連載 小倉邦彦の資産運用時事コラム 第32回④成長を続けるダイレクトレンディング、黄金時代は終わったのか?米クレジット市場における「ゴキブリ騒動」の影響は?
はじめに
確定給付企業年金(DB)のオルタナ投資では欠かせない存在となっているプライベートデット(PD)。その中でもとりわけDBからの人気が高く、オルタナ投資の主力資産クラスの一つになっているのがダイレクトレンディング(DL)である。米国における急速な利上げを背景に、パブリック市場のブロードリー・シンジゲート・ローン(BSL)への資金流入が大幅に減少した2023年には、DLの平均的な貸し出しスプレッドも600bp台半ばとなり、融資も大型化し、それまでBSLで借り入れをしていた案件のリファイナンスをDLが取って代わるということも頻発した。一方で、デフォルトの発生は低水準を維持し、DLのマネジャーは「今はDLの黄金期である」と語っていたのが印象的である。
足元ではFRBは利下げサイクルに入ってきているものの、いまだ政策金利は4%と高水準であり、借入企業の金利負担は気になるところである。また2024年になるとパブリック市場の復調に伴いBSLやHY債市場への資金流入も回復し、EBITDA1億ドル以上の大型企業を対象としたアッパーミドルでは、DLとBSLの競合は激しさを増している。貸し出しスプレッドもアッパーミドルでは足元400bp、DL全体でも500bp近くまで縮小してきているようだ。
一方で、DBが投資する私募ファンドと同様に、非上場の中小企業に融資をする米国のBDC(事業開発会社:Business Development Companies)は、リテールからの資金供給が増加しその規模を拡大させており、私募ファンドとの競合も懸念される状況である。
また、一部のDBではこれまでのPDにおけるDL偏重を見直すべく、ABF(Asset Based Finance)やトレードファイナンス、あるいはインフラデットやNAVファイナンスといった戦略にも投資をすることで、PDの中での分散を図る傾向もある。しかし、①単純な企業貸付であるという分かりやすさ、②ヘッジ後でも4~5%程度のインカム収益が期待できDBのオルタナ投資としてはスイートスポット的存在である、③担保やコベナンツもしっかり確保されており貸し倒れも低水準である、④結果としてリターン実績が安定している、⑤ファンドの数が多く投資家の選択肢が豊富である、等の理由でDLはPDのコア戦略であることに変わりはないようだ。
そこで本コラムではDLを取り扱っている資産運用会社に、DLの現状と課題、今後の収益見通し、パブリックとの競合、リテール資金をバックにしたBDCとの関係(競合か共存か)、またオープンエンド型に対するニーズ等について伺うこととした。
欧州のマネジャーとしてアークモント(説明者はブルーベイ・アセット・マネジメント・インターナショナル・リミテッド)、ティケオー(説明者はアモーヴァ・アセット・マネジメント)、米のマネジャーとしてアダムズ・ストリート・パートナーズにこれまで話を伺ってきたが、最終回はローワーミドルにフォーカスする米国のモンロー・キャピタル(説明者は上田八木証券)を取り上げる。
第4部 米国:モンロー・キャピタル(説明は上田八木証券)
DLの現状や課題を探る本シリーズ。最終回となる第4部では米国でローワーミドル向けのDL戦略を提供するモンロー・キャピタル(以下モンロー)に関し、同社ファンドを日本で取り扱っている、上田八木証券の取締役営業部長 田中聡氏と営業企画室長 竹中俊哉氏にDL戦略の現状や課題をお聞きした。(インタビューは10月27日に実施された)

取締役 営業部長 田中聡氏

営業企画室長 竹中俊哉氏
モンローで募集中のファンド概要
小倉:まずは、貴社で現在募集中のDLファンドについて、概要をお聞かせください。
田中:現在、モンローではフラッグシップファンドとして、通常のEBITDAベースのシニアローンに投資するDLの5号ファンドを募集しています。この5号ファンドは「レバレッジなし」と「レバレッジあり」の両種類がありますが、前者はファイナルクローズが8月です。一方、後者は年内の最終募集を予定しており、現在進行中です。ファンドサイズの目標は両方合わせて30億ドルを予定しています。グローバルに見ても強い需要があり、引き続き好調に推移しています。また、それと並行してアセット・バックド・ファイナンス(ABF)・ファンドも現在募集中です。
小倉:貴社のABFではDLファンドとどのあたりが異なるでしょうか。
