国内外を覆う不確実性によって景気や市場を見通すことは困難を極めています。そこで国内屈指の著名エコノミストである、第一ライフ資産運用経済研究所の経済調査部で首席エコノミストの永濱利廣氏に、経済・市場の今後を読み解く手がかりになるテーマについて解説していただきました。※本稿は、4月2日掲載の第一ライフ資産運用経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト、永濱 利廣氏のレポート「3月短観から見た26年度業績見通し~目立つ「紙・パルプ」「宿泊・飲食サービス」「対事業所サービス」の増益計画~」を抜粋・再編集したものです。
要旨
- 3月短観における 26 年度の収益計画(大企業、以下同じ)によれば、売上高は増収計画だが、経常利益については減益に転じる。ただ、イラン戦争に伴う原油高等の影響を十分織り込んでいない可能性がある。
- 売上高計画が高い伸び率となったのが、地政学リスク等の高まりを受けて防衛関連やエネルギー関連の需要拡大等が寄与する「生産用機械」であり、建設機械等の産業用機械やオフィス機器等のリース需要拡大の恩恵を受ける「物品賃貸」「その他情報通信」、半導体材料やデータセンター向け商品等の需要回復や原油価格上昇等で「化学」「金属製品」の増収も期待される。
- 経常利益計画から今期増益が期待される業種を見ると、増収に加えて石炭価格の落ち着きで投入コスト減が期待された可能性のある「紙・パルプ」、米類の価格落ち着きやインバウンド需要拡大等が見込まれる「宿泊・飲食サービス」、人手不足対応に伴う労働需要の増加が期待される人材派遣を含む「対事業所サービス」、半導体材料やデータセンター向け商品等の需要回復等が期待される「窯業・土石製品」、高市政権の物価高対策が期待される「小売」となる。
- 大企業における事業計画の前提となる 26 年度想定為替レートはドル円で 149.1 円/㌦、ユーロ円で 170.5 円/€。特に、最も円安の恩恵を受ける輸送用機械関連が 147.4 円/㌦と円高気味の想定をしていることに注目すべき。今後は FRB 議長の交代などに伴う米利下げを通じて、為替レートの水準が円高方向に進むことを想定していることが推察される。しかし、そこまで大きく円高に振れなければ、こうした今年度の為替レートを円高気味に想定している業種に属する企業を中心に、今期業績が上方修正される可能性がある。
26 年度は増収減益計画に
4月1~2日に公表された3月短観の大企業調査は、2月 26 日~3月 31 日にかけて資本金 10億円以上の大企業約 1700 社に対して行った調査であり、先月公表された法人企業景気予測調査に続いて、今期業績予想の先行指標として注目される。
そこで本稿では、同調査を用いて、4月下旬から本格化する年度決算発表で今年度計画の回復が見込まれる業種を予想してみたい。
資料1は、3月短観の調査対象大企業(全産業、除く金融)が計画する半期別売上高・経常利益前年比の推移を見たものである。まず売上高を見ると、26 年度はプラス幅が縮小するものの、上期・下期とも増収計画となっている(資料1)。
一方、経常利益を見ると 25 年度は前回調査から大幅に上方修正となったものの、26 年度は上期・下期ともに減益計画になっている。このことから、各企業は決算発表で 26 年度の企業業績見通しを慎重に出してくることが予想される。そして、26 年度をトータルで見れば、売上高の伸び率は前年比で縮小させながら増収を維持する一方、経常利益については今年度減益計画に転じる姿となっている。
ただ、調査期間に基づけば、ここ元のイラン戦争に伴う原油高の影響を3月短観が十分織り込んでいない可能性があることには注意が必要だろう。

