ダイレクトレンディング:リスク抑制型のユニークで魅力的なコア・シニア戦略(HPS)
拡大が続くプライベート・アセット投資。中でもダイレクトレンディング(DL)は、社債やハイイールド債、バンクローンといった他のデット性商品の補完または代替として、少し高めの期待利回りで安定性があるキャッシュフローを取れることから依然として人気が高い様子です。しかし、人気の高さにも呼応して、ここ最近は数年にわたり第1号プライベートクレジット・ファンドが欧米で乱立。数多のDLファンドにはそれぞれ特徴があり、その良さが解説されていますが、ファンドの選択において果たして何に注目すれば良いのでしょう? 特に、地域特化やスポンサーディールについてどう考えるべきでしょう?
Soleil Global Advisors がパートナー・ラインナップの中から個別の運用会社や戦略を取り上げてご紹介するシリーズ、今回はクレジット専門の知る人ぞ知る実力派運用会社、HPS Investment Partners(HPS)とそのDL戦略をご紹介します。このご紹介を通じて、上の問いかけを検討するご参考にしていただけたら幸いです。
HPSは、2007年に当時JPモルガン・アセット・マネジメント(JPMAM)の傘下にあったハイブリッジ・キャピタル(Highbridge Capital Management)内の一部門として設立されたクレジット専門部隊の Highbridge Principal Strategies を起源としています。JPMAMが2004年に株式を55%取得して話題になり、さらに2009年に残りを取得して完全子会社化した経緯からもHighbridgeの運用の確かさには定評がありました。HPSはその中の優れたチームとして力を発揮し、徐々にビジネスの中心を占めていくようになります。そして、2016年には5人の統括パートナーを中心にMBOし、JPMAM とHighbridge から完全に独立しました。
直近2022年1月時点で約800億ドル(1ドル120円で9.6兆円)の運用資産残高を誇るHPSの主力となっているのがDL戦略で、全体の3分の1以上を占めます。スペシャルティ・ローンとコア・シニアに分かれますが、本稿のご紹介ではその共通項となる特徴を見ていきます。
★ DL戦略といえば、定義的にノンバンクによる、いわゆるミドルマーケットへのローンです。すると、その中でもより安全度が高いと思われるアッパーミドルの企業群への貸し出しは競合が激しくなるイメージでしょう。もっと大きな企業は自分で起債できるため、やはりアッパーミドルでのソーシングというと利回りがつぶれたり、競合のためにコベナンツがライトになる可能性を危惧するかもしれません。しかし、実際にはEBITDAが5,000万ドル以上の企業に対してワンショット2億ドル以上というレンダーは非常に少ないというデータがあり、却って寡占的になっている事実があるようです。自分で起債できる力があっても秘密裏に、または、急を要してデットを取りたい企業が案外少なくなく、そんな資金調達にとってHPSの存在は非常に貴重。そこにスケールメリットを生かせるHPSのリターン・プレミアムがあります。
★ 競合を避けたやや小さめのミドルマーケットでもプライベートエクイティのスポンサーが付いていれば、いざという時に助けてくれるPEが居るスポンサーディール(SD)なら安心という見方もあります。貸付のDDもスポンサーの下で相対的に楽に対応できてソーシングし易いため、投資家にとってはコミットした資金の滞留リスクを抑えられるという期待も出来るかもしれません。しかし、スポンサーが付くことで仮にリスクが下がるなら、リターンも下がるのがロジカルなはず。
SDでは、2017年に生じたJ-Crewというアパレル小売企業のトラップドアとかバックドアとか云われる通信機器の隠しデータ吸い上げ設定のような悪い響きのするケースで、PEスポンサーが債権者に不利となったエピソードが一つの教訓になっています(内容を記述した英文記事の例はこちら)。結局、2020年に破綻しました。SDは安全という感覚は必ずしも適切でなく、非スポンサーディール(ND)にはパフォーマンスにプレミアムがあることを示すデータがあります。市場環境でも資金調達ニーズはPEスポンサーが付いていない借り手によるものの方が多く、SDの方が競合は多い。もし、SDのDL戦略がNDのそれと同様の期待リターンで設定されているなら、事後的な結果では前者が期待に達しないリスクが内包されていると言えるのではないでしょうか。HPSはSDだけでなく、NDにも対応できるリソースを誇り、両方でオポチュニスティックに良いディールをソーシングする力があります。
★ 投資対象地域の特化はどうでしょう。米国はダイレクトレンディングという資金調達がすでに一昔前から存在する手法として年月の経過で成熟しており、競合が激しいというイメージがありそうです。対して欧州はリーマン・ショック前まで銀行貸出が主流で、ノンバンクの活動は限定的だったのが、それ以降になって急速に拡大している状況です。欧州の経済規模から考えて、急速に拡大するファイナンス手法の市場が混雑化するのはまだ先という期待を持ちやすい。一部で欧州特化の戦略が人気と云われる所以です。しかし、今新たに発生したウクライナ危機の影響を考えると、エネルギーのロシアへの依存度の高さや経済制裁がもたらす反作用などから欧州景気の下振れリスクが大きくなることが懸念されます。また、歴史の浅い欧州のDL戦略は大きなクレジットサイクルを経験しておらず、下振れの際の対応力は未知数でしょう。
この点、HPSの運用はグローバルであり、洗練されて奥行きのある米国、新たな投資機会の広がる欧州、主要銀行が支配的だった状況から未開拓で妙味あるノンバンク活躍の場が出てきた豪州などからオポチュニスティックに魅力あるディールを選別して投資しています。また、追加的にとても重要な点としてHPSは自前でワークアウト・チームを擁しており、クレジットサイクル変調時にも自分たちでしっかりと対応できる経験とリソースを保有しているのが強みです。
以上のように、DL戦略では規模感、SD vs. ND、地域特化(欧州もの)、クレジットサイクルの経験などの要素が重要な判断材料になると言えます。HPSは、これらどれを取っても、レッド・オーシャンでなく、希少な資金の提供者としてリターン・プレミアムを狙える領域で投資行動を展開できるリソースをしっかりと備えている運用会社です。ここで簡単に紹介した内容以外にも投資成果を上げるプロセスの特性がいくつもあります。そして、冒頭で触れた2つのDLのうち、特にコア・シニア戦略はより安全性を重視した内容となっており、これまでの実績においてデフォルトのケースはありません。それでもLibor + 550-650bpsをターゲットにしています。
ご参考までに『オルインVol.56 (発売日2020年08月03日)』に掲載されたHPSの紹介記事もこちらに貼っておきます。(上記の英文記事と同様、色付きの「こちら」の文字へカーソルを重ねますとカーソルが指マークに変わり、そこでクリックしていただきますとリンクへ移動します。) ご興味、ご質問等ございましたら、是非お気軽にお問い合わせください。
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