金利のある世界の到来やプライベートアセットの普及、DBとDCの連携強化など、企業年金を取り巻く環境は転換点を迎えている。変化に対応するには鋭くも柔軟な発想で企業年金を洞察し、これからを見通す必要があるだろう。そこで、長きにわたって企業年金に携わり、2025年8月よりかもめリサーチ&コンサルティング株式会社を立ち上げた木須 貴司氏から、企業年金の今後を考える上でのヒントとなる視点やアイデアなどについて寄稿いただく。
「再」認知されるOCIO
OCIO(Outsourced Chief Investment Officer)への注目が高まっている。きっかけは、2024年に政府が公表したアセットオーナー・プリンシプルだ。外部知見の活用例の一つとして資産運用コンサルティングと並列して、記載された。
この用語自体は日本の年金業界にとって実は新しくはない。私が資産運用コンサルタントを始めた2011年前後にもOCIOあるいはフィデューシャリー・マネジメントという用語で耳目を集めていた。しかし、当時は極めて限定的な事例にとどまり、数年後には話題にもならなくなってしまった。
今回はどうなるかは分からない。しかし、改めて資産運用業界(含む資産運用コンサルティング業界)の事情を知り、アセットオーナーが外部委託の在り方を検討するための材料として、OCIOをめぐる動きを俯瞰することに価値があると考える。そこで本稿では、①OCIOとは、②OCIOをめぐる業界の事情、③受託者責任とOCIOの評価などについて整理したい。
図表1:資産運用コンサルティングとOCIOの比較

出所:各種資料よりかもめリサーチ&コンサルティング作成
OCIOとは?誰にとってのソリューションなのか
OCIOは、「資産の全部あるいは一部の運用を運用会社・資産運用コンサルタントに委託すること」と定義される。場合によっては資産ではなく、運用機能と定義しているケースもある。CIO(運用執行理事)をアウトソースするというのだから、その程度によってさまざまな形態が考えられる。伝統的な資産運用コンサルティングサービスは、あくまで助言にとどまり、運用会社の選定や契約、定期的な管理等の日々の業務の大半は、アセットオーナーが組織内部で対応する必要がある。一方でOCIOは、助言よりもさらに踏み込んだ運用サポートを提供するサービスである。サービス提供会社によっても異なるが、委託運用マネージャーの調査だけではなく、契約手続き等も行っている場合がある。図表1に伝統的コンサルティングとOCIOの委託の範囲に関して概略を示した。
なぜ、OCIOは、世界では広がっているのだろうか?理由は以下の通りである。
1.アセットオーナー側の事情年金制度はDBからDCへと向かっており、閉鎖型となるDBも増加している。閉鎖型DBの運営人材を組織内部で確保するのは、容易ではない(先がないのだから)。閉鎖型DBを始めとして内部に十分な運用体制を構築できないアセットオーナーの運用アウトソース先としてOCIOのニーズが高まっている。
2.市場・投資対象の複雑性オルタナティブ投資を始めとして投資対象の複雑性・個別性が増している。また、関税や地政学的イベントなどの予見が困難な事象をきっかけとした市場環境の変化に対応するため、より緻密なリスク管理も求められている。一方で、そのような専門性を有する人材の数は必ずしも多くない。例えば、筆者が所属するオルタナティブ投資の専門資格であるCAIAの日本支部会員は、100名程度にとどまっており、専門人材の希少性を示している。オルタナティブやリスク管理の専門性を外部委託するという目的でOCIOの活用が進んでいる。
3.資産運用・資産運用コンサルティング業界の事情前述のDBからDCの流れだけではなく、国によっては政策的に機関投資家のコンソリデーション(統合)が誘導されており、資産運用会社や資産運用コンサルティング会社の顧客対象となるアセットオーナーの数は減少傾向にある。筆者は海外資産運用コンサルティング会社のビジネス動向についても調査していたが、資産運用コンサルティング会社は、リテーナー(定額)報酬となっていることが多く、アセットオーナーの「数」の減少に多くの会社が苦労していた。一方で、全体の運用資産残高は、増加傾向にあるため、運用資産(AUM)ベースで報酬が決定されるOCIOサービスは、収益が低下しづらい。資産運用会社にとっても受託できるAUMの範囲を大幅に拡大可能であるため、収益拡大に結び付きやすい。
親会社が上場会社やPE(プライベートエクイティ)の場合、一定の収益拡大のプレッシャーを受けることになるが、従来の資産運用コンサルティングサービスはその期待に応えられるサービスではなくなってきている。
前述の通り、アセットオーナー・プリンシプルをきっかけとして現在、OCIOは再注目されており、2025年9月にはオルイン誌でOCIOマネージャー名鑑という有益な資料が提供されている。しかし、この動きをいぶかしむ見方も少なくはない。
そもそも日本のDB年金に関していえば、資産運用に大きな問題があるわけではなく、積立水準には余裕がある。すでに少人数で運営されており、アウトソースにより削減可能な人件費の余地はほとんどない。オルタナティブ投資もOCIOなしで既に広がっている。日本の機関投資家は一般的に信託銀行、運用会社、金融機関など様々なステークホルダーが複雑に関与しており、OCIOプロバイダーにすべてを委託するのは、現実には様々な障壁がある。実際、アンケート調査などを見てもDB関係者の関心はそれほど高くない。「(自分たちが)話題にしたつもりはない」のに「なぜか話題にされている(セミナーなどのテーマにされている)」と感じる向きもいらっしゃるようだ。
