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企業年金担当者が知っておきたい 海外DC最新事情 
第6回 イスラエル

2026年3月10日
樋渡靖一郎 /  野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング株式会社 投資戦略部 シニア・ポートフォリオ・マネージャー
DBの普及が頭打ちになるなか、同じ企業年金としてDBとDCが連携強化を図る動きがある。また、日本のDCが海外の制度を参考に創設されたことを踏まえると、海外のDC事情についてアンテナを張っておくことは、企業年金の今後を考える上でも非常に有意義だろう。そこで、DC制度の調査を進める野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティングの樋渡靖一郎氏から、海外DCの事例を紹介していただく。

はじめに

今回は、かつて年金制度が破綻の危機に瀕しながらも、確定拠出型への移行を成功させたイスラエルの年金制度を取り上げます。まず、その特徴を整理します。

特徴

① 強制加入

2008年から、すべての雇用主に対して従業員のための年金積立が法的に義務付けられました。フルタイムの会社員はもちろん、パートタイム労働者、さらに2017年からは自営業者も加入義務の対象となりました。

② 拠出率

雇用主拠出が約6.5%、従業員拠出が約6%、これに退職給付金分が約6%(後述)を加えると、合計で給与の約18.5%という高い積立が行われます。これは、現役時代の生活水準を老後も一定程度維持するための原資を制度として確保しようとする意図が表れています。

③ デフォルトファンド

加入者の年齢に応じて資産配分を変更するライフサイクル型(ターゲット・デート型)の運用戦略がデフォルトで採用されています。若年層は株式などリスク資産を多めに保有して高い成長を狙い、退職年齢が近づくに従って債券などの安定資産比率を高めていく仕組みです 。債券部分には、政府が年金基金専用に発行する物価連動型の「指定債券」が用いられており、市場金利に関わらず一定の高利回り(実質4〜5%程度)が政府によって保証されており、事実上リスクフリーの安全資産と位置付けられています。従来は年金資産の約30%までをこの指定債券で運用する規定でしたが、近年ではこの仕組みを廃止し、2022年からは年金積立の30%に対して実質5.15%の最低利回りを保障する新たな安全網方式に移行しています。

④ 退職金との統合

イスラエルには「ピツイム」と呼ばれる法定の退職給付金制度があります。これは勤続年数に応じて雇用主が支払う一時金で、日本の退職金に近い性質のものですが、「退職時にまとめて払う」だけでなく、毎月年金口座に積み立てる形で制度に接続されている点が特徴です。雇用主は毎月、給与の一定割合(目安として約6%)をピツイム相当分として拠出し、年金の積立と一体で管理・運用されます。これにより退職給付が在職中から可視化され、企業の未積立リスクを抑えつつ、従業員の資産形成につながりやすい構造になっています。

⑤投資対象ファンド

ユダヤ教の戒律(ハラハー)に適合した「ハラハー・ファンド(Kosher Funds)」のほか、ESGに配慮したファンドも充実しています。とりわけ特徴的なのは、インフラ、不動産、PE/VC、プライベートクレジット等のオルタナティブ資産への投資が活発な点です。制度や運用会社によって差はあるものの、デフォルトファンドのポートフォリオにも一定割合で組み入れられるケースが一般的です。

その、背景には「スタートアップ大国」と言われるイスラエルの特性があります。上場前のハイテク・スタートアップやユニコーン企業が国内に多数存在しており、年金基金がこうした企業に(主にファンド等を通じて)資金を供給し、その成長益をリターンとして取り込むエコシステムが形成されています。

イスラエルの年金改革の歴史

イスラエルの職域年金は、従来は労働総同盟(ヒスタドルート)系の年金基金を中心とする確定給付型(DB)的な仕組みが主流でした。しかし、1990年代に入ると長寿化や過大な給付水準などを背景に財政難に陥りました。こうした状況を受け、政府は1995年前後から旧来の基金への新規加入を停止し、新たな加入者は別の枠組みに移す転換を進めました。2003年には旧基金の大規模な再建が行われ、政府関与の強化のもとで給付・条件・ガバナンスの見直しが進められました。

そして2008年に成立した「全労働者年金積立法」により、年金拠出が広く義務化され、確定拠出型(DC)的な枠組みが社会全体に普及していきました。その後も政府は改革を続け、政府は職域年金を国民の老後の資産形成を担うインフラとして機能させるために改革を続け、拠出率の引上げや加入対象拡大を行いました。2017年に年金積立の義務の対処を自営業者にも広げるなど、拠出対象を拡大したことにより、これまで国家負担で賄われていた将来の未給付リスクは大幅に低減されました。

運用面ではデフォルトファンドの整備と、手数料上限を設けた競争入札の導入によりコスト低減を進め、加入者の手取り資産が増える環境を整えました。

日本の確定拠出年金への示唆

・ 制度による加入者の拡大

日本のiDeCoは任意加入で、企業型DCも企業の導入判断に左右されます。これに対しイスラエルは自営業者も義務化することで加入者を拡大しました。日本で義務化が現実的でない場合でも、自動加入や中小企業向けの導入支援など、制度側で加入率を押し上げる方策は検討に値します。

・ 拠出の「厚み」

イスラエルでは雇用主・従業員拠出に加え、退職金(ピツイム)を積立に接続することで実効拠出を厚くしています。日本においては公的年金の給付水準低下が見込まれる中、拠出限度額のさらなる引き上げや退職金制度との統合を含めた「より太い資産形成のパイプ」を構築する議論が必要でしょう。

・継続的な制度改革

イスラエルはDC制度導入後も手数料の引き下げやデフォルトファンドの改良など、加入者の利益を最大化するための微調整(ファインチューニング)を続けています。「枠組み」を作っただけで終わらせず、実態に即して「中身」を磨き続ける姿勢は評価に値します。日本の場合も制度の枠組みだけでなく、運用の実効性を高めるための改善を継続的に行うことが重要です。

樋渡靖一郎

 野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング株式会社 投資戦略部 シニア・ポートフォリオ・マネージャー

マルチアセット分析部(現ファンド分析部)にて、機関投資家(年金含む)向けのファンドの評価業務を行う。現在は投資戦略部でファンドオブファンズの投資助言及びそれに関する調査・分析業務に従事。