要旨
市場環境と投資ニーズ
高止まりする4%近辺のドル円ヘッジコストに対応するから、一部の確定給付企業年金(DB)で円ヘッジ後8〜11%のリターンを目指す動きがある。CLOエクイティ戦略は、ドルベースで13〜15%以上のリターンが期待できる選択肢として、信託銀行や資産運用会社のラインアップに徐々に追加されている。
仕組みとリターン創出メカニズム
CLOは200〜500銘柄程度のシンジケートローン(BSL)を裏付資産とし、AAA格からエクイティまで階層化された証券を発行。エクイティは全体の10%で、90%のデット・トランシェの最劣後に位置する。資産(BSL)と負債(デット)のスプレッド差を10倍のレバレッジで増幅することで、14〜15%程度の高リターンを実現する。コラテラルマネジャーによる銘柄選択の巧拙が、リターンに直接影響を与える。
リターン向上の2つのオプション
- デット・リファイナンス:ノンコール期間終了後、スプレッドがタイト化した局面でデット・トランシェを再発行し、調達コストを引き下げることでエクイティのリターンを向上
- BSLの再投資:3〜5年の再投資期間中、ローンポートフォリオをアクティブに入れ替えて収益向上を狙う
キャッシュフローとリスク特性
毎年18〜20%の高いキャッシュインがある一方、クレジットロスを最優先で吸収するため、時間経過とともに価格が下落し、償還時には額面を大幅に割り込む。クレジットロス率が50bp増加するとエクイティには5.0%の損失として影響するが、実際のクレジットロス率は20〜30bp/年程度で推移している。
DB投資家の評価
投資家からは「NAVの変動はあるが、それを上回るキャッシュイールドが魅力」「Jカーブがなく投資直後から高インカムが得られる」と評価される一方、構造の複雑性やテールリスクを考慮し、DBからの投資は限定的だ。
目次
・はじめに
・CLOの仕組み
・エクイティリターンはどのように導き出されるのか
・エクイティのキャッシュイールドを向上させる2つのオプション
・ローンポートフォリオのリプライシングによる影響
・トータルリターンに大きな影響を与えるクレジットロス
・CLOエクイティのキャッシュフローの特徴
・CLO発行額は巨額、足元では新規よりもリファイナンス案件が優勢
・なぜCLOエクイティに投資をするのか。 DB投資家の声
・終わりに
はじめに
4%近辺で高止まりするドル円ヘッジコストの影響で、確定給付企業年金(DB)の一部では、オルタナ投資においてもヘッジコストに負けないより高いリターンが期待できる戦略を導入する動きがある。インカム系でドルベース12~15%(円ヘッジ後で8〜11%)のリターンとなると、従来はメザニンやディストレストが主流であったが、最近では当コラムでも昨年11月に紹介したSRT戦略(Significant Risk TransferまたはCapital Relief Tradeとも言う)を採用するDBも現れている。SRT戦略は日本のDBにシングルファンドとして採用されるようになってまだ数年程度の比較的新しい戦略である。同戦略自体は欧州を主体にかなり以前から普及しており、DBが採用するマルチクレジット戦略のポートフォリオに部分的に含まれているケースがあった。
SRT戦略と同様にネットIRRで13~15%かそれ以上のリターンが期待できるのがCLO(Collateralized Loan Obligation)エクイティ戦略である。こちらは以前から一部のDBで投資対象になっていたが、信託銀行や資産運用会社のDB向けラインアップに登場することはほとんどなかった。しかしながら、高止まりするヘッジコストを背景にしたイールドハンティングの動きもあり、足元ではCLOエクイティ戦略をDB向けに販売する信託銀行や資産運用会社も徐々に増えてきているようなので、本コラムではCLOエクイティ戦略の概要や留意点をまとめることとした。