連載 小倉邦彦の資産運用時事コラム 第32回①成長を続けるダイレクトレンディング、黄金時代は終わったのか?米クレジット市場における「ゴキブリ騒動」の影響は?
目次
・はじめに
・ファースト・ブランズ・グループのCH11による影響
・DLに関する一般的な懸念点
・パブリック市場との競合による影響
・貸し出しスプレッドの推移と現状
・DLの意義と市場の成長
・アークモントの日本での実績
・DL運用の概観、アークモントの位置付け
・アークモントDL戦略の特徴〜ダウンサイドを避ける仕組み
・アークモントDL戦略の特徴〜厳格なポートフォリオ管理
・ファンドの目標IRRと短期金利想定の影響
・プライベートエクイティのエグジット遅延とファンド運用期間の延長
・インタビューを終えて
はじめに
確定給付企業年金(DB)のオルタナ投資では欠かせない存在となっているプライベートデット(PD)。その中でもとりわけDBからの人気が高く、オルタナ投資の主力資産クラスの一つになっているのがダイレクトレンディング(DL)である。米国における急速な利上げを背景に、パブリック市場のブロードリー・シンジゲート・ローン(BSL)への資金流入が大幅に減少した2023年には、DLの平均的な貸し出しスプレッドも600bp台半ばとなり、融資も大型化、それまでBSLで借り入れをしていた案件のリファイナンスをDLが取って代わるということも頻発した。一方で、デフォルトの発生は低水準を維持し、DLのマネジャーは「今はDLの黄金期である」と語っていたのが印象的である。
足元ではFRBは利下げサイクルに入ってきているものの、いまだ政策金利は4%と高水準であり、借入企業の金利負担は気になるところである。また2024年になるとパブリック市場の復調に伴いBSLやHY債市場への資金流入も回復し、EBITDA1億ドル以上の大型企業を対象としたアッパーミドルでは、DLとBSLの競合は激しさを増している。貸し出しスプレッドもアッパーミドルでは足元400bp、DL全体でも500bp近くまで縮小してきているようだ。
一方で、DBが投資する私募ファンドと同様に、非上場の中小企業に融資をする米国のBDC(事業開発会社:Business Development Companies)は、リテールからの資金供給が増加しその規模を拡大させており、私募ファンドとの競合も懸念される状況である。
また、一部のDBではこれまでのPDにおけるDL偏重を見直すべく、ABF(Asset Based Finance)やトレードファイナンス、あるいはインフラデットやNAVファイナンスといった戦略にも投資をすることで、PDの中での分散を図る傾向もある。しかし、①単純な企業貸付であるという分かりやすさ、②ヘッジ後でも4~5%程度のインカム収益が期待できDBのオルタナ投資としてはスイートスポット的存在である、③担保やコベナンツもしっかり確保されており貸し倒れも低水準である、④結果としてリターン実績が安定している、⑤ファンドの数が多く投資家の選択肢が豊富である、等の理由でDLはPDのコア戦略であることに変わりはないようだ。
そこで本コラムではDLを取り扱っている資産運用会社に、DLの現状と課題、今後の収益見通し、パブリックとの競合、リテール資金をバックにしたBDCとの関係(競合か共存か)、またオープンエンド型に対するニーズ等について伺うこととした。
欧州のマネジャーとしてアークモント(説明者はRBCブルーベイ・アセット・マネジメント)、ティケオー(説明者はアモーヴァ・アセット・マネジメント)、米のマネジャーとしてアダムズ・ストリート・パートナーズ、モンロー・キャピタル(説明者は上田八木証券)の4社にインタビューさせていただいた。また、米クレジット市場で「ゴキブリ騒動」とも言われ騒がれている、自動車部品会社ファースト・ブランズ・グループの更生法適用(チャプター11)がDL市場に与える影響についても、各社にヒアリングさせていただいた。
第1部 欧州:アークモント(説明はRBCブルーベイ・アセット・マネジメント)
DLの現状や課題をRBCブルーベイ・アセット・マネジメントの三田村耕造 運用本部 運用戦略部長に伺った。同社は欧州における大手DL運用会社であるアークモントの戦略を日本で取り扱っている。アークモントのDL戦略は国内機関投資家からの受託総額が約3100億円、投資家も国内で50超となっており、日本で最も普及しているDL戦略の一つである。(なお、三田村氏へのインタビューは10月15日に実施した。)