要約
米国の確定拠出型企業年金(DC)プランでは、2006年の年金保護法で規定されて以降、従業員の加入率を向上させるスキームとして「自動加入化」を導入する動きが広がっている。「自動加入化」は従業員本人が脱退の意思を表明しない限り自動的に加入する仕組みだ。これにデフォルトファンドの設定や拠出率の自動引き上げの機能も加えることで、従業員の加入率の向上と資産形成を促進する効果が見られている。
一方、課題もある。拠出率の自動引き上げを実施していないプランは少なくなく、初期の拠出率が低いと長期の資産形成が停滞する恐れがある。加えて中小規模プランでは「自動加入化」の導入があまり進んでおらず、従業員の加入率の低さが懸念される。
米国政府は、2022年成立の通称SECURE2.0法で一定の401(k)プランに拠出率自動引き上げの機能も含めた「自動加入化」の導入を義務化した。また、中小企業向けには、すでに2019年成立のSECURE法で企業年金制度の導入推進策を実施しており、「自動加入化」の義務化と合わせて普及拡大を促している。
近年、米国政府が対策を強化するのは、公的年金の機能が縮小する中、老後の所得確保として重要な企業年金に未加入の労働者が少なくなく、加入率の向上と資産形成の促進が喫緊の課題であるためだ。公的年金の補完としてDCの一層の普及が望まれる日本においても、近年の米国における政策対応を参考に、さらに踏み込んだ策として「自動加入化」の導入を検討すべき時期に来ているのではないか。
※当記事は2025年10月7日に公開されたものです。
1.米国DCプランにおける「自動加入化」
米国では、確定拠出型の企業年金(DC)プランに「自動加入化(auto-enrollment)」の仕組みを導入することができる。「自動加入化」とは、いったん従業員全員をDCプランに加入させ、非加入の意思を示した従業員は脱退できる仕組みである。デフォルトを「加入」としているのは、人には変化を好まず現状維持のまま行動を起こさないという行動特性(現状維持バイアス)があり、多くの場合、現状維持の状態(=加入)を選択すると想定されるからだ。「自動加入化」は、こうした人間特性を活用した加入率の向上が図れるスキームとして設計されている。
「自動加入化」が注目されるようになったのは、1990年代後半以降である。米国の企業年金は、1970年代から80年代にかけて確定給付型(DB)プランが主流だったが、80年代後半以降、DCプランの新設が急増した(図表1左)。90年代に入ると、DCプランの加入者数がDBプランを超え、その後、DCプランの加入者数は増加し続けている(図表1右)。
しかし、DBからDCへのシフトが進む中、DCは従業員の加入が任意で、資産運用は従業員自身が運用を指図して行うという仕組みであるため、制度の内容をよく理解していなかったり、運用経験がなかったりする従業員が非加入となるケースが見られ、特に若い世代で顕著であったことが問題視されていた。もっとも、DCは従業員の自己責任を原則としているからこそ、企業には従業員が加入や資産運用について適切に判断できるよう投資教育を実施するなど、環境の整備が求められている。だが、投資教育だけで従業員に適切な行動を促すことには限界があるとの認識も広がっていた。そこで、注目されてきたのが「自動加入化」であった。
「自動加入化」の導入が進む兆しが見られる中、政府は米内国歳入庁(IRS)によるルール整備等(※1)を進め、企業に対し導入推進を図ってきた。だが、当時はIRSのルールベースで「自動加入化」の導入が行われていたため法整備が十分ではなく、受託者責任上の不安(※2)もあったことから導入に慎重なプランが多かった。
また、自動加入により加入した者の中には、自ら積極的に運用指図を行わない従業員が少なくないと考えられる。実際に、自動加入による加入者が、運用商品を適切に選択できず、拠出した資産がMMF(マネー・マーケット・ファンド)などの低リターンの商品で運用されていることが多く見られていた。また、加入後も掛金の拠出率を変更せずそのままとする加入者も存在していたため、退職後の資産が十分に蓄積されないことも懸念されていた。
そこで、政府はこれら課題への対応として、2006年成立の年金保護法(Pension Protection Act of 2006)で「自動加入化」の内容を規定し、法整備を進めた。「自動加入化」では対象となる従業員全員をいったん制度に加入させるが、従業員自身が非加入の意思を示せば脱退可能であり、あくまで従業員の意思が優先される。
加入者が運用指図をしなかった場合に運用されるデフォルトファンドについては、米労働省(DOL)が定める「適格デフォルト商品(QDIA:Qualified Default Investment Alternative)」の中から企業が選択すれば、加入者の運用結果について企業は責任を負わないとするセーフハーバールールが整備された。QDIAにはターゲット・デート・ファンド(TDF:Target Date Fund)(※3)などのライフサイクル型のファンドが含まれ、自ら運用指図を行わない加入者も一定のリスクを取った運用を実践できるように配慮されている。