田中:ABFは何らかの資産を担保に取った形での融資を行うもので、先ほどご紹介したフラッグシップファンドの一部でも投資できるようになっていますが、それを特化させた戦略として募集しています。通常のDLとの違いについてですが、DLはローワーミッドにフォーカスし、基本的にはソール・レンダーとしてエージェントベースで貸している案件が中心となっています。一方、ABFについては、2008年から通常のフラッグシップファンドの一部として投資を実行してきました。現状では、フラッグシップファンドから引き続き投資できる他、ABF特化型の2号ファンドを現在募集中です。
通常のDLがEBITDAベースの企業のキャッシュフローベースで貸しているのに対し、ABFでは何らかの担保を取っています。具体的には、クオリティ・アセットと呼ばれる不動産等を担保に取るローン、そしてスペシャルティファイナンス、例えばリティゲーション・ファイナンス(訴訟ファイナンス)やNAVファイナンスといった、何らかのキャッシュフローを担保に取るようなタイプのローンが該当します。さらに、セカンダリー投資やマーケット・ディスロケーション時に投資ができるオポチュニスティック・クレジットといった3つのアプローチを組み合わせています。
小倉:なるほど、色々ありますね。本日はDLがメインなのでフラッグシップファンドを主体にお話いただければと思います。基本的には貸出先の企業規模はローワーミドル市場が対象ですが、具体的にはどのEBITDAでどれくらいの規模でしょうか。
田中:平均的には2,500万ドルから3,500万ドルです。
小倉:コアミドルの下の方の位置付けですか。
田中:いわゆるコアミドル市場の下部に位置しています。モンローは創業時からローワーミドル市場にフォーカスしてきましたが、実際には、その上部に位置し、かつコアミドル市場の下部になる、ちょうどその境目あたりが主要なターゲットになっています。
小倉:融資先についてですが、スポンサー案件とノンスポンサー案件の割合はいかがですか。
田中:現在、スポンサー案件が約9割、ノンスポンサー案件が約1割という状況です。ただし、この比率は経済環境によって変わります。例えば、M&Aが活況である現在の場面では、M&AにおけるLBO(Leveraged Buyout)を中心としたスポンサー案件が約9割を占めていますが、景気減速やM&A市場の減退が見られる局面では、ノンスポンサー案件が2割から3割まで増えていく傾向があります。歴史的に見ると、7対3から8対2程度でスポンサー案件が多いというのが平均的な姿になっており、局面によってはノンスポンサー案件が増えていくというイメージです。
小倉:ファンドの目標リターンはどのくらいですか。
田中:「レバレッジなし」ファンドのネットリターン目標はドルで8%~10%です。一方、「レバレッジあり」は12%~14%を目標としています。
小倉:貸出のスプレッドについてですが、現在の状況はいかがですか。
田中:足元では、モンローの場合、約500~600bpといったところです。ただし、モンローの場合は、先ほど説明したABFの案件が一部含まれています。
小倉:シニアローンだけだとどうなりますか。
田中:500~550bpくらいです。
小倉:1~2年前に比べるとローワーミドル対象でもスプレッドはタイト化していますね。
日本での受託実績他
小倉:日本では何本くらいのファンドを販売されてきたのでしょうか。
田中:日本では3号ファンドから販売を開始しており、今回の5号で3本目となります。また、ABFについては、1号と現在募集中の2号で、計2本となっています。
小倉:これまで販売したファンドのパフォーマンスはいかがでしょうか。
田中:おおむね予定通りです。なお、3号と4号はドル建てクラスのみでしたが、5号ファンドとABFファンドについては円ヘッジクラスも設定しています。ドル建てで8~10%といったリターンが出ていますが、円ヘッジクラスの場合はレバレッジなしクラスで4~5%程度のリターンを実現しています。
小倉:一般的なDB投資家にとっては、円ヘッジ後で4~5%という辺りが、インカム主体のオルタナ投資ではスイートスポットのような気がします。では次に、日本での受託実績について、可能な範囲でお教えください。
田中:フラッグシップファンドについては、これまでDBのお客様が主体で約10社となっています。加えて、複数の金融法人のお客様からの投資があり、受託実績は全体で約400億円に達しています。
小倉:かなり大きな受託実績ですね。
モンローの競争優位性
小倉:モンローの優位性はどこにあるとお考えですか。
田中:モンローの場合、プラットフォームの大きさが強いエッジになっており、競争優位性の源泉となっています。2004年の創業時点からローン・オリジネーションを本業としてきました。その後、プライベート市場の拡大とともに成長し、現在は従業員数が300名を超えています。全米に約30名程度のオリジネーターを常駐させており、シカゴには大規模なアンダーライティングチームを擁しています。融資プラットフォーム自体が非常に大きく、自分たちで案件のソーシングを行う他、全米の各地域にオリジネーターを配置して、そこから情報を直接ローカルに取得する体制を整えています。
