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10月の決算発表前に要チェック!専門家が予測する「経常利益・大幅上方修正」が期待できる5セクターと、その根拠

第一生命経済研究所の永濱氏が読み解く、経済・市場展望の手がかりは
2025年9月19日
永濱 利廣 /  第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト

国内外を覆う不確実性によって景気や市場を見通すことは困難を極めています。そこで国内屈指の著名エコノミストである、第一生命経済研究所の経済調査部で首席エコノミストの永濱利廣氏に、経済・市場の今後を読み解く手がかりになるテーマについて解説していただきました。 国内外を覆う不確実性によって景気や市場を見通すことは困難を極めています。そこで国内屈指の著名エコノミストである、第一生命経済研究所の経済調査部で首席エコノミストの永濱利廣氏に、経済・市場の今後を読み解く手がかりになるテーマについて解説していただきました。

※本稿は、9月11日掲載の第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト、永濱 利廣氏のレポート「景気予測調査から見た四半期決算見通し~「農林水産」「電気ガス水道」「職業紹介・労働者派遣」で利益計画上方修正の可能性~」を抜粋・再編集したものです。

要旨

2025年7-9月期の法人企業景気予測調査を見ると、25年度の収益計画は売上高計画が小幅下方修正も、経常利益計画は製造業で減益幅が拡大の一方で非製造業は減益幅縮小。

増収計画の上方修正率が高い業種は「農林水産」「生活関連サービス」「学術研究、専門・技術サービス」「娯楽」「運輸・郵便」。「農林水産」については、天候不順などに伴う農産品価格上昇の影響が寄与した可能性。「生活関連サービス」「学術研究、専門・技術サービス」「娯楽」「運輸・郵便」は、人手不足に伴い人材確保のコストが高まることで値上げが進んでいる可能性。「生活関連サービス」「娯楽」「運輸・郵便」は、旅行・観光需要の予想以上の拡大も寄与している可能性が推察される。

経常利益計画が大幅上方修正されている業種は「農林水産」「電気・ガス・水道」「職業紹介・労働者派遣」「その他サービス」「繊維」。「農林水産」は、価格転嫁が進んでいることが利益の上方修正に寄与している可能性。「電気・ガス・水道」「繊維」は商品市況落ち着きを受けた投入コスト減や業務リストラ等が寄与している可能性。「職業紹介・労働者派遣」は人手不足に伴う企業の人材獲得需要が想定以上に旺盛となっている可能性。「その他サービス」は耐久消費財や資本財の価格上昇などから自動車買い替えや設備の更新サイクルが長期化することで修理の需要が増えていることが推察される。

大企業のより直近の動向が反映される9月日銀短観の業種別収益計画(10月公表)も今期業績見通しを読み解く手がかりとして注目したい。

製造業の経常利益が下方修正

9月11日に公表された2025年7-9月期の法人企業景気予測調査は、今年8月下旬にかけて資本金1千万円以上の法人企業に対して行った景気予測調査であり、今期の業種別企業業績計画を予想するための先行指標として注目される。

そこで本稿では、今年10月下旬から本格化する四半期決算発表で、今年度の企業業績計画の上方修正が見込まれる業種を予想してみたい。

下図は、法人企業景気予測調査の調査対象企業の各調査時期における売上高と経常利益計画の今年度見通しを見たものである。まず売上高を見ると、製造業・非製造業とも増収率は下方修正となっている。このため、全体が下方修正される中でも今期の売上高計画が上方修正される業種には注目が集まるものと推察される。

一方の経常利益は、製造業で今年度計画の減益幅が前回調査から拡大している一方、非製造業で縮小している。このことから、10月下旬から本格化する四半期決算発表では、製造業を中心に今年度の経常利益計画の下方修正が出てくることが予想されるが、そうした中でも、経常利益計画の上方修正が打ち出される業種には注目が集まるものと推察される。

図表

増収率上方修正の「農林水産」「生活関連サービス」「学術研究、専門・技術サービス」

以下では、10月下旬から本格化する四半期決算で、今期売上高計画の上方修正が期待される業種を見通してみたい。下表は業種別売上高計画を前年比と前回調査からの修正率で比較したものである。