加えて、掛金の拠出率を段階的に自動で引き上げる仕組み(auto-escalation)も導入できるようにした。具体的には、初期の拠出率を「最低3%以上」と定め、そこから毎年1%ずつ段階的に引き上げ(1年目:3%、2年目:4%、3年目:5%、4年目以降は6%以上)、最終的には10%程度とするデフォルトレートが推奨された。
さらに、近年、政府は2019年12月成立のSECURE法(Setting Every Community Up for Retirement Enhancement Act)や2022年12月成立の通称SECURE2.0法で「自動加入化」のルール改正を定め、導入の推進を強化している(詳細は後述する)。
2.「自動加入化」の導入状況と効果
このように、「自動加入化」については、「自動加入」のみならず「デフォルトファンド設定」と「拠出率の自動引き上げ」の仕組みも導入できることが年金保護法で規定された。それ以降、「自動加入化」を導入する動きは広がっており、実際に従業員のDCプランへの加入率は向上している。
例えば、Vanguardがサービスを提供するDCプランでは、「自動加入化」を導入する割合が2006年末の10%から2024年末には61%へと上昇している(図表2)。2024年末時点で導入しているプランの従業員の加入率は94%と、導入していないプラン(任意加入)の64%に比べて大幅に高い(図表3)。これを加入者の年齢別、収入別に見ると、特に25歳未満や年収15,000ドル未満の従業員の加入率に大きな差異が見られ、自動加入プランが若年層や低所得者層の加入率の向上に大きく寄与していることがわかる。また、T.Rowe Priceがサービスを提供するDCプランでも、2024年で68%が「自動加入化」を導入しており、導入しているプランの加入率は85%と、導入していないプランの41%を大幅に上回っている(※4)。
次に、「自動加入化」の内容について確認する。Vanguardによると、2024年末時点で「自動加入化」を導入するプランの69%が「自動加入」「デフォルトファンド設定(TDF)」「拠出率の自動引き上げ」の3つを導入している(図表4)。佐川(2025)で確認したように、近年、DCプランの中で最も普及している401(k)プランにおいて、加入者全体の資産額に占めるTDFの比率が高まっており、特に若年層で顕著である。これはデフォルトファンドにTDFを設定した「自動加入化」の普及による影響が大きく、若年層で顕著なのは「自動加入化」で加入する者の中に若手の新入社員が多いためだろう。一般的に、TDFは若年期の株式比率が高く設定されている。近年は、株高によりTDFが保有する株式の資産価格が上昇しているとみられ、若年層の401(k)プランの資産額が増加している可能性は高い(※5)。
また、「拠出率の自動引き上げ」の導入により、従業員の資産残高が増加しているデータもある。T.Rowe Price(2021)(※6)によると、「自動加入」と「拠出率の自動引き上げ」を導入するプランは、「自動加入」のみを採用するプランと比較して、加入者の平均口座残高が8%多かったとしている。Bank of America(2025)(※7)によれば、「拠出率の自動引き上げ」を導入する401(k)プランの平均口座残高(158,000ドル、2025年6月)は、プラン全体の残高(107,430ドル、同時点)より約50,000ドル多くなっている。「拠出率の自動引き上げ」は、拠出率が早期に、そして時間の経過とともに引き上げられ、より高い複利効果を享受できることから、長期的な資産形成に有利なスキームと言えよう。
3.「自動加入化」における課題と近年の政策的対応
「自動加入化」の導入は、従業員のプラン加入率の向上だけでなく、デフォルトファンドにおけるTDFの設定や拠出率の自動引き上げの機能も組み合わせることで、従業員の資産形成を促進する効果も大きいようだ。しかし、課題もあり、近年は政策的な対応が取られている。
前掲図表4(赤枠)に示すように、「拠出率の自動引き上げ」を導入していないプランは全体で3割、加入者500人未満では4割と少なくない。その場合、加入者が自ら拠出率を引き上げなければ、初期の拠出率がそのまま維持される。だが、多くの加入者はそうした行動を取りがちで、拠出率の水準が低いと長期の資産形成を停滞させてしまう可能性がある。また、初期の拠出率は、年金保護法の「最低3%以上」の規定に倣い3%に設定するケースが多いが(図表5)、初期の拠出率は3%では低いと指摘されている(※8)。
一方、確かに「自動加入化」の導入は広がってきたが、大規模のDCプランと比べて中小規模のプランでは、導入状況はあまり芳しくない。米国議会調査局(CRS)の調査によると、2021年にDOLに年次報告書を提出したDCプランのうち、「自動加入化」を導入する割合は16.5%(加入者ベースで37.1%)と、VanguardやT.Rowe Priceと比較して低くなっている(図表6左)。加入者数規模別では、500人以上のプランは39.7%だが、500人未満では15.7%と低い。