地域ごとの専門家、そして業種ごとの専門家という形でオリジネーターを抱えており、膨大な案件を全米からソーシングしてきます。これらの案件をシカゴのアンダーライティングチームが審査をすることになりますが、融資のオリジネーションという点では、全米のDLマネジャーの中でも最大級のプレーヤーとなっています。
加えて、自分たちでローン・オリジネーションを20年以上にわたって実行してきたという実績があります。そのため、あらゆるローン形態に対応できる対応力と、高い審査能力、そしてローンスキームの構築力を備えており、個別案件に対して厳しい条件でしっかりとローンを組むことができるというのが優位性になると考えられます。
小倉:ターゲットとしているローワーミドル市場とコアミドル市場の狭間というポジショニングですが、競争優位性という観点からはいかがでしょうか。
田中:確かに、その観点からも競争優位性を語ることができます。企業の数はピラミッド構造をしており、大きい企業ほどワンショットのローンサイズも大きくなり、数億ドルに達するレベルとなります。一方、モンローのターゲットサイズは、数千万ドルから1億ドル強程度のレンジであり、アッパーミドルやコアミドルに比べると、対象となる企業数や市場そのものが大きいという特性があります。
反対に、大手の運用会社は基本的にコアミドルやアッパーミドルを主戦場としているため、どうしても大型案件をめぐる条件面での競争が激化します。一方、ローワーミドル市場は、ユニバースの数が多い上に、参加者も限定的であり、コアミドルやアッパーミドルほど競争が激化していません。そのため、ローワーミドル市場の方が、貸し手にとってはより有利な位置にあるといえます。
竹中:モンローに競合先のマネジャーがどこであるかと聞いても、回答に少し戸惑う状況です。いくつかの名前は挙がるものの、それらと直接的に競合しているわけではありません。そこがモンローの強みの一つになっていると感じられます。
ダイレクトレンディング市場の見通し
小倉:次に、DL市場の今後の見通しについてお伺いします。市場の成長見通しや需給関係についてはどのようにご覧になっていますか。おそらく、PEファンドのドライパウダーも相当な規模で残っており、DL市場はそれに対応して、今後も市場が拡大していくとの見方が多いかと思いますがいかがでしょうか。
田中:パブリックのBSL(ブロードリー・シンジケート・ローン)からプライベート市場へという流れそのものが今後も継続していくと考えています。一方で、シリコンバレー・バンクの破綻やファースト・ブランズ・グループ(FBG)のような破綻が起こると、調達市場がタイト化し、レンダー側がより厳しい態度をとるようになったり、より銀行系の貸し出し基準が厳しくなったりする傾向があります。そこをカバーする形でプライベート側がどれだけ対応できるかということが重要になります。そういった意味では、市場そのものは引き続き拡大していくと考えています。
また、モンローの強みの一つでもありますが、融資をどれだけ実行できる力があるかが、貸し手としての力量を示す指標になり、借り手側からも比較検討されているようです。モンローのように、ローンをどのように組むか、担保をどのように取るか、といったことを個々の案件に応じてきめ細かく交渉し、カスタマイズしながら融資を実行している運用会社に対しては、引き続き成長していく傾向が見られるでしょう。市場サイクルが仮にダウントレンドに入ってきたとしても、モンローのようなプラットフォームが盤石な会社は、借り手側にとって非常に貴重で頼りになる存在です。そのため、モンローはローワーミドル市場における最大級の貸し手として、今後も引き続き成長していくと考えられます。
竹中:もちろん、貸出先の状況に問題が起これば、ファンドのパフォーマンスに影響します。ただし、基本的にそういったことがないと仮定した場合、ディスロケーションやマーケットの混乱といった状況は、モンローにとっては自分たちの強みを生かせる絶好の機会となります。2008~2009年のリーマンショックの際に、モンローは最良のディールを実行しており、この経験値は大きな自信につながっています。そのため、不景気やリセッション、ディスロケーションといった状況を恐れるのではなく、むしろそれを強みにしているといえます。
ダイレクトレンディングに対し投資家が持つ一般的な懸念