図表

結果を見ると、25年度は「石油・石炭」「鉄鋼」「非鉄金属」「鉱・採石・砂利採取」「建設」「電気・ガス・水道」以外の業種で増収計画となっている。

こうした中で、前年比の上方修正幅が大きい業種は「農林水産」「生活関連サービス」「学術研究、専門・技術サービス」「娯楽」「運輸・郵便」となっている。

なお、「生活関連サービス」はクリーニング、理髪店、美容室、エステティックサロン、浴場業など、清潔保持やリラックスを目的とした身の回りのサービスや、旅行代理店、葬儀屋、結婚式場業、物品預かり業、家事サービス業などの生活支援サービス等が該当する。また、「学術研究、専門・技術サービス」は、法律、財務、会計に関する事務や相談、建築設計、測量、獣医学的サービスなどの専門的な技術サービス、コンサルティング業、デザイン業、広告業、商品検査、計量証明、写真制作、翻訳業、通訳業、不動産鑑定業などが含まれる。

まず「農林水産」については、天候不順などに伴う農産品価格上昇の影響が寄与した可能性が示唆される。一方、「生活関連サービス」「学術研究、専門・技術サービス」「娯楽」「運輸・郵便」については、人手不足に伴い人材確保のコストが高まることで値上げが進んでいることが示唆される。加えて、「生活関連サービス」「娯楽」「運輸・郵便」については、大阪関西万博やインバウンドをはじめとした旅行・観光需要の予想以上の拡大も寄与していることが推察される。

「農林水産」「電気・ガス・水道」「職業紹介・労働者派遣」等が増益率大幅上方修正

続いて、経常利益計画から増益率の上方修正が期待される業種を見通してみよう。結果を見ると、多くの業種で減益計画となっており、これはトランプ関税発動に伴う影響等が主因と推察される。

図表

こうした中、経常利益の上方修正が目立つ業種は「農林水産」「電気・ガス・水道」「職業紹介・労働者派遣」「その他サービス」「繊維」等であり、特にトップ3業種はいずれも10%ポイントを超える上方修正幅となっている。なお「その他サービス」は廃棄物処理や自動車整備、機械等修理などが含まれる。

まず「農林水産」については売上高も上方修正されているため、コメなどを中心に価格転嫁が進んでいることが利益の上方修正に寄与している可能性がある。

また「電気・ガス・水道」や「繊維」は売上高計画が下方修正されていることからすれば、商品市況の落ち着きなどに伴う投入コスト減や業務リストラ等が寄与していることが推察される。

一方「職業紹介・労働者派遣」は増収増益計画になっていることからすれば、人手不足に伴う企業の人材獲得需要が想定以上に旺盛となっていることが予想される。

他方「その他サービス」は自動車整備や機械等修理が含まれていることからすれば、耐久消費財や資本財の価格上昇などから自動車買い替えや設備の更新サイクルが長期化することで修理の需要が増えていることが推察される。

なお、日銀が10月に公表する9月短観の業種別収益計画(大企業)は法人企業景気予測調査に比べて聞き取りのタイミングが若干遅いことから、直近の影響をより織り込んでいる可能性が高い。このため、9月短観における大企業の収益計画も四半期決算と今期業績見通しを読み解く手がかりとして注目したい。

永濱 利廣

 第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト

早稲田大学理工学部工業経営学科卒、東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年より日本経済研究センター出向。2000年より第一生命経済研究所経済調査部、16年4月より現職。国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。景気循環学会常務理事、衆議院調査局内閣調査室客員調査員、跡見学園女子大学非常勤講師などを務める。景気循環学会中原奨励賞受賞。「30年ぶり賃上げでも増えなかったロスジェネ賃金~今年の賃上げ効果は中小企業よりロスジェネへの波及が重要~」など、就職氷河期に関する発信を多数行う。著書に『「エブリシング・バブル」リスクの深層 日本経済復活のシナリオ』(共著・講談社現代新書)、『経済危機はいつまで続くか――コロナ・ショックに揺れる世界と日本』(平凡社新書)、『日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか』(講談社現代新書)など多数。