この年次報告書は、ほぼ全ての年金プランが提出するものである。つまり、米国で設立されたDCプラン全体を対象としているという点で、CRSの調査結果はより実態に近いと考えられる。図表6の右図に、各年に設立されたDCプランで「自動加入化」を導入する割合の推移を示しているが、加入者数500人以上のプランでは毎年概ね3~4割程度が導入している。対して500人未満では、2014年以降徐々に導入が進み、足元はようやく500人以上と同程度となっているが、それ以前は低水準のままであり、全体で見ればあまり導入が進んでいないということになろう。

(注)左図は、2021年末時点でDOLに年次報告書を提出しているDCプラン(プラン数:71.9万プラン、加入者数:1.15億人)に占める割合。 (出所)CRS“Defined Contribution Retirement Plans: Automatic Enrollment”09/05/2024. より大和総研作成
これらの点を踏まえ、近年、米国政府は「自動加入化」の導入推進を強化している。まず、2022年成立の通称SECURE2.0法では、2022年12月29日以降に設立された401(k)プラン(一定の要件を満たす)において、「自動加入化」の導入が義務化された(2025年1月1日施行)(※ 9)。これは、初期の拠出率を最低3%から毎年1%ずつ自動的に引き上げ、最終的には10%以上(15%以下)に引き上げる「拠出率の自動引き上げ」を伴う内容となっている(※10)。これにより、今後は、従業員の加入率の向上と、拠出率の着実な引き上げによる従業員の資産額の増加が期待される。
もっとも、拠出率の上限は、2019年に成立したSECURE法で10%から15%へ引き上げられた。初期の拠出率についても、近年は6%以上の高めの水準に設定するプランが増えており、Vanguardでは3%に設定するプランの割合が低下する一方、6%以上の割合は高まっている(前掲図表5)。むしろ、T.Rowe Priceでは、2024年時点で6%以上を設定するプランの割合(39%)が3%と設定する割合(27%)を上回っている(※11)。「自動加入化」の義務化による効果とともに、高めに設定された拠出率が資産額の増加幅をどの程度押し上げるかが注目されよう。
また、中小企業向けには、すでに導入推進策が実施されている。SECURE法では、一定の要件を満たす従業員数100人以下の企業が、既存のDCプランに新たに「自動加入化」を導入した場合、あるいは「自動加入化」を伴うDCプランを新設した場合に、年間500ドル(最大3年間)の追加の税額控除が認められた。加えて、中小企業ではコスト面の課題から企業年金制度そのものの導入が難しいケースがあり、同法では、中小企業に企業年金の普及拡大を促す観点からの改正(※12)(複数雇用主プランの要件緩和や制度導入時の費用に関する税額控除の拡大)も定めている。これらの負担軽減策と「自動加入化」の義務化により、中小企業における企業年金制度の普及拡大が期待される。
4.高齢化が進む米国、企業年金の加入率向上が急がれる
近年、米国政府が「自動加入化」の導入を推進する背景には、高齢化の進展がある。米国では、公的年金である社会保障年金(Social Security)は、「高齢者の生活保障」と「再分配」に重点が置かれているため、所得水準が低いほど所得代替率が高い給付構造である。また、公的年金は米国労働人口の95%(※13)をカバーしているが、現役世代が納付する社会保障税を財源に高齢者へ年金給付を行う仕組み(賦課方式)のため、近年高齢化が進む同国では、財政の見通しが厳しくなっている(※14)。米国国民がより豊かに退職後の生活を送るには、DCプラン等の自助努力型の退職貯蓄制度を活用した資産形成の重要性は高い。
しかし、CRSの調査によると、米国の民間労働者における企業年金の加入率は53%と、半数近くは未加入であり、特に、パートタイム労働者や中小企業の従業員、低賃金の労働者については、加入率はさらに低くなる(※15)。実際、企業年金等の有無は、労働者の貯蓄残高の多寡に影響しており(※16)、企業年金への加入促進が喫緊の課題とされている。米国の「自動加入化」の仕組みは、加入率向上と資産形成促進の有効な手段である。翻って、企業年金に未加入の労働者が多く、DCの一層の普及が望まれる日本においても、さらに踏み込んだ施策として導入を検討すべき時期に来ているのではないか。特に、近年の政策対応については、参考とすべき点は少なくないだろう。
※1 IRSは、1998年に新規雇用の従業員に対するDCプランへの自動加入に係るルール(Revenue Ruling 98-30)を、2000年には、既存の従業員を対象とした自動加入に係るルールを提示した(Revenue Ruling 2000-8)。
※2 ERISA 法404 条(c)項では、プランスポンサーである企業が一定の環境整備を行い、加入者自身が自己の口座資産の運用をコントロールできる状態にある場合には、企業は加入者の運用結果について責任を負わないとされている。これが「自動加入化」を導入したことで、適用がされない懸念があった。