増収計画の「生産用機械」「物品賃貸」「その他情報通信」
続いて、3月短観の売上高計画を基に、大幅増収が見込まれる業種を選定してみたい。資料2は25・26 年度の業種別売上高計画の前年比をまとめたものである。
結果を見ると、26 年度も多くの業種で増収計画となる中で、最大の増収率となっているのが「生産用機械」で前年比+5.7%である。それに続くのが「物品賃貸」の同+3.9%、「その他情報通信」の同+3.1%となる。
まず「生産用機械」を詳細に見ると、資料3で経常利益が減益計画になっていること等からすれば楽観視はできないが、地政学リスクなどの高まりを受けて防衛関連やエネルギー関連の需要拡大なども寄与していることが推察される。
一方の「物品賃貸」については、経常利益も増益計画になっていること等からすれば、業績好調な建設機械等の産業用機械や、IT サービスに対する堅調な需要拡大等に伴うオフィス機器等のリース需要拡大の影響が大きいことが予想される。なお、「その他情報通信」については大幅減益計画となっている。しかし、放送、インターネット附随サービス、映像・音声・文字情報制作などが含まれることから、こちらも特にインターネット付随サービス等の需要が高まっていることが寄与していることが予想される。
続いて、「化学」や「金属製品」については、経常利益計画がそこまで強くないが、半導体材料やデータセンター向け商品等の需要回復や原油価格上昇などに伴う価格転嫁により増収計画になっていることが推察される。
以上より、26 年度の業績見通しにおいては、これらの業種に関連する企業について売上高計画が注目されよう。

大幅増益計画は「紙・パルプ」「宿泊・飲食サービス」「対事業所サービス」
続いて、3月短観の経常利益計画から大幅増益が期待される業種を見通してみよう(資料3)。結果を見ると、増益率が最も大きいのは、増収計画に加えて国際的な石炭価格が落ち着いてきたことなどで投入コスト低下が期待されてきた「紙・パルプ」の前年比+19.9%となる。ただ、こちらはイラン情勢の動向次第で下方修正含みであることに注意が必要だろう。
それに続くのが、「宿泊・飲食サービス」の同+9.8%となっている。こちらは、増収計画にもなっていることからすれば、米類の価格落ち着きに加えて、日中関係悪化にもかかわらず底堅いインバウンド需要拡大等が見込まれていることが推察される。
それに続くのが、人材派遣業を含む「対事業所サービス」の同+8.8%となる。こちらは、労働市場の流動性の高まり等から、人手不足対応に伴う労働需要の増加が期待されていることが推察される。
そしてそれに続く「窯業・土石」については、半導体材料やデータセンター向け商品等の需要回復等により、順調に増収増益計画になっていることが推察される。なお、同+4.2%の増益計画となっている「小売」については、増収計画になっている通り価格転嫁に加えて、高市政権の物価高対策効果等に伴う増益を見越している可能性があろう。
このように、今期の経常利益見通しで増益が期待される業種としては、価格転嫁に加えてコスト減が期待されてきた一部の素材産業に加えて、幅広い分野で需要拡大が期待されるサービス業の一部が指摘できる。

為替レートの変動で業績が修正される可能性も
なお、3月短観の収益計画では、企業の想定為替レートも公表されることから、業種別の想定為替レートも今後の業績見通しの修正の可能性を読み解く手がかりとして注目したい。
そこで、資料4にて大企業における事業計画の前提となる今年度の想定為替レートを確認すると、ドル円で 149.1 円/㌦、ユーロ円で 170.5 円/€となっていることがわかる。
ただ、足元のドル円レートよりも特に円高で今年度の為替レートを想定しているのが「輸送用機械」や「電気機械」「はん用機械」といった輸出関連の製造業となっている。
そうした中、特に円安の恩恵を最も受けやすい輸送用機械関連産業が 147.4 円/㌦と円高気味の想定をしていることに注目すべきだろう。というのも、今後は議長が交代する FRB の利下げ等に伴うドル安を通じて、為替レートの水準が円高方向に進むことを想定していることが推察される。しかし、そこまで大きく円高に振れなければ、こうした今年度の為替レートを円高気味に想定している業種に属する企業を中心に、今期業績が上方修正される可能性があることには注目すべきだろう。


永濱 利廣
第一ライフ資産運用経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト
早稲田大学理工学部工業経営学科卒、東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年より日本経済研究センター出向。2000年より第一生命経済研究所経済調査部、16年4月より現職。国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。景気循環学会常務理事、衆議院調査局内閣調査室客員調査員、跡見学園女子大学非常勤講師などを務める。景気循環学会中原奨励賞受賞。著書に『「エブリシング・バブル」リスクの深層 日本経済復活のシナリオ』(共著・講談社現代新書)、『経済危機はいつまで続くか――コロナ・ショックに揺れる世界と日本』(平凡社新書)、『日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか』(講談社現代新書)など多数。