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連載 小倉邦彦の資産運用時事コラム 第31回
企業年金に静かに広がるCLOエクイティ戦略 前編:CLOエクイティ戦略の基本的な仕組み

2025年10月22日
小倉 邦彦 /  『オルイン』シニアフェロー
元 三井物産連合企業年金基金 シニアアドバイザー

要旨

市場環境と投資ニーズ

高止まりする4%近辺のドル円ヘッジコストに対応するから、一部の確定給付企業年金(DB)で円ヘッジ後811%のリターンを目指す動きがある。CLOエクイティ戦略は、ドルベースで1315%以上のリターンが期待できる選択肢として、信託銀行や資産運用会社のラインアップに徐々に追加されている。

仕組みとリターン創出メカニズム

CLOは200500銘柄程度のシンジケートローン(BSL)を裏付資産とし、AAA格からエクイティまで階層化された証券を発行。エクイティは全体の10%で、90%のデット・トランシェの最劣後に位置する。資産(BSL)と負債(デット)のスプレッド差を10倍のレバレッジで増幅することで、1415%程度の高リターンを実現する。コラテラルマネジャーによる銘柄選択の巧拙が、リターンに直接影響を与える。

リターン向上の2つのオプション

  1. デット・リファイナンス:ノンコール期間終了後、スプレッドがタイト化した局面でデット・トランシェを再発行し、調達コストを引き下げることでエクイティのリターンを向上
  2. BSLの再投資35年の再投資期間中、ローンポートフォリオをアクティブに入れ替えて収益向上を狙う

 キャッシュフローとリスク特性

毎年1820%の高いキャッシュインがある一方、クレジットロスを最優先で吸収するため、時間経過とともに価格が下落し、償還時には額面を大幅に割り込む。クレジットロス率が50bp増加するとエクイティには5.0%の損失として影響するが、実際のクレジットロス率は2030bp/年程度で推移している。

 DB投資家の評価

投資家からは「NAVの変動はあるが、それを上回るキャッシュイールドが魅力」「Jカーブがなく投資直後から高インカムが得られる」と評価される一方、構造の複雑性やテールリスクを考慮し、DBからの投資は限定的だ。

目次

・はじめに
・CLOの仕組み
・エクイティリターンはどのように導き出されるのか
・エクイティのキャッシュイールドを向上させる2つのオプション
・ローンポートフォリオのリプライシングによる影響
・トータルリターンに大きな影響を与えるクレジットロス
・CLOエクイティのキャッシュフローの特徴
・CLO発行額は巨額、足元では新規よりもリファイナンス案件が優勢
・なぜCLOエクイティに投資をするのか。 DB投資家の声
・終わりに

はじめに

4%近辺で高止まりするドル円ヘッジコストの影響で、確定給付企業年金(DB)の一部では、オルタナ投資においてもヘッジコストに負けないより高いリターンが期待できる戦略を導入する動きがある。インカム系でドルベース1215%(円ヘッジ後で811)のリターンとなると、従来はメザニンやディストレストが主流であったが、最近では当コラムでも昨年11月に紹介したSRT戦略(Significant Risk TransferまたはCapital Relief Tradeとも言う)を採用するDBも現れている。SRT戦略は日本のDBにシングルファンドとして採用されるようになってまだ数年程度の比較的新しい戦略である。同戦略自体は欧州を主体にかなり以前から普及しており、DBが採用するマルチクレジット戦略のポートフォリオに部分的に含まれているケースがあった。

SRT戦略と同様にネットIRR1315%かそれ以上のリターンが期待できるのがCLOCollateralized Loan Obligation)エクイティ戦略である。こちらは以前から一部のDBで投資対象になっていたが、信託銀行や資産運用会社のDB向けラインアップに登場することはほとんどなかった。しかしながら、高止まりするヘッジコストを背景にしたイールドハンティングの動きもあり、足元ではCLOエクイティ戦略をDB向けに販売する信託銀行や資産運用会社も徐々に増えてきているようなので、本コラムではCLOエクイティ戦略の概要や留意点をまとめることとした。

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小倉 邦彦

 『オルイン』シニアフェロー
元 三井物産連合企業年金基金 シニアアドバイザー

1980年三井物産株式会社入社。本社、広島支店、ドイツ(デュッセルドルフ)等にて経理、財務業務を担当後、1998年~2006年 本店プロジェクト金融部室長。
2006年~2009年 米国三井物産ニューヨーク本店財務課 GM。
2009年~2011年 本店財務部企画室 室長。
2011年~2013年 三井物産フィナンシャルサービス株式会社 代表取締役社長。
2013年~2017年 三井物産都市開発株式会社CFO。
2017年5月~2022年6月 三井物産連合企業年金基金 常務理事兼運用執行理事。
2022年7月~2023年3月 同基金シニアアドバイザー。