メニュー
閉じる

自民・維新の連立で財政出動拡大か 高市首相の誕生で変わる円相場の行方は

「内田稔教授のマーケットトーク」をWeb記事で
2025年10月20日
内田 稔 /  高千穂大学 教授/FDAlco 外国為替アナリスト

当シリーズでは、高千穂大学の商学部教授で三菱UFJ銀行の外国為替のチーフアナリストを務めた内田稔氏に、為替を中心に金融市場の見通しや注目のニュースをウィークリーで解説してもらう。※この記事は10月18日に配信された「内田稔教授のマーケットトーク【第54回】高市首相誕生なら円安再起動か?」を再編集しています。ご質問はYoutubeチャンネルのコメント欄からお願い致します。また、チャンネル登録もお願い致します。

―――――――――――――――――――――――――

今回のマーケットトークのテーマは「高市首相誕生なら円安再起動か?」です。高市首相誕生が濃厚となりました。その際に円安が再び強まる可能性が高いとみられ、その背景について解説します。

 今週の為替市場では総じてドルが軟調に推移しました。米中サミットの開催が危ぶまれた上、アメリカの地銀の融資に関する不正疑惑が報じられ、信用不安も警戒されました。また、パウエル議長の発言もややハト派的と受け止められており、米長期金利が4%を割り込んでいます。この為、ドル円は一時150円を割り込みましたが、米中間の緊張が和らぎ、足もとでは150円台半ばまで反発しています。(スライド2

 今週の主要通貨の対ドル変化率をみますと、カナダドル以外はドルに対して上昇しています。市場がリスク回避的となった結果、特にスイスフランや円が上位に位置しています。もっとも、そのスイスフランの上昇率も0.8%程度であり、ドル安の程度も限定的だったと言えます。(スライド3

日銀の利上げ観測は依然として盛り上がりを欠いています。今週は9月会合で利上げを提案した田村審議委員が引き続き、利上げの必要性を訴えました。但し、OIS市場を見る限り、自民党総裁選の前と比べ、利上げの織り込みは後退したままです。(スライド4

 

 今週は日本維新の会が自民党との連立政協議に入りました。その際、12項目の政策を条件に掲げており、その内、赤字で記載した政策が政府の財政出動を必要とするものです。特に、統治機構改革の中にある副首都構想を巡っては、数兆円から10兆円規模の公共事業が動き出すとの指摘もきかれており、自公連立政権よりも財政の出動規模は大きくなる見通しとなっています。(その後、自民党と日本維新の会が連立政権の合意書に20日に署名することが報じられています)(スライド5

 

 市場の期待インフレ率を示す10年物ブレークイーブンインフレ率をみますと、直近で最も高かった水準に迫っています。高市政権の成立に伴い、足元のインフレに更なる財政出動が被さることになり、インフレが加速する可能性が高まったといえるでしょう。ブレークイーブンインフレ率も直近の上限を上抜けする可能性が高いといえますが、これは次ページのメカニズムを通じ、円安圧力になると考えられます。(スライド6

 

 以下の枠内の式は異次元緩和の際、黒田総裁(当時)が経済に対する波及経路として説明したものです。即ち、期待インフレ率(日銀はこれを予想物価上昇率と呼びます)が高まれば、先々の実質金利の低下が予見されます。これは予想実質金利の低下を意味し、消費や投資を後押しするとされました。この予想実質金利の低下は、金融緩和度合いが強まることであり、株式相場にとっては追い風となります。一方、先々の実質金利の低下を見越して円相場には下落(=円安)圧力が加わります。また、期待インフレ率が上昇する結果、長期金利には上昇圧力が加わることになります。(スライド7

さて、今週はドルにとってのネガティブな材料がいくつも見られ、その一つが地方銀行が抱える貸出債権を巡る不正疑惑およびそれに端を発した金融不安です。アメリカでは2023年にも複数の地方銀行が経営破綻に至ったものの、その後、他行へと業務が受け継がれ、結果的には事なきを得ています。そこで、当時、破綻した地方銀行と現在名前が挙がっている地方銀行に関して資産規模を比較してみました。すると、今回名前が挙がっている地方銀行はどれも当時、経営が破綻した地銀に比べて小規模です。少し楽観的かもしれませんが、こうした地方銀行が仮に経営破綻した場合であっても、アメリカの金融システム全体に及ぼす影響は限定的なものにとどまるのではないでしょうか。いずれにしても今後の経過を注視していく必要があります。(スライド8

 

 

 次に米中間の緊張についてです。事の発端は109日、中国がレアアースの輸出規制強化を発表したことでした。これを受け、トランプ大統領が10日、月末に予定されていた首脳会談の中止を示唆し、一気に両国間の緊張が高まりました。ただ、その後もトランプ大統領が「うまくいく」と発言するなど、週末にかけて米中サミットが予定通り開催される見通しとなっています。その結果、足元では緊張が和らいでおり、為替市場での円売りに繋がりました。基本的に米中間での緊張の緩和は米国企業のマインド改善や採用活動の再開にもつながると期待されます。現状では米中サミットが開催され、1110日の関税交渉期限までに何らかの合意形成がなされると予想していますが、こちらも引き続き経過を見ていくことになります。(スライド9

