当シリーズでは、高千穂大学の商学部教授で三菱UFJ銀行の外国為替のチーフアナリストを務めた内田稔氏に、為替を中心に金融市場の見通しや注目のニュースをウィークリーで解説してもらう。 ※この記事は4月25に配信された「内田稔教授のマーケットトーク 【第28回】複数のドル反転の兆し」を再編集しています。
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5月5日週の注目ポイントは現地時間6・7日に開催されるFOMCです。政策金利は据え置きでしょう。特に注目は日本時間8日午前3時半から始まるパウエル議長の記者会見です。パウエル議長は今まで利下げの再開は慎重に判断すべきと言っていました。関税の結果、景気の下振れが生じた場合、雇用の悪化につながり、早めの利下げ再開が求められます。一方、関税によってインフレの加速も懸念されます。その場合は利下げどころではありませんから利下げ再開には慎重な姿勢が維持されることになります。これまでパウエル議長は両睨みしつつ、利下げ再開時期を慎重に判断するとしており、このスタンスはおそらく5月のFOMCでも変わらないと思います。
足もとではリスク回避色が和らぎ、リスク選好になっています。仮にパウエル議長が利下げのメッセージを出さなくとも5月5日週の株価は日米ともにある程度の底堅さを維持するでしょう。
為替についてもドルが持ち直す途上にありますから、145円の足場固めが見込まれ、146円台がみられる可能性もあると予想しています。
6月利下げとなれば?
一方で6月利下げの可能性も否定できません。インフレの落ち着きに伴い、労働指標をみても需給の逼迫感が和らいでいるからです。仮に6月利下げが選択肢となる場合、サプライズを非常に嫌うFRBだけにFOMCで利下げのヒントを何か出してくるかもしれません。
その場合の各市場の反応も考えておきましょう。利下げというシグナルが出れば、株についてはリスクオンに傾いているだけに、シンプルに上がりそうです。また、長期金利も政策金利の低下を織り込み、小幅に低下すると考えられます。
その場合、ドルには下落圧力が加わりそうですが、ドルは4月に下がりすぎた反動で持ち直しつつありますから、底堅さも発揮するとみています。利下げのヒントが出たからといって142円台まではいかず、143円付近では下げ渋るとみています。
一方、利下げのヒントが出た場合、長期金利が上昇する可能性もあります。長期金利を構成する要素の一つが期待インフレ率です。関税が発動されたことからインフレが警戒される中市場が利下げを拙速とみればインフレ期待が上昇して長期金利が上がる可能性があります。
改めて、パウエル議長から何か利下げのヒントを出した場合の各市場の動きをまとめておきます。
気になるニュース
債務上限が財政規律を向上させるどころか、米国の信用格付けを損なっており、米国の準備資産という地位に影響しかねないとのことです。
確かに、2011年、債務上限問題で市場が大きく揺れたとき、S&Pは米国を格下げしました。また、債務上限が市場で取り沙汰される都度、基軸通貨としてのドルの信認に関する議論が生まれます。
債務上限があるが故に、かえってマーケットが混乱し、信認が揺らいできた面があるのです。
ただ、債務上限が撤廃された場合、米国の債務が際限なく拡大していく可能性が連想されます。それはいわゆる悪い金利上昇を引き起こすリスクもあり、その場合にドルは下がるといった4月に見られた動きが出てしまう危険性もゼロではありません。今後もフォローすべきニュースと考えられます。
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「内田稔教授のマーケットトーク」はYouTubeからもご覧いただけます。



最後に気になったニュースを1つご紹介します。米国の国債発行について助言をする借り入れ諮問委員会が債務上限の撤廃を提言したというものです。