小倉:ダイレクトレンディング市場の成長が期待される一方で、投資家の懸念として、デフォルトが少しずつ増えてきているのではないか、あるいは高金利が長く続いたため、借り手の金利負担等が重くなっており、デフォルトが増えていくのではないか、といった懸念があります。この点についてはいかがでしょうか。また、モンローのファンドの実績値としてデフォルト率に変化は見られますか。
デフォルトの傾向について
田中:デフォルト率自体が大きく上昇してきているということはありませんが、一部のPIK(Payment In Kind)が増えているといった事象は出ています。一方で、モンローは元々ワークアウトチームを持っており、マーケットが変調をきたした際に、どのようにそれをカバーし、回収していくかといったことを、基本から織り込んでアプローチしています。そういった自分たちのタイトなローン条件設定が、しっかりとしたプロテクションになると認識しています。足元の状況は、モンローでは市場全体でデフォルトが増えているというよりも、個別の融資先の個別事由によるものと捉えています。
小倉:クレジットロス率についてですが、可能な範囲でお教えください。
田中:クレジットロスが出ていないわけではありませんが、年率に引き直すと非常に低い水準です。運用会社間で計算方法が統一されていないため、モンローとしてはこの数値の公表には慎重です。
小倉:では、デフォルトの件数としては年間どの程度出ているのでしょうか。
田中:現在のファンドでは貸出先が120から130社程度含まれますが、その中で年間1~2件程度のデフォルトが発生しています。融資先が多いので、その程度の水準は、むしろ正常な範囲内といえます。
モンローは、トラックレコードが長いという特性があります。2004年からローン組成を開始し、2006年に自分たちでCLOを組成しました。DL形式のクローズドエンド・ビークルは2014年からの開始ですが、実際のローン組成はリーマンショック前からずっとトラックがあります。そのため、デフォルトやロスを受けた銘柄についてはゼロではなく、定期的に発生しています。しかし、リーマンショック時においても、数は非常に限定的で、個別事由による発生にとどまりました。
小倉:デフォルトの発生比率が増えているというわけではなく、融資先の数が多いから若干は発生するものの、比率的には低位で安定して推移しているということですね。
田中:そうですね。トレンドとして増加傾向にあるのではなく、数として発生しているものの、基本的には想定レベルの中に収まっているというイメージです。モンローはむしろデフォルトが発生した時に、ワークアウトを含めどれだけ回収率をあげられるかに以前からフォーカスしており、きちんとしたチームを抱えて対応できるようにしています。そのアプローチこそが、ある種のアピールポイントとなっているとも言えます。
竹中:さらに、モンローのチーム内にはエクイティ出身者やエクイティチームもあり、デット・エクイティ・スワップを含むさまざまな対応が可能な専門人材がそろっているという点も大きな特徴です。
PIKの増加とローン期間の長期化
小倉:先ほど話題に出たPIK、特に米国のBDCではPIK案件が増えてきているという状況かと思います。最初から契約でPIKとして設定する場合は劣後ローンと同じなので、特に問題ないと思いますが、契約の途中で利息が支払えなくなってPIKに切り替わるようなケースが出てくるとなると、問題かなと思います。
田中:ご指摘の通りPIK自体が一部増えているのは確認されており、モニタリング側としても注視しております。
小倉:契約途中でPIKに切り替わるケースもあるのでしょうか。
田中:あります。ローンの場合、個別案件によって異なり、どのような形態で契約するかについては初期段階からさまざまなバリエーションがあります。おそらく足元では、契約の見直しを通じてPIKに切り替えるケースも出ているのだと考えられます。
一方で、一般的なDLと比較すると、モンローでは返済スピードが相対的に早い融資が多いという特性があります。運用期間が終了したファンドでは、元本がどんどんと返済されていく傾向があります。ただし、従来は当初の2~3年程度で早期返済される案件が多かったのに対し、現在では、ほぼ融資期間の全期間となる4~5年程度借り続けるケースが増えてきています。その中で一部PIKが発生しているという状況です。
小倉:従来と比べて、契約上の融資期限の最後まで借り続けるケースが増えてきたというのは、やはりPEのエグジットが遅れているからでしょうか。
田中:ご指摘の通りエグジットが遅れているというのは一つの要因です。ただし、モンローの場合、エグジットだけではなく、借り換えを行うケースが多いため、必ずしもPEのエグジット遅延が直接的にモンローのローン期間延長につながるわけではありません。
