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連載 小倉邦彦の資産運用時事コラム 第35回
企業年金関係者が語る2026年の運用課題(前編)

2026年3月30日
小倉 邦彦 /  『オルイン』シニアフェロー
元 三井物産連合企業年金基金 シニアアドバイザー

米国とイランの核開発を巡る協議が膠着するなか、2月28日に米国とイスラエルが突如としてイランを攻撃し、イランの最高指導者ハメネイ師を含む政権幹部が爆撃で殺害されたというショッキングなニュースが駆け巡った。当初は短期間で収束するとの見方もあったが、その後も双方の攻撃は続き、イランはエネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡を事実上封鎖した。紛争は本稿執筆時点でも収束の兆は見えず、原油等資源価格の急上昇やインフレ懸念の拡大が長期金利の上昇や株価の下落を招いている。リスクオフムードが日々強まりつつあるが、トランプ大統領も中間選挙を秋に控えており長期戦は避けたい意向が見え隠れする中、市場は長期化への懸念を残しつつも数か月での短期終息に軸足を置いているようで、市場もフリーフォールで下落するという状態にはなっていない。今は一日も早い事態鎮静化を願うのみである。

一方で、年初から確定給付企業年金(DB)関係者の関心を集めているのが、AIの普及がソフトウエアセクターの既存ビジネスを代替するのではないかという、AIディスラプションである。ソフトウエアセクターに対する融資の比率が13%程度と相対的に高いシンジケート・ローンにも大きな影響を与えており、2月末にはソフトウエアセクターのスプレッドは800bp台に急騰している。(シンジケート・ローンの平均では約500bp) また、ローン価格の下落によりディストレスト債務(ローン価格が80セント未満)の3割はソフトウエア―セクターが占めるまでになっている。

この動きはプライベートクレジット(PD)市場でも同様で、その中でも同セクターに対するエクスポージャーが高いBDC(Business Development Companies)に対する懸念が高まっている。BDCには上場型と非上場型があるが、非上場型もオープンエンド型であるため、投資家の解約制限を設けている。(ゲート条項は四半期ごとの解約をNAVの5%までとするケースが多い)2月には上場BDCとの合併が取りやめになったブルーアウルの非上場型BDC(OBDC II)が解約請求を停止した。最大のBDCであるブラックストーンのBCREDでも5%を超える解約請求があったが、こちらはBDCのシニアスタッフによる資金拠出や自己資金で何とか解約請求に応じている。一方で、ブラックロックは傘下の非上場BDCであるHLENDに関し、9.3%の解約請求に対し5%でゲーティングしたことと3月6日に公表した。解約制限自体は「資産の投げ売りによるファンド価値の棄損から投資家を保護する」ものであり一方的に非難されるものではないが、ファンドの流動性の観点からヘッドラインニュースになりやすい。

また、AIディスラプションについては足元の市場が過剰に反応していると思われるところもある。コンテンツの作成やデータ分析等のサービス提供者はAIによる置き換えのリスクが高いかもしれないが、ソフトウエアセクターも企業によってAIに対するレジリエンスはさまざまである。今はソフトウエアセクターを全て同一視している感があるが、時間がたてばその辺りの見極めが進んでいくのではないだろうか。一方で、DBが多く投資をするコアミドルのダイレクトレンディング(DL)については、今のところ目立った影響はでていないようである。

少し前置きが長くなったが、今回の時事コラム「DB関係者による2026年運用課題」は、10名を超えるDBの常務理事や運用執行理事、また多くの運用コンサルタントの方に2月中旬〜3月初旬にかけて個別に面談させていただいた内容を、架空のDB運用責任者5名と運用コンサルタント2名による仮想座談会形式にしてお届けするものである。多くの面談は時期的に中東情勢緊迫化の前に実施された関係上、それによる市場の下落は想定されていない。従って、座談会での前提となる株価や為替、金利水準は2月中旬〜下旬の市場がベースになっている点ご理解いただきたい。一方で、長期投資家であるDBの運用は、市場環境により短期的に大きく変化するものではないと思うので、中東情勢緊迫化が数か月程度で収束するとの前提ではあるが、2026年度の運用を考える際の一助となれば幸いである。

また、座談会では資産運用以外にDBの大きな関心事となっているアセットオーナー・プリンシプル(AOP)への対応状況や、厚労省が進めている「他社と比較できる見える化」、また最近よく話題になる給付改善についても、前編においてテーマとして取り上げ、DB関係者のこれら課題に対する意見や考え方を取りまとめてみた。

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小倉 邦彦

 『オルイン』シニアフェロー
元 三井物産連合企業年金基金 シニアアドバイザー

1980年三井物産株式会社入社。本社、広島支店、ドイツ(デュッセルドルフ)等にて経理、財務業務を担当後、1998年~2006年 本店プロジェクト金融部室長。
2006年~2009年 米国三井物産ニューヨーク本店財務課 GM。
2009年~2011年 本店財務部企画室 室長。
2011年~2013年 三井物産フィナンシャルサービス株式会社 代表取締役社長。
2013年~2017年 三井物産都市開発株式会社CFO。
2017年5月~2022年6月 三井物産連合企業年金基金 常務理事兼運用執行理事。
2022年7月~2023年3月 同基金シニアアドバイザー。