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「金利上昇でもドル安」の不整合終焉か ドル円5%上昇の可能性も?

「内田稔教授のマーケットトーク」をWeb記事で
2025年5月1日
内田 稔 /  高千穂大学 教授/FDAlco 外国為替アナリスト

当シリーズでは、高千穂大学の商学部教授で三菱UFJ銀行の外国為替のチーフアナリストを務めた内田稔氏に、為替を中心に金融市場の見通しや注目のニュースをウィークリーで解説してもらう。 ※この記事は4月25に配信された「内田稔教授のマーケットトーク 【第28回】複数のドル反転の兆し」を再編集しています。

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米ドルに対する信認が多少なりとも回復し、金利が上がってもドルが売られるという、不整合な動きに改善が見られた場合、米ドルはどれほど上昇し得るかを考えてみます。縦軸にドル指数、横軸に米国と海外の金利差(※)をとった過去1年の散布図を作りました。

※主要6通貨の長期金利をドル指数と同じウェートで加重平均したものを米国の長期金利から差し引いたもの。

まず、2024年5月から25年3月までの金利差とドル指数の関係をみると、両者は「金利差が拡大するとドル高」という黒の「正の相関」です。ところが25年4月以降、金利差が拡大するとドル安が進むといった赤い「負の相関」になっています。

この「負の相関」が「正の相関」に変わるのであれば、現在の金利差1.5%に対応するドル指数はおよそ105付近となり、現状に比べ5%程度、ドルに反発余地がある可能性を示しています。

ドル円に置き換えた場合、シンプルに143円台から5%のドル高が進む場合、150円前後になります。実際には、ドルの信認が戻るまで時間を要するとみられ、145円付近では上値も重いでしょう。それでも、金利差との関係性が戻るのであれば4-5%のドル高は有り得るでしょう。

ここで日本円の動きを振り返ります。関税の発動などによって市場が荒れ始めた2025年2月以降について、ドル指数を構成する6通貨の対ドル相場を指数化しました。この間、最も上昇したのがスウェーデン・クローナで、2022年4月以来の水準までスウェーデン・クローナ高ドル安に押し戻しました。

スイス・フランも2011年9月以来、ユーロも2021年10月以来の水準までそれぞれスイスフラン高、ユーロ高、ドル安方向へ押し戻しています。一方の円は、24年9月以来の水準まで押し戻すにとどまり、24年8月に記録した1ドル139円58銭にも届きませんでした。

しかも投機筋の円のポジション(IMMポジション)をみると、空前の規模まで円ロングが積み上がっています。投資主体別で見ても、年金など少し長めの運用をするような市場参加者であるアセットマネージャーが過去最大の円ロングを構築しています。それでも、24年8月の1ドル139円58銭には届かなかったこととなり、これが日本円の現在の実力の限界だと考えられます。

かねてからお伝えしている通り、円の最大の弱点は、名目金利からインフレ率を差し引いた実質金利が大幅なマイナス圏にあることです。歴史的な円ロングをもってしても、140円割れが限界でした。この状況が変わらない限り、持続的な円高は難しいということが示唆されたと言えます。

4月28日週の注目ポイント

出所:内田氏

最後に4月28日週の注目材料です。米国では雇用動態調査(JOLT)、ADP雇用報告、雇用統計と労働市場関係の経済指標に注目です。というのも、24日にクリーブランド地区連銀のハマック総裁が「(経済指標の)データ次第では6月利下げの可能性も」とハト派寄りの発言をしています。また24日にはウォラー理事も「関税が7月より前に経済に大きな影響を与えるとは考えてはいない」としつつ、「労働市場が顕著に悪化した場合は措置(利下げ)を講じる」と発言をしています。

FRBパウエル議長は「物価の上振れと景気の下振れのどちらにも警戒が必要であるため利下げを慎重に待つ」というスタンスを維持しています。ただ、仮に労働市場の弱さを示唆する指標で続けば、5月6日から7日に開かれるFOMC後の記者会見で、パウエル議長がハト派へ少し軸足が移り、それを受けてドル安方向に動く可能性もあります。

日本では4月30日から5月1日に日銀の金融政策決定会合と物価展望レポートの公表があります。4月2日に相互関税が発表されるまで5月1日に日銀が利上げに踏み切ると予想していましたが、関税を受けて少なくとも90日間の交渉期間中、日銀は動けないでしょう。この為、記者会見でも植田総裁から関税に関する不確実性を理由に、利上げに対する慎重なトーンの発言が出ると考えられます。

その場合、円高材料が少し和らぐこととなりますから、若干円安方向に動くでしょう。ただ、「見通しに沿って経済物価が動く限りにおいては金融緩和の度合いを調整していく」という従来の利上げのスタンスそのものを撤回することもないと思います。

ここまでお話ししてきたように、4月21日週、ドル安材料のかなりの部分が多少緩和する方向に動きました。4月28日週は、労働関係の指標が極めて悪かった場合、再度ドル安方向の動きになる可能性もありますが、一旦145円程度までドル円が持ち直してもおかしくないと予想しています。

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「内田稔教授のマーケットトーク」はYouTubeからもご覧いただけます。

公式チャンネルと第28回公開分はこちらから

内田 稔

 高千穂大学 教授/FDAlco 外国為替アナリスト

1993年慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、東京銀行(現、三菱UFJ銀行)入行。マーケット業務を歴任し、2007年より外国為替のリサーチを担当。2011年4月からチーフアナリストとしてハウスビューの策定を統括。J-Money誌(旧ユーロマネー誌日本語版)の東京外国為替市場調査では、2013年より9年連続アナリスト個人ランキング部門第1位。2022年4月より高千穂大学に転じ、国際金融論や専門ゼミを担当。また、株式会社FDAlcoの為替アナリストとして為替市場の調査や分析といった実務を継続する傍らロイターコラム「外国為替フォーラム」、テレビ東京「ニュースモーニングサテライト」、News Picks等でも情報発信中。そのほか公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、証券アナリストジャーナル編集委員会委員も兼任。日本証券アナリスト協会検定会員、日本テクニカルアナリスト協会認定アナリスト、国際公認投資アナリスト、日本金融学会会員、日本ファイナンス学会会員、経済学修士(京都産業大学)