小倉:他のマネジャーからは、「過去と比べると、借り手がローンをギリギリまで借りるケースが増えてきている。それはエグジットが遅れているからではないだろうか」という話を伺いしました。ローンをリスケするわけではなく、融資期間のギリギリまで借りるから、当初ファンドが想定していた期前返済があるケースよりも、実際の返済期間が長くなっているということのようです。そのため、ファンド期間を長くする必要が生じており、これまではファンド期間の延長オプションで対応してきていたが、新しいファンドでは最初の設計からファンド期間を長めに設定して募集しているという情報も聞きました。
竹中:モンローではまだそこまでの対応はしていません。
借入先のレバレッジとインタレストカバレッジレシオ(ICR)
小倉:次に、借入先のレバレッジやインタレストカバレッジレシオ(ICR)についてお聞きします。モンローの場合、ローワーミドルなので借入先のレバレッジは比較的低いとお聞きしていますが、この点はいかがでしょうか。
田中:モンローの基本的なレバレッジは4倍から4.5倍程度です。特に大きな動きはないと認識しております。
小倉:レバレッジの方は変化がないようですね。ICRはいかがでしょうか。金利が高止まりしているため、従来と比べると若干低下していますでしょうか?
竹中:最近の数値では2.0を超えていました。5号ファンドでは8月末時点で2倍を大きく上回る水準になっています。レバレッジは4.2倍です。5号ファンドはいまだクローズしていないので途中経過になりますが、現在100銘柄超が含まれています。
小倉:想定の範囲内というところですね。ちなみに、5号ファンドの貸し出しスプレッドはいかがでしょうか。
田中:スプレッドは平均で580bp程度ですが、これにはABF案件も一部含まれており、シニアローンのみの場合は異なります。
パブリック市場のBSLとの競合による影響
小倉:次に、一般的なテーマになりますが、ダイレクトレンディングとパブリック市場との競合についてお聞きします。あるいは共存しているのかについてですが、BSLとの競合はかなり激化しているのではないでしょうか。
田中:BSLとの競合は確かに激化していると思います。ただし、ローワー市場ではあまり影響を受けていないと考えられます。全体的に見るとかなり競合が激しくなってきており、特にコアミドルやアッパーミドルの市場ではその傾向が強まっています。つまり、元々BSLからDLが奪ったところに対して、BSLの復調もありもう一度競争が起こっているということでしょう。逆に、ローワーミドル市場は元々BSLと競合していなかった領域なので、基本的にはそこまで影響を受けていない状況だと思われます。
小倉:影響が少ないとはいえ、ローワーミドルでもスプレッドには少し影響が出てきているのでしょうか。
田中:そうですね。確かにコアミドル市場のプレーヤーがさらに下の方に進出してくるという動きもあるため、スプレッドに若干の影響が出ています。
小倉:一方で、コベナンツの面ではローワーミドル市場はあまり影響を受けていないと言えるのでしょうか。
田中:おっしゃる通りです。コベナンツの面ではローワー市場への影響は限定的です。
リテール資金を呼び込むBDCとの競合は
小倉:次に、BDCについてです。足元ではリテールの資金がどんどん入ってきており、拡大基調にあります。ブラックストーンのBCREDなど、毎月十億ドルを超える資金が入ってくるようですが、オープンエンドであるため、どんどん投資をしていかなければなりません。そこが問題になっているのではないかと思われます。このBDCの拡大がDL市場、例えば、モンローのようなファンドにも影響を与えているのでしょうか。
田中:あまり影響がないというのが現在の認識です。モンローの融資先はローワーミドル市場に位置しています。パブリックやリテールの資金は、より大きな企業を対象としています。
小倉:つまり、ローワーミドル市場への影響はないということですね。
田中:そうですね。ローワーミドル市場では、借り手企業の資金ニーズが引き続き強いため、影響は限定的です。また、モンローの5号ファンドは現段階で既に100件超の融資先が入っており、平時には120から130社程度に達しますが、一般的なコアミドルのファンドでは融資先は30から40社程度です。加えて、ライフタイムで見ると返済された融資先への再投資もありますので、それらも含めると150社を優に超える数になります。
小倉:融資先の分散が効いているということですね。
田中:パブリックのBSLや最近拡大してきたBDCが対象とする企業群と、モンローの主戦場である企業群は重複していません。もともと、クラブディール自体がそこまで多くありませんし、基本的にモンローはソール・レンダーか、エージェントか、いずれかの立場で対応しています。
小倉:エージェントというのはリードアレンジャーのことですか?
