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「AI以外はほぼリセッションに近い」米国経済はAIバブルか? ―強さと弱点から見通す2026年“変わりゆく”世界経済と投資環境

投資家必読! 2026年マーケット展望
2025年12月15日
米国では第2次トランプ政権が発足し、自国第一主義で世界を翻弄。日本では高市早苗氏が女性初となる内閣総理大臣に就任、日経平均株価は初の5万円を突破し史上最高値を更新―。2025年は国内外で政治・経済ともにエポックメーキングとなる出来事が相次いだ。世界を覆う地政学的な緊張や台頭する保護主義政策に象徴されるように、激しい変化が将来の不確実性を高めている。資産運用を取り巻く環境はどう変わるのか。世界的な保険大手アクサグループの資産運用会社、アクサ・インベストメント・マネージャーズ(アクサIM)のコア・インベストメント最高投資責任者(CIO)兼アクサIM資産運用研究所議長を務めるクリス・アイゴー氏が2026年の世界経済の見通しおよび注目の資産クラスなどについて語る(前編)。

2026年の世界経済はリセッション回避も成長はトレンド未満

2026年のグローバル経済は景気後退(リセッション)に陥ることなく、プラス成長を継続すると見込んでいる。しかしながらその成長率は過去のトレンドを下回るだろう。景気サイクルは過去5年間の影響を受けている。コロナ・パンデミックによる需給の不均衡、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーショックは欧州に中心に多大な影響を与え続けてきた。

米国をはじめとする主要国の中央銀行は大幅な利上げという金融引き締め策を実施した一方で、トランプ政権による関税引き上げなど世界的に保護主義の台頭が目覚ましい。米国ではインフレ目標を上回る状況が続き中央銀行は利下げに慎重にならざるを得ない状況にある。世界経済は歴史的なトレンドを下回る力強さに欠ける成長が続くと予測され、投資家には景気循環と構造的なテーマを分けて考えることが求められる。

アクサ・インベストメント・マネージャーズ(アクサIM)
コア・インベストメント最高投資責任者(CIO)兼アクサIM資産運用研究所議長
クリス・アイゴー氏

AIを除けば「ほぼリセッションに近い」米国経済

米国経済の成長を牽引する主なドライバーとして3つのテーマに注目している。第1に人工知能(AI)への大規模投資だ。大手テック企業の中でも特にマグニフィセント・セブンが将来の需要を見込み、データセンターやハードウェアへの設備投資を大幅に増やしている。この動きは米国のGDPを押し上げ、関連セクターにも波及効果をもたらしている。

第2は資産効果だ。米国株式市場は過去2年間、年率約20%のリターンを記録し、今年も約13%のリターンを上げると見込まれている。今年だけでS&P500種株価指数の時価総額は約7兆ドル増加したが、その約半分はマグニフィセント・セブンによるものだ。この恩恵は株式を保有する家計の富を増やしているが、一方で格差拡大の一因ともなっている。

第3には金融・財政政策だが、米連邦準備制度理事会(FRB)は2026年に向けて利下げを継続するだろう。インフレの落ち着きが条件となるが、政策金利は3%程度まで低下すると見られ、企業の資金調達コストは下がるだろう。減税を含む財政政策や規制緩和も経済を支えると見ているが、予測不能なトランプ氏のアメリカ・ファースト政策は企業にとって不確実性をもたらすだろう。

前述どおり米国経済の成長の下支えはAI投資にある。テック業界における大規模言語モデル (LLM) や最も高速な半導体の確保を巡る投資に減速の気配はなく、競争が継続している。世帯の富の拡大を示す資産効果も顕著であり、その背景には株価だけでなく住宅価格の上昇も影響している。

ただし米国経済にも弱点は存在する。労働市場は軟化の兆しを見せており、失業率は過去12カ月間、上昇傾向にある。先日発表された消費者信頼感指数はここ数年で最も低い水準となり、多くの消費者が高止まりするインフレと失業率の上昇に苦しんでいる。

関税引き上げの影響は家計にもおよび、例えば輸入品が多い家具や家電などの価格を押し上げている。ただし現在のインフレは深刻な需給不均衡によるものではなく、今後は2~3%の範囲で比較的低位に安定すると予測している。

一方で経済のダウンサイドリスクには注意が必要だ。米国の景気先行指数は過去2年間で急激に低下している。先行指数が大きく低下する一方で、GDP成長率が上昇を続けるという事実は現在の米国経済が「AI関連」と「それ以外」のセクターで二分化していることを示唆している。AI関連投資を除けば米国経済はほぼリセッションに近い状態にあるといえるだろう。

競争優位性はグリーンテクノロジー投資にあり

米国以外の地域でも米国の政策に起因する複雑な課題に直面している。例えば米国が海外の防衛費を削減する方針を示しているため、日本や欧州諸国は自国の防衛費の増額を迫られている。また米国の関税政策は世界の貿易に混乱をもたらし、特に欧州最大の輸出国であるドイツから米国への輸出が急減するなど、各国は独自のサプライチェーン確保と技術投資を行う必要があるだろう。こうした貿易摩擦は経済の分断化を招き、海外投資家による米国金融資産へのエクスポージャーが減少しているというデータもある。

世界共通の課題である気候変動は新しいグリーンテクノロジーへの投資と脱炭素化を促す主要因であり、グリーンエネルギーに大規模投資を行っている国や地域は将来的に競争上の優位性を獲得するだろう。特に中国や欧州の一部の国々におけるグリーンテクノロジーへの取り組みに注目している。

欧州経済についてはポジティブに見ている。欧州中央銀行(ECB)はすでに政策金利を2%にまで引き下げ、この水準を当面維持する見込みだ。

欧州経済の成長率は約1%と景気循環的には軟調だが、構造的な楽観要素がある。最も重要なのはドイツ政府が国防費とインフラ投資を拡大すると発表したことだ。この投資は今後10年間で総額約1兆ユーロにのぼり、ドイツ国内だけでなく欧州全体にプラスの波及効果をもたらすだろう。欧州企業の景況感については収益改善や投資拡大計画を背景に楽観的な見方を維持している。

●投資妙味のあるセクターは? 後編「2026年、注目のアセットクラスは? 債券・株式市場の展望ー投資家が注視すべきリスクと機会に迫る」にて詳報する。