連載 小倉邦彦の資産運用時事コラム第9回 フォローの風に乗るプライベートデットの最新動向を探る後編:ダイレクトレンディングに関する井戸端会議 ~ 最新動向を議論する
DLにおけるセカンダリー投資の現状
B氏:最近、PEだけでなくインカム系のPAであるインフラや不動産でも、セカンダリー特化のファンドが徐々に増えてきているようですが、DLにもセカンダリーファンドに投資するニーズはあるのでしょうか?
C氏:デノミネーター効果でDLをはじめとしたPAの比率が高まり、資産配分比率の調整を迫られる投資家(LP)が増えてきているのでニーズはあると思います。
D氏:PEの場合、セカンダリー投資のメリットは投資初期のJカーブ効果を薄める意味合いもありますが、デット物のDLにはJカーブはないので、Cさんのお話のようにLPが売却を迫られるようなケースに限定されるのではないでしょうか。
B氏:LP-LPのセカンダリーなのでディスカウントはあると思いますがどのくらいのレベルでしょう?
C氏:そもそもファンドの数が少ないのでよく分からないところがありますが、インフラと同じと仮定すると平均して5%程度ではないでしょうか。
B氏:なるほど、でもデット物をディスカウントで買えるのなら悪くないという見方もありますね。ただ、セカンダリーファンドは数が少なく私も米系のS社のファンドしか知りません。ファァンド間の比較ができないのが難点でしょうか。
DLにおけるESGの観点
B氏:DLにおけるESGについてお聞きしたいと思います。融資先についてはESGの観点からネガティブ・スクリーニングによってふるいにかけていると思いますが、株主ではなく債権者なのでエンゲージメントにはやるとしても限界があるのでしょうか?
D氏:欧州ではSFDR(サステナブルファイナンス開示規制)もあり、ESGを考慮することは最重要項目の1つです。中堅企業に対しても貸し手の立場でエンゲージメントを行っています。例えば借り手企業にCO₂削減等を含む3つ程度の目標を立てさせて、目標を達成したらスプレッドを5bp下げるというようなインセンティブも与えています。
C氏:「ESGマージンラチェット」と言われるものですね。欧州では存在しますが米国ではあまり聞いたことがないです。また、ESGの観点からは数はまだ少ないですが、DLでもトランジション・ファイナンスで脱炭素化に取り組む企業に対して資金を供給するものもあります。
B氏:DLではいわゆる「ライトグリーン」のSFDR8条ファンドに該当するものが多いのでしょうか?
D氏:そうですね。基本はSFDR8条ファンドになります。「ダークグリーン」のSFDR9条ファンドはインパクト投資になりますので、DLでは該当するファンドはないと思います。
B氏;ESGマージンラチェットの話は初めて聞きました。ESGの観点からは借り手が目標を達成するのは歓迎ですが、投資家としては目標達成後にイールドが5bp下がるのは本音ベースでは「ちょっと困る」という感じもします。達成が容易な目標は投資家としては設定してほしくないですね (笑) 。
今日はDLの最新動向についてCさん、Dさんには幅広い分野でご説明いただきありがとうございました。現場にいなければ分からないようなVividなお話も聞けて大変勉強になりました。
筆者あとがき
インカム系のプライベートアセットの中では変動金利でヘッジコストの上昇を吸収できるDLの人気が極めて高い。貸し手優位の状況でスプレッドも厚めになっており、シニアローン主体のファンドでも円ヘッジ後で5~6%程度のリターンが期待でき、足元では最も妙味のある資産クラスの一つになっている。オルタナ投資の中での分散という位置づけだけでなく、パフォーマンスの低迷する債券代替としての人気もあるようだ。
これまでは日本に紹介されているようなシニア主体の有力ファンドでは、目立った貸倒損失もなくおおむね期待通りのリターンを計上し、かつ、ファンド間のパフォーマンスにおけるdispersion(ばらつき度合い)も極めて小さいのがDLの特徴でもあったと言える。
「今はDLにとってGolden Age」という声も聞こえてくる中、足元で差し迫った懸念点があるということでもないが、視点を2~3年先に延ばして考えた場合には、現下の欧米における高金利継続は将来懸念すべき点の1つになる。高金利は当面続くと考えられ、米国でFRBによる利下げが来年後半に始まったとしても、向こう2年程度はドルの政策金利が4%を超える水準になると予想されている。DLの貸し出しスプレッドを650bpとすると借り手にとっては10%を超える金利負担が最低でも2年は続くということである。
実際に高金利が長引くとなると、パブリック市場のバンクローンやHY債だけでなくDLでも貸し倒れの増加は避けられないであろう。もちろん、DLは強固なコベナンツや担保権で債権が保護されているので(リカバリーレートが7割程度と仮定すると)貸し倒れが発生しても実際のCredi Lossはさほど大きくはなく、貸し出しスプレッドの一部を吐き出すことで十分に対応可能な範囲と思われるが、融資方針や戦略の違いでファンド間のパフォーマンスには目立った差異が出てくる可能性がある。
そのためにも、これからDL投資を開始する場合は、(今はファンド間の差異はあまりないものの)ファンドの選択が極めて重要になってくる。エッセンスは基礎編の(どのようなファンドを選択すべきか?)で記載した通りである。デット物にはUpside Potentialはないので兎にも角にも貸倒損失を回避する、そのためには長いトラックレコードを持ち、融資に対しては保守的で規律を持ったマネジャーを選択するということであろう。
繰り返しになって恐縮だが、筆者にとってDLを考える際の格言にもなっている「Alpha in private credit derives from loss avoidance, not upside potential」を締めの言葉にさせていただきたい。
また、今回の後編「座談会」の執筆にあたっては、最新の情報を入手するためDLに造詣の深い複数の資産運用会社の方々と面談させていただいた。この場を借りて改めて御礼申し上げたい。
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