竹中:ほぼソール・レンダーと同じですが、完全に同じではなく、コントロールが効くという事も意味しており、リードアレンジャーも含まれます。
田中:現在でもクラブで対応するのは7%程度で、ほかはソールかリードアレンジャーという形が9割程度を占めています。ローワーミドル市場になると基本的には一社で全て完結する取引が多いようで、借り手側もそれを望んでいたりするところがあります。
そうなると、元々案件の数も多いですし、先ほどのようにBDCがどんどん進出してきても、対象とする企業群が重ならないため、やはりこちらは引き続きプライベート市場の領域ということになりますね。
日本におけるDL戦略へのアペタイト
小倉:次に、日本の機関投資家のDL戦略に対するアペタイトについてお聞きします。機関投資家の関心は引き続き強いのでしょうか。
田中:引き続き強いと思います。それは年金のお客様にもあてはまりますし、金融法人のお客様についても同様です。
小倉:金融法人に関してもう少し具体的に教えていただけますか。
田中:生保のお客様がメインですね。地銀、信連、信金といった地域金融機関ですでに取り組んでいるお客様もいますし、これから取り組もうとしている、あるいは最近始めたというお客様もいらっしゃいます。
竹中:債券でリターンが取れないので、PDにも取り組んでいかないと、という課題があるのかと思います。
小倉:DBはいかがですか。かなり以前からオルタナ投資を始められたDBでは、かなりDLにも取り組んでおり、どちらかというと投資は一巡して、今後はリアップで対応という方が多いような感じがしますが、一方で、これから始めるDBの方もいらっしゃいますか。
田中:これから始められるDBのお客様もいらっしゃいます。これまでプライベートクレジットやっていなかったから、これからやってみようという層や、オルタナティブに対して慎重だったDBが最近になって参入を検討しているというところもあります。その中でも、インカム系がよいということで、プライベートクレジットになりますが、その中でも特にDLが引き続きプライベート・アセットやオルタナティブの中ではメインになってきているのではないでしょうか。ただし、以前に比べると、すでに取り組んでいる方が多くなっているため、一巡しつつあります。
竹中:ABFなどへの分散や、コアミドル、アッパーミドルからローワーミドルへの進出など、分散を進めているDBのお客様も多くなっています。
田中:ABFに対するインタレストはかなり高くなってきていると感じます。
小倉:DBは従来、コアミドルをメインにしていました。アッパーミドルに投資をされているDBも一部で見かけますが、スプレッドが400ベーシスポイント以下に低下しており、DBで運用するには少し難しくなってきています。
円金利の上昇に伴う期待リターンの変化
田中:話は変わりますが、DBのお客様の期待リターンというかリターン目線が以前より上がってきているような気がします。
小倉:なぜそのようなことが起こっているのでしょうか。予定利率から考えると、引き続き低い期待リターンでいいはずなのですが。
竹中:理由はよくわかりませんが、おそらく円金利がそれなりに付いてきたからかもしれません。予定利率は低いままであれば、リターン目線をそこまで上げなくてもよいとは思うのですが。DBのお客様のリターンに対するアペタイトは以前より上がっている気がします。
小倉:それはドル円で4%近いヘッジコストとかも関係しているのでしょうか。
竹中:ヘッジコストも関係しているかもしれませんが、ヘッジコストは一時と比べると少し下がってきています。
田中:従来は4%のヘッジコストで、ヘッジコスト控除後でリターンが3~5%残れば十分という感じでしたが、現在ではヘッジ後で3~5%では足りないというよりも、もう少し上げてもいいのではないかという話が出ています。
小倉:流動性を犠牲にしているのだから、もっとリターンが欲しいという考え方でしょうか。
モンローのABFの円ヘッジ後のリターンはどのようなレベルですか。
田中:「レバレッジなし」でドルのスプレッドが800~1,000bp程度あり、ファンドとしてはレバレッジがかかっているので円ヘッジ後でも10%超が期待できます。ヘッジコスト4%を差し引いて、手残りが4~5%程度では、なんか半分持ってかれているようなイメージがあります。それだったら円ベースでの手残りが一桁後半というのを期待されているDB投資家の方が増えてきている感じがします。そのため、ABFファンドでも円ヘッジクラスを今回設定しました。
