格の低下などにより交易条件改善の「繊維」「造船・重機・その他輸送用機械」と続く。

〇大企業の想定為替レートは、2025年度にドル円で146.6円/$、ユーロ円で163.8円/€だが、足元のドル円レートは150円台、ユーロ円は180円台。中でも、今期の為替レートを143円/$台に想定している「造船・重機、その他輸送用機械」をはじめとした加工業種はむしろ円安が恩恵になるため注目。

〇今後は欧米のインフレ鈍化に伴う想定以上の利下げ観測の強まりや、日本企業の賃上げ圧力の高まり等に伴う日銀の想定以上の利上げ期待等を通じて、為替レートの水準が急速に円高方向に進まなければ、こうした今期の為替レートを円高水準に想定している業種に属する企業を中心に今期業績が修正される可能性がある。

売上高下方修正も経常利益上方修正

12月15・16日に公表された12月短観の大企業調査は、11月上旬~12月上旬にかけて資本金10億円以上の企業約1700社に対して行った調査であり、先日公表された法人企業景気予測調査に続いて、今期業績予想の先行指標として注目される。

そこで本稿では、同調査を用いて、1月下旬から本格化する四半期決算発表で今年度業績計画の上方修正が見込まれる業種を予想してみたい。

資料1は、12月短観の調査対象大企業(全産業、除く金融)が計画する半期別売上高・経常利益前年比の推移を見たものである。まず売上高を見ると、25年度は年度全体で下方修正となっている。

一方、経常利益を見ると、25年度下期は前回から下方修正となったものの、25年度通期で見れば上方修正となっている。このことから、四半期決算発表では25年度の企業業績見通しを引き上げる企業が増えることが予想される。

図表

売上高上方修正の「鉱・採石・砂利採取」「その他製造」「宿泊・飲食サービス」

続いて、12月短観の売上高計画を基に、大幅上方修正が見込まれる業種を選定してみたい。資料2は25年度の業種別売上高計画の前年比と修正率をまとめたものである。

結果を見ると、25年度も多くの業種で増収計画となる中で、最大の上方修正率となっているのが「鉱・採石・砂利採取」である。それに続くのが「その他製造」となり、以下「宿泊・飲食サービス」「電気機械」「その他情報通信」と続く。

まず、「鉱・採石・砂利採掘」と、プラスチック製品やゴム製品、なめし革・同製品・毛皮などが含まれる「その他製造」は、いずれも経常利益計画が上方修正されているものの、減益計画となっているため、これまでの原材料価格高騰や人材不足等に伴う人件費高騰等のコスト高に応じて価格転嫁が進んだ可能性が示唆される。

一方、「宿泊・飲食サービス」の上方修正については、万博などに伴う国内旅行やインバウンド消費が活発だったことに加え、円安や原材料高、人件費高騰等に伴う値上げも追い風となっていることが考えられる。

また、「電気機械」の上方修正は、生成AIブーム等に伴うITサービスに対する堅調な需要拡大が織り込まれたことが推察される。

なお、「その他情報通信」は、放送、インターネット附随サービス、映像・音声・文字情報制作などが含まれることから、こちらも特にインターネット付随サービス等の需要が高まっていることが予想される。

従って、次の四半期決算における業績見通しでは、こうした業種に関連する企業について売上高計画がどの程度上方修正されるかが注目されよう。

図表

経常利益上方修正期待は「その他情報通信」「物品賃貸」「建設」

続いて、12月短観の経常利益計画から大幅上方修正が期待される業種を見通してみよう(資料3)。結果を見ると、上方修正率が最も大きいのは「その他情報通信」となっている。こちらは売上高同様に、インターネット付随サービス等の需要が高まっていることが推察される。

また、「物品賃貸」については売上高も上方修正されており、業績好調な建設機械等の産業用機械や、ITサービスに対する堅調な需要拡大等に伴うオフィス機器等のリース需要拡大の影響が大きいことが予想される。

それに続く「建設」は、建材価格上昇などに伴う価格転嫁に加え、再開発や工場新設等の建設需要が高まっていることが推察される。

それに続くのが「繊維」である。ただ、売上高が下方修正となっているため、商品市況の低下等に伴う原材料価格の下落等により交易条件が改善していること等が寄与しているものと思われる。

なお、「造船・重機、その他輸送用機器」も売上高計画がほぼ横ばい修正にとどまっている中での増益率上方修正となっているため、「繊維」と同様の理由が推察される。

このように、次の四半期決算で経常利益見通しの上方修正が期待される業種としては、ITサービス関連に加えて、需要拡大が見込まれる物品賃貸や建設関連、交易条件の改善効果等が見込まれる一部素材や加工業種が指摘できる。

図表

為替レートの変動で業績が修正される可能性も

なお、12月短観の収益計画では、企業の想定為替レートも公表されることから、業種別の想定為替レートも今後の業績見通しの修正の可能性を読み解く手がかりとして注目したい。

資料4にて実際に今年度の想定為替レート(大企業)を確認すると、ドル円で146.6円/$、ユーロ円で163.8円/€となっている。しかし、足元のドル円レートは150円台、ユーロ円は180円台となっている。

中でも、製造業で足元のドル円レートよりも特に円高で今期の為替レートを想定しているのが、円安の恩恵を受けやすい「造船・重機、その他輸送用機械」となっている。

なお、建設など輸入依存度もそれなりにある内需関連産業の一部では、円安でむしろ業績の下押し要因となる企業も含まれている可能性があり注意が必要だが、特に輸出関連の製造業が多く含まれる加工業種では146円/$台と円高気味の想定をしていることに注目すべきだろう。

以上の結果を踏まえれば、今後は欧米における想定以上のインフレ鈍化等に伴う過度な利下げ観測の強まりや、日本企業の賃上げ圧力の高まり等に伴う日銀の予想外の利上げ期待の高まり等を通じて為替レートの水準が急速に円高方向に進まなければ、こうした今期の為替レートを円高水準に想定している業種に属する企業を中心に、今期業績が修正される可能性があることにも注目すべきだろう。

図表

永濱 利廣

 第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト

早稲田大学理工学部工業経営学科卒、東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年より日本経済研究センター出向。2000年より第一生命経済研究所経済調査部、16年4月より現職。国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。景気循環学会常務理事、衆議院調査局内閣調査室客員調査員、跡見学園女子大学非常勤講師などを務める。景気循環学会中原奨励賞受賞。「30年ぶり賃上げでも増えなかったロスジェネ賃金~今年の賃上げ効果は中小企業よりロスジェネへの波及が重要~」など、就職氷河期に関する発信を多数行う。著書に『「エブリシング・バブル」リスクの深層 日本経済復活のシナリオ』(共著・講談社現代新書)、『経済危機はいつまで続くか――コロナ・ショックに揺れる世界と日本』(平凡社新書)、『日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか』(講談社現代新書)など多数。