※3 詳細は佐川(2025)を参照。佐川あぐり(2025)「米国401(k)プランにおけるターゲット・デート・ファンド導入の効果」(大和総研レポート、2025年8月13日)
※4 T.Rowe Price“Reference Point”2025
※5 実際に、2019年から2023年にかけて18~39歳の若年層の金融資産が増加したことを示す調査結果がある。Rajashri Chakrabarti, Natalia Emanuel, and Ben Lahey “Wealth Inequality by Age in the Post‑Pandemic Era“Liberty Street Economics, Federal Reserve Bank of New York, February 7, 2024.
※6 T.Rowe Price(2021) “2022 U.S. RETIREMENT MARKET OUTLOOK”
※7 Bank of America(2025) “Participant Pulse”2Q 2025(最終閲覧日:2025年10月7日)
※8 Carla Fried “The problem with too-low 401(k) contribution rates” CNBC, Aug 2 2017.やMadrian and Shea(2000)では、加入者の多くが初期の低い拠出率(3%)をそのまま維持しており、「自動加入化」における初期の拠出率の水準がきわめて重要だと指摘している。
※9 IRS “Treasury, IRS issue proposed regulations on new automatic enrollment requirement for 401(k) and 403(b) plans” Jan. 10, 2025.
※10 Federal Register(2025)
※11 脚注4に同じ。
※12 SECURE法の詳細については、鳥毛拓馬「米国で進む退職貯蓄制度の改革」(大和総研レポート、2019年9月24日)参照。
※13 Steve Goss “Social Security Financing and Benefits: Myths vs. Facts” Presentations of the Office of the Chief Actuary, Social Security Administration, February 21, 2024.
※14 資金を管理する信託基金の資産は2034年に枯渇し、現行の給付水準が維持できなくなると試算されている。Social Security “The 2025 Annual Report of the Board of Trustees of the Federal Old-Age and Survivors Insurance and Federal Disability Insurance Trust Funds”
※15 CRS “Worker Participation in Employer-Sponsored Pensions: Data in Brief and Recent Trends” Updated September 18, 2024.
※16 Employee Benefit Research Institute / Greenwald Research “Preparing for Retirement in America” 2024 Survey Results, Fact Sheets.
参考文献
● Federal Register(2025) “Automatic Enrollment Requirements Under Section 414A” 01/14/2025.
● Madrian and Shea(2000)Brigitte C. Madrian and Dennis F. Shea “THE POWER OF SUGGESTION: INERTIA IN 401(K) PARTICIPATION AND SAVINGS BEHAVIOR” NBER Working Paper 7682, May 2000.
● 浦田春河(1998)『401(k)プラン-アメリカの確定拠出年金のすべて』、東洋経済新報社
● 企業年金連合会「企業年金に関する基礎資料」(令和6年度版)
● 森祐司(2006)「アメリカ401(k)プランの『加入自動化』」(大和ファンド・コンサルティングレポート、2006年4月14日)
当記事は大和総研のホームページに掲載されている、同社の政策調査部・佐川あぐり研究員のレポートを抜粋したものです。同氏の公開するレポートは下記リンクから閲覧できます。(大和総研のホームページへ遷移します。)
https://www.dir.co.jp/professionals/researcher/sagawaa.html