小倉:それでSRT戦略やCLOエクイティ戦略等に興味を示すDBの方が、少しずつですが増えているのかもしれません。
オープンエンド・ファンドに対するニーズ
小倉:次に、オープンエンド・ファンドへのニーズについてお聞きします。これはリテール資金も入ってくるBDCではなく、機関投資家向けの私募ファンドを前提にした話です。モンローは現在、オープンエンド・ファンドは保有していないと思いますが、DBの投資家とお話しされる中で、オープンエンドに対するニーズは強いものがありますか。
竹中:かなり強いと思います。オープンエンドで円ベース、あるいは円ヘッジベースというのがもはや条件のように言われるDBのお客様の数が増えています。
小倉:なぜそのようなニーズが強いのでしょうか。
竹中:特に小規模なDBでは人手がそこまで充実していないため、キャピタルコールのたびに、資金の手配や為替ヘッジの対応はもう手に負えないということですね。
小倉:一括で投資すれば、後は手間がかからないオープンエンド型の方が、クローズドエンドよりも若干リターンは下がるかもしれませんが、投資しやすいということなのでしょうね。
田中:加えて、クローズドエンドは投資効率の観点から見て、本当にいいのかという疑問を持たれるお客様もいらっしゃいます。複数のファンドのキャピタルコールに応じきれないこともあるので、多少リターンが下がっても、一括で投資できるオープンエンドの方が効率的ではないかという意見もあります。
一方で、積極的にオルタナに取り組んでいる機関投資家では、オープンエンド型に対して否定的な見方もあります。
小倉:リターンの観点からですか。
田中:リターンもありますが、ファンドの設計と流動性の整合性が重要だという考えです。
小倉:ファンドのポートフォリオが持つ流動性と、ファンドが投資家に提供する(解約等の)流動性のミスマッチということですね。
竹中:コンサルタントの方はクローズドエンド型を推す方が多いような気がします。
小倉:米国ではモンローもオープンエンド型ファンドを検討しているのでしょうか。
田中:モンローも検討しているという感じですね。リテール向けのBDCは既にありますが、機関投資家向けのオープンエンド型ファンドについても、前向きに検討中という状況ですね。
ファースト・ブランズ・グループの破綻(チャプター11)による影響
小倉:ファースト・ブランズ・グループ(FBG)の破綻がDL市場に与える影響についてお聞きします。多分、モンローのDL戦略はローワーミドルなのでFBGのような企業は投資対象外であまり影響はないのではと想定しておりますが、いかがでしょうか。
田中:まず、モンローのポジションから申し上げますと、DL戦略ではポジションはありませんが、ニュースでも一部報道されているように、BDCでは全体の1%程度になりますがポジションがあります。また、ABFでもスペシャルティファイナンスに一部保有しているものがあります。まずBDCサイドから申し上げますと、1%程度なので全体としてはマネージャブルなサイズだというのが現在のスタンスです。
スペシャルティファイナンスの方では、通常のタームローンとは異なるスキームで担保を取ってFBGにファシリティを提供していました。現在はDIPファイナンスに参加し多くのシニアレンダーの中でも優位な立場を確保しています。現時点で、FBGが実際何をしていたのかがはっきりしていないため、まだ不透明な部分がありますが、シニア・タームローンとの比較で最終的な回収率は高くなると見込んでいます。
小倉:BSLも50億ドル規模の貸付残高があるようです。
田中:そうですね。このハレーションもかなり大きくなっているのは間違いないと思います。前後してサブプライムの自動車ローン融資を組成しているトライカラー・ホールディングスの破綻などもあり、そういった意味では、レンダーサイドが融資に対してさらに厳しくなったり、引き気味になったりする可能性があります。
そのような中で、モンローはABFではディスロケーション的なタイミングで参入し、ディストレス案件は対象としませんが、レスキュー・ファイナンスのようなこともやったり、何らかの担保を押さえたりして、つなぎ融資的なことも行ったりするなど、ケイパビリティが元々豊富です。むしろ、これまでいろんな新規参入者がこの市場に入ってきて一種の玉石混交になっている状態では、きちんとした貸し方ができるかどうかという差別化が、これまでよりも可能になるだろうというスタンスを持っています。
