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連載 プライベートアセットが「ぐっと身近」になる基礎知識
第6回 プライベートアセット投資の心構え②~まとめとプライベートアセット投資の将来像

2023年2月27日
小倉 邦彦 /  三井物産連合企業年金基金 シニアアドバイザー

さて、前回までの4回にわたる資産クラス編でプライベート・アセット(以下PA)における主要アセットクラスである、不動産・インフラ・プライベートデット(PD)・プライベートエクイティ(PE)について、架空の運用執行理事3氏による鼎談の場を借りて詳細に説明してまいりました。

今回はこれまでのまとめとして、年金の資産運用におけるPA投資の意義や将来像についてお話ししたいと思います。今回も運用執行理事3氏に登場いただき、3氏の議論を通じてわかりやすく説明できればと考えております。 

A氏:ヘッジ外債のマイナスに頭を悩ませており、PA投資をこれから手掛けようとしている年金基金の運用執行理事

B氏:PA投資を以前から手掛けており、ノウハウの蓄積もある程度進んだ年金基金の運用執行理事でPA投資に対しては積極的

C氏:B氏と同じ経験値ながらPA投資に対してはここのところやや慎重姿勢

改めて考えるPA投資の意義

A氏 これまでのBさん、Cさんとの議論を通じてPA投資の概要やリスクの所在等が理解できるようになりました。伝統4資産に加えマルチアセットやヘッジファンドも非常に厳しい状況下、当基金でも安定したリターンを獲得していくためには、PA投資への取り組みが必要と改めて認識した次第です。

B氏 伝統4資産主体のポートフォリオでは今年度は運用成績が非常に厳しい状況にあり、他の多くの基金でもPA投資の割合を増やしたい、新たにPA投資を始めたいという声は多いようですね。ただ、プライベート市場はパブリック市場の影響を後追いで受けると言われている通り、PEや海外の不動産私募REITでは2022年から調整が始まっている感じです。株や債券を増やす状況ではありませんが、地政学的対立やエネルギー問題、先進国の金融引き締め等がPAにとっての投資機会と考えてよいのかどうか難しいところではあります。

C氏 確かに、資産運用の世界では極めて居心地の良い、低インフレ/低金利/グローバリゼーションによるグレート・モデレーション(大いなる安定)は、途中リーマンショック期に中断することもありましたが、これまで数十年近く続いてきました。しかし、新型コロナショックやロシアによるウクライナ侵攻を契機とした高インフレ、高金利、グローバル経済のデカップリングの進展等により転機を迎え、New World Order(新しい世界秩序)あるいはNew Normal(新しい常態)を模索する時代に入ったように思えます。

短期的には不確実性が高まっていると思いますが、年金は長期運用が基本ですし、なかでもPA投資は長期的な視点で投資して流動性プレミアムという一種のスプレッドを獲得するものなので、目先の不確実性に囚われず、粛々と投資を継続するということが大事だと思います。確かに、PEや海外不動産は価格面で調整局面に入ってきた感があるので、初めてPA投資をする方には難しい局面だとは思いますが、インフラやPDは当面安定したインカム収益が期待できるので、このあたりからスタートすればよいのではないでしょうか。PA投資を始めたのはよいけれど、2~3年赤字が続くと資産運用委員会での説明も苦しくなりますよね。

B氏 ご指摘の通りですが、PEはビンテージ(ファンド組成年)の分散が非常に重要ですので、既に投資をされている場合は、景気後退による調整局面でも、継続的に投資をしていくことが肝要でしょうね。一般的にはバリュエーションが下がっていれば、将来大きなアルファで高いパフォーマンスを示すケースが多いので、買いのチャンスという見方もできます。

A氏 年金運用でもう1つ困ったことは、株式と債券の相関が本来あるべき「負の相関関係」に戻らないのではという懸念です。株式と債券の負の相関は伝統4資産主体の資産運用における分散投資、リスク抑制の基本です。2022年のようにFRBの急速な利上げを起点とした債券安(金利上昇)、それに伴う景気後退を懸念した株安やクレジットスプレッドのワイドニングで、主要資産は全部安で逃げ場のない状況となり本当に困りました。

C氏 株価が大きく下落するようなリスクオフの事態では、FRBECBは緊急利下げでショックを和らげるので、本来であれば株安に対して債券は価格が上昇(金利低下)して負の相関関係が強まるはずですが、歴史的な高インフレの状態が解消されない限りは、FRBECBも利下げはできないでしょう。23年後半にインフレがある程度鎮静化してくれば、利下げの可能性もでてくるので、その場合は利下げを好感して株価が上昇する場面が出てくるかもしれません。この場合は株高、債券高で運用としては悪くない状況ですが、株式と債券は正の相関のままです。暫くは本来あるべき負の相関関係には戻らないかもしれないですね。

過去数十年、年金運用の基本コンセプトであった株式と債券の逆相関が、今後、弱まるか、あるいは今のまま正の相関が長期間継続してしまう可能性を考えると、伝統4資産やそれらを主要運用対象にしているバランス運用、あるいはマルチアセットの運用は難しくなる可能性を示唆しており、それゆえに伝統4資産とは相関が低く、安定したインカム収益が期待できるPA投資の位置付けはさらに重要になってくるのだと思います。

A氏 なるほどですね。ちょっと難易度が高い話でしたが資産運用委員会でPA投資を審議するときの説明に使わせてもらいます。

PA主要資産クラスのレビュー

①不動産

A氏 せっかくなので、前回まで資産クラス別に説明いただいたポイントを簡単にまとめてみたいと思います。不動産、インフラ、PDPEのそれぞれの特徴や年金基金の運用ポリシーとの整合性を含めまずは不動産からお願いします。

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小倉 邦彦

 三井物産連合企業年金基金 シニアアドバイザー

1980年三井物産株式会社入社。本社、広島支店、ドイツ(デュッセルドルフ)等にて経理、財務業務を担当後、1998年~2006年 本店プロジェクト金融部室長。2006年~2009年 米国三井物産ニューヨーク本店財務課 GM。2009年~2011年 本店財務部企画室 室長。2011年~2013年 三井物産フィナンシャルサービス株式会社 代表取締役社長。2013年~2017年 三井物産都市開発株式会社 CFO。
2017年5月 三井物産連合企業年金基金 常務理事兼運用執行理事。2022年7月より現職。

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