率直に言って、現在、我が国でOCIOが話題とされている理由は、「顧客の問題解決」というより「資産運用コンサルティング会社・運用会社の問題解決」という側面が強い。前述の理由3で指摘した業界側の事情である。国内でサービスを提供している資産運用コンサルティング会社は、国内系も外資系も多くが上場企業あるいはPEに保有されている。現状維持が許されない中でどうやって成長していくのか、は切実な問題なのだ。運用会社も伝統的資産のフィーに引き下げ圧力が高まる中で、オルタナティブ資産のプロダクトに経営資源を傾けているが、オルタナティブ資産の競争環境も激化している。オルタナティブ資産のプロダクトは、受託できても1件あたりせいぜい数十億円単位だが、OCIOの場合、数百億円単位で受託できる。フィーは薄くとも十分収益拡大のチャンスになりうる。
OCIOをどう評価すべきか
こうした動きに「結局は金儲けなのか」と思う人もいるかもしれないが、収益性が高い分野に資本を投入するのは経営判断としては自然である。
加えてもちろん、OCIOにも優れた面はある。たとえば、四半期報告などの効率化や運用の高度化などをOCIOプロバイダーのプラットフォームを活用することで実現できる可能性がある。ある程度、規模の大きなOCIOプロバイダーであれば、直接投資するよりも運用マネージャー側のフィー引き下げが実現できるためコスト効率が高い場合もある。知識移転を目的にOCIOを活用することも考えられる。また、実際、自組織の運用よりも優れた運用効率が実現できるのであれば、OCIOに委託する方が受託者責任の観点からも適切である。
ただし、OCIOを導入したからといって、アセットオーナーの受託者責任が免除されるわけではない。OCIOは責任の「移転」ではなく、意思決定の「委任」にすぎない。OCIOを選んだ責任は、アセットオーナーが担うことになる。つまり、OCIOというエージェントを適切に選定し、継続的にモニタリングする必要がある。OCIOプロバイダーを適切にモニタリングする体制がなければ、OCIOはむしろガバナンスを弱体化させるリスクすら孕む。
ではOCIOをどのようにモニタリング・評価すべきだろうか? ポイントを図表2にまとめた。 「専門性・体制」は、運用マネージャーの委託先を検討する際と類似している。
「パフォーマンス」については、単一のポートフォリオを運用するというわけではないため、比較は容易ではない。CFA協会がOCIOのグローバル投資パフォーマンス基準(GIPS)を提供(発効は2025年12月31日)しており、この基準に従ったデータ提供が今後一般化することが期待される。ただし、厳密にはこのOCIO GIPS基準は、OCIOのすべてを対象としているわけではないため、国内では十分なデータがすぐに提供されない可能性もある(海外ではすでにOCIOのパフォーマンスを比較している業界誌、サイトがある)。なお、パフォーマンス評価にあたって注意すべきなのは「シミュレーションデータ」である。実績が優れた資産・ファンドを事後的に組み合わせれば、見かけ上良好なシミュレーションデータを容易に作成可能だからだ。当然ながら、そのようなデータに再現性はほぼない。シミュレーションデータの作成は、十分にランダム性を持った手法で検証する必要があるが、本稿のテーマから外れすぎるため、ここでは触れない。
また、図表2の最終項目に記載しているOCIOを解約する際の対応、移行コストについても確認しておくことが望ましい。アセットオーナー側が運用を引き継ごうとした際に、投資判断の根拠等がブラックボックスとなり、運用を継続できないケースが海外では起こっているためだ。また、OCIOプロバイダー専用のシェアクラスや投資ビークルに投資しているため、資産の移行に想定以上に時間とコストを要するケースもある。OCIO導入で最も難しいのは「始めること」ではなく、「終わらせること」との指摘もある。
OCIOのサービス内容や利用の目的はアセットオーナーによって異なり、それに応じて評価の項目もカスタマイズする必要があることも付言したい。
図表2:OCIOの評価基準

注:当社が利用している評価基準の一部 出所:各種資料よりかもめリサーチ&コンサルティング作成
「使われる」のではなく「使うこと」が重要
資産運用コンサルティングサービスに代わってOCIOサービスが主流になるという見方もあるようだ。しかし、OCIOというソリューションは、使う側のガバナンスやモニタリング体制が十分機能している必要がある。海外の閉鎖型DBのように「終活」として後腐れなくOCIOを活用する、というケースでもない限り、うまく使う意識がないと受託者責任という点で問題になりえる。
いずれにせよ、OCIOをどう使うべきか、どう評価すべきかといった客観的な情報が国内では多くない。OCIO自体は、有力な選択肢にはなりうるが、情報不足により適切な選択が困難になる可能性もある。当社として微力ながらこの状況を変えるために引き続き情報提供を行っていく*。
*当社ホームページ(kamomeresearch.com)にてOCIO評価にフォーカスしたレポートを掲載予定である。