竹中:貸し手優位につながるのではないかと思いますが、これでもう「終わりの始まり」というような感じではないでしょう。こうしたことに対応しながら、株式市場同様、レンディング市場も成長していくのかなという感じですね。つまり、マグニチュードはそこまで大きくはないと思います。
小倉:BSLで50億ドル規模の借り入れだと、年間でその程度の規模のデフォルトは発生することがあるので、BSLの世界ではびっくりするような金額ではないでしょう。問題は、債務残高がいまだに確定できないという点でしょうね。金融詐欺(Financial Fraud)の可能性があるのが嫌ですね。23億ドルの債権が消えてなくなったと騒いでいる人もいますし。
BDCでは少しあるのかもしれませんが、DBが投資しているような私募ファンドで、FBGに融資をしているというのは聞いたことがありませんし、今回、モンローも含め4社に取材させていただきましたが、どこも持っていないというのが実態です。そのため、DL戦略に与える影響は極めて小さいという印象です。
まだまだお聞きしたいことが数多くありますが、お時間が来てしまいました。本日は長時間にわたり貴重なお話を頂きありがとうございました。


インタビューを終えて
今回取材した米モンローはローワーミドルを対象とした戦略の一つである。ローワーミドルを対象とすることで、パブリック市場のBSLやリテール資金をバックにしたBDCとの競合を避け、足元でもシニアローンで500~550bpのスプレッドを確保しつつ、貸付先に対してはしっかりしたコベナンツを設定し、レバレッジも4.0~4.5倍と低目に抑えているのが特徴である。また、ローワーミドルを対象とすることから、融資金額が比較的少額であり、エージェント案件(ソール・レンダーやリードアレンジャーとしてコントロール権を確保)が9割以上を占めているのは、何か起こった時にモンローで当該案件をハンズオンできるということを示しており、同社の優位性の一つと感じた。
一連のDL戦略の取材では、欧州のアークモント、ティケオー、米国のアダムズ・ストリート、そして今回のモンローと4社の現状やDL市場に対する見方、課題等についてヒアリングさせていただいた。今回、改めて確認できたのは、日本のDBが投資をしているコアミドルやローワーミドルを対象としたマネジャーは、保守的な運営で融資に対する規律もしっかりしているという点である。クレジットロスも今のところ低水準で抑えられており、これが拡大していくという予兆は今のところ見られなかった。
また、米国ではFBGの経営破綻を始め、金融市場で信用不安リスクを浮上させかねない事案もいくつか発生しているが、インタビューした4社では直接のポジションはなく、DL戦略全体としても大きな影響はないようである。
一方で、貸し出しスプレッドに関しては、BSLとの競合でタイト化が進むアッパーミドルの影響を受け、欧米共にコアミドルやローワーミドルも2023年当時のピーク時からはタイト化が進んでいる。シニアローンでもピーク時には600bp台半ばであったものが、500~550bp程度にタイト化してきており、その意味では、テーマに掲げた「黄金時代:Golden Ageは終わったのか」はYesかもしれないが、ギリシア神話に言うところの「銀時代:Silver Age」や「銅時代:Bronze Age」に後退したということでもないだろう。第一部でも述べたように、DLが衰退期に入ったということではなく、巡航速度の安定成長路線に回帰したという見方が正しいようであり、その方が結果として成長は持続的であろう。
インタビューさせていただいた4社からは、堅実で保守的な運用、マネジャーの持つ高い規律がうかがわれた。今後も安定したインカムを創出し、DBにおけるプライベート・アセット投資の中核的資産クラスであり続けるのではないかと思われた。
4部作となったDL戦略を考えるシリーズの最後の締めは、筆者にとってDL戦略を考える際の格言にもなっている「Alpha in private credit derives from loss avoidance, not upside potential」を締めの言葉にさせていただきたい。
また、今回インタビューさせていただいた4社の皆様には改めて御礼申し上げたい。