国内外を覆う不確実性によって景気や市場を見通すことは困難を極めています。そこで国内屈指の著名エコノミストである、第一生命経済研究所の経済調査部で首席エコノミストの永濱利廣氏に、経済・市場の今後を読み解く手がかりになるテーマについて解説していただきました。 国内外を覆う不確実性によって景気や市場を見通すことは困難を極めています。そこで国内屈指の著名エコノミストである、第一生命経済研究所の経済調査部で首席エコノミストの永濱利廣氏に、経済・市場の今後を読み解く手がかりになるテーマについて解説していただきました。
※本稿は、10月2日掲載の第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト、永濱 利廣氏のレポート「9月日銀短観から見た25年度業績見通し~半導体材料や宿泊・飲食関連で上方修正の可能性~」を抜粋・再編集したものです。
要旨
9月日銀短観における25年度の収益計画では増収減益計画は不変も売上高下方修正。ただ、経常利益は加工業種以外上方修正。
売上高計画の上方修正が目立ったのが、人件費上昇などに伴うサービス価格の引き上げが功奏した「対個人サービス」、半導体材料の需要回復が影響した「繊維」、企業のシステム投資好調などが寄与した「情報サービス」、製品値上げ寄与の「紙・パルプ」、旅行需要増寄与の「宿泊・飲食サービス」等。
経常利益計画を基に上方修正が期待される業種を見ると、機能材料の好調さ等が反映された「鉱・採石・砂利採取」、値上げや好調な輸出等が寄与した「食料品」、半導体材料の好調さが後ろ盾になる「金属製品」「化学」、世界的な地政学リスクの高まりに伴う防衛を中心とした需要増が寄与した「造船・重機、その他輸送用機械」、観光需要増や値上げが功奏する「宿泊・飲食サービス」と続く。
大企業の25年度想定為替レートは、ドル円で145.9円/$、ユーロ円で159.7円/€だが、足元のドル円レートは140円台後半、ユーロ円は170円台となっている。中でも、多くの業種において足元の水準より対ユーロで円高気味の想定をしていることを踏まえれば、ユーロ圏向けのエクスポージャーが高水準の業種においては業績上方修正が期待される。
製造業の加工業種で経常利益下方修正
10月1~2日にかけて公表された9月日銀短観の大企業調査は、8月下旬~9月下旬にかけて資本金10億円以上の企業約1700社に対して行った調査であり、先月公表された法人企業景気予測調査に続いて、今期業績予想の先行指標として注目される。
そこで本稿では、同調査を用いて10月下旬から本格化する四半期決算発表で、今年度業績計画の上方修正が見込まれる業種を予想してみたい。
資料1は、9月短観の調査対象大企業(全産業、除く金融)が計画する半期別売上高・経常利益前年比の推移を見たものである。まず売上高を見ると、25年度は上期・下期とも若干下方修正となっている。
一方、経常利益を見ると、年度全体で見れば25年度は+0.3%ほど上方修正になっている。しかし、業種別に着目すれば、製造業の加工業種だけ下方修正となっている。これは、やはり加工業種は輸出関連産業が多いことから、トランプ関税が影響していることが予想される。
しかし裏を返せば、産業全体で見れば、売上高の半期ごとの伸び率は前年比で若干の下方修正にとどまる一方で、経常利益については製造業のうち加工業種以外は上方修正になっているということである。

売上高上方修正は「対個人サービス」「繊維」「情報サービス」
続いて、9月短観の売上高計画を基に、大幅上方修正が見込まれる業種を選定してみたい。資料2は25年度の業種別売上高計画の前年比と修正率をまとめたものである。

結果を見ると、25年度は「物品賃貸」「その他情報通信」「電気・ガス」「鉱・採石・砂利採取」「石油・石炭製品」「鉄鋼」「非鉄金属」を除く多くの業種で増収計画となる中で、最大の上方修正率となっているのが「対個人サービス」である。それに「繊維」「情報サービス」が続く。
まず、「対個人サービス」については、「医療、福祉」や「教育、学習支援業」の一部などが含まれる。このため、人件費上昇などに伴うサービス価格の引き上げが上方修正の後ろ盾になっている可能性がある。また「繊維」では、半導体材料の需要回復が影響している可能性が示唆される。一方、「情報サービス」では、今回の9月短観でも25年度の中小製造業企業におけるソフトウェア投資計画が前年比2割以上増加となっているように、企業の課題解決型のシステム投資増などが寄与したと考えられる。それに続く「紙・パルプ」では製品価格の値上げ、「宿泊・飲食サービス」では万博やインバウンドに伴う需要増などが貢献した可能性がある。
従って、次の四半期決算における業績見通しでは、こうした業種に関連する企業について売上高計画がどの程度上方修正されるかが注目されよう。
経常利益上方修正期待は「鉱・採石・砂利採取」「食料品」「金属製品」
続いて、9月短観の経常利益計画から上方修正が期待される業種を見通してみよう(資料3)。

結果を見ると、増益計画となる中で上方修正率が最も大きいのは「鉱・採石・砂利採取」となっている。これは、排ガスの浄化触媒やAIサーバー向けの銅箔などといった機能材料が好調であることが反映されたと推察される。
それに続くのが「食料品」である。背景には、値上げや好調な輸出が寄与していることが推察される。そして「金属製品」と「化学」については、こちらも鉱業と同様に半導体材料の好調さが上方修正の後ろ盾になっている可能性がある。
なお、「宿泊・飲食サービス」は売上高計画も上方修正となっていることから、万博やインバウンドに伴う需要増や値上げが寄与していることが予想される。
このように、次の四半期決算で経常利益見通しの上方修正が期待される業種としては、半導体材料の好調さが寄与する鉱業や金属製品、化学に加え、値上げや需要増が功奏する食料品や宿泊・飲食サービス関連業種等が指摘できる。
為替レートの変動で業績が修正される可能性も
なお、9月短観の収益計画では、企業の想定為替レートも公表されることから、業種別の想定為替レートも今後の業績見通しの修正の可能性を読み解く手がかりとして注目したい。
資料4にて実際に今年度の想定為替レートを確認すると、ドル円で145.9円/$、ユーロ円で159.7円/€となっている。対して、足元のドル円レートは140円台後半、ユーロ円レートは170円台となっている。

中でも、足元のレートよりも特に円高で今期の為替レートを想定しているのが「造船・重機、その他輸送用機械」「はん用機械」「繊維」「電気機械」「窯業・土石」となっている。
なお、輸入依存度の高い内需関連産業は円高でむしろ業績の押上要因となる企業も含まれており注意が必要だが、多くの業種において足元の水準より、特に対ユーロで円高気味の想定をしていることに注目すべきだろう。
以上の結果を踏まえれば、ユーロ圏向けのエクスポージャーが高水準の業種においては業績上方修正が期待される一方、今後は世界経済において想定以上の景気減速懸念などに伴うリスクオフを通じて、各国中銀がこれまでよりも金融緩和に前向きな姿勢を示す等して為替レートの水準が円高方向に進めば、今期の為替レートを円安気味に想定している業種に属する企業を中心に今期業績が修正される可能性があることにも注目すべきだろう。