さて、足元では米国の政府機関閉鎖の解消が見通せておらず、今週のパウエル議長の発言に照らせば、年内2回の利下げも見込まれています。その上、先の地銀の信用不安や米中サミット開催を巡る不確実性など、ドルにとってのネガティブ材料が散見されました。その結果、今週はややドルが軟調に推移した一方、もう少し俯瞰してアメリカドルを見てみると7月以降に下げ止まり、ここまで持ち直しに転じています。(スライド10

 ドルが底堅い一因に先物市場における投機筋のドルのポジションが挙げられます。今年の4月以降、ドルショート(ドルの売り越し)が拡大しましたが、7月以降、ドルの下げ渋りを踏まえてドルの買い戻しが活発に進んでいる可能性が考えられます。(スライド11

 そのドルが下げ渋った背景に、ユーロドルの失速が考えられます。ドル指数の約58%をユーロに対するドルの値動きが占めており、ドル指数が下落するためにはユーロドルの上昇が必要です。ただ、今年の3月以降、ドイツやEUの財政出動を期待したユーロ買いを以てしても、結果的にユーロドルは1.20台に届く前に失速しています。これは、2018年以降のレジスタンスに続伸を阻まれた格好と言えます。(スライド12

 加えてドルとは対照的にユーロの先物市場における投機筋のポジションはユーロロング(ユーロの買い越し)です。今後1.20台に届かなかったことを踏まえ、ユーロロングの取り崩し、即ちユーロ売りが進みやすいと言えるでしょう。こうしたドルとユーロのポジションに照らせば、しばらくの間、ドルの持ち直しが続くと考えられます。(スライド13

 ユーロについてはフランスをめぐる格下げにも要注意です。大手の中でフランスをA(シングルA)に格下げしたフィッチに続き、ムーディーズやSP6週間以内に格付けを見直すと報じられています。2社目もフランス国債をAに格下げした場合、フランス国債を保有している銀行にとって、リスク掛け目が20%に上がります。この結果、フランス国債が売られ、その場面でユーロ安が進む可能性もあります。同じユーロ圏の例えばドイツ国債にシフトするだけであれば為替相場への影響は限られますが要注意です。(※)17日、SPA+への格下げを発表しました。(スライド14

 では、来週の予定です。アメリカの政府機関閉鎖の影響で、アメリカの経済指標の発表は引き続き限られます。24日に予定されている9月の消費者物価指数が注目されますが、注目は21日とされている臨時国会及び首班指名選挙でしょう。ここで高市首相が誕生する可能性が濃厚です。(自民党と日本維新の会が連立政権の合意書に20日に署名することが報じられており、高市首相誕生がほぼ確実な情勢です。)(スライド15

 高市首相が誕生した場合、改めて財政出動を見越したインフレ期待の上昇によって株高・円安・長期金利の上昇が見込まれます。また、ドルも持ち直しつつある為、基本的に来週のドル円は上昇する可能性が高いのではないでしょうか。アメリカの地銀に対する信用不安が再び意識される場面があれば150円を割り込む可能性もありますが、まずは先週の高値である153円付近を改めて意識されそうです。一方、アメリカの労働市場が引き続き悪化している可能性があるほか、トランプ大統領の来日を前に国内外からの円安をけん制する声も予想されます。一段の上値追いには慎重姿勢も求められそうです。(スライド16

「内田稔教授のマーケットトーク」はYouTubeからもご覧いただけます。

公式チャンネルと第54回公開分はこちらから

※ご質問はYoutubeチャンネルのコメント欄で受付中です!

内田 稔

 高千穂大学 教授/FDAlco 外国為替アナリスト

1993年慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、東京銀行(現、三菱UFJ銀行)入行。マーケット業務を歴任し、2007年より外国為替のリサーチを担当。2011年4月からチーフアナリストとしてハウスビューの策定を統括。J-Money誌(旧ユーロマネー誌日本語版)の東京外国為替市場調査では、2013年より9年連続アナリスト個人ランキング部門第1位。2022年4月より高千穂大学に転じ、国際金融論や専門ゼミを担当。また、株式会社FDAlcoの為替アナリストとして為替市場の調査や分析といった実務を継続する傍らロイターコラム「外国為替フォーラム」、テレビ東京「ニュースモーニングサテライト」、News Picks等でも情報発信中。そのほか公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、証券アナリストジャーナル編集委員会委員も兼任。日本証券アナリスト協会検定会員、日本テクニカルアナリスト協会認定アナリスト、国際公認投資アナリスト、日本金融学会会員、日本ファイナンス学会会員、経済学修士(京都産業大学)