昨年10月に第一生命保険(以下、第一生命)は、2021年10月から団体年金保険(=一般勘定)の予定利率を1.25%から0.25%へ引き下げると発表した。この引き下げは、同社の一般勘定に資金を預ける企業年金の運用に大きな影響を与えることになるだろう。そこで、引き下げの実施を決定した第一生命に、その経緯や今後の対応について話を聞いた。
第一生命が語る一般勘定の予定利率引き下げの経緯
2020年10月、第一生命から発表された内容に、国内年金の多くは驚きを隠せなかったであろう。同社が提供する一般勘定の予定利率を、2021年10月に現行の1.25%から0.25%まで引き下げるとしたのだ。前回の引き下げは2002年のことで、実に19年ぶりの予定利率の見直しとなる。
一般勘定は国内年金の約8割が採用する資産クラスだけあって、予定利率の引き下げによる運用への影響は決して小さくない。弊誌が国内年金を対象に2020年11月から2021年1月にかけて行ったアンケート調査でも、一般勘定の利率引き下げは自らの年金の予定利率達成にマイナスの影響があると答えた年金は8割を超えている(「大いにある」と「少しある」の回答を合算、調査結果の詳細はオル・インWebを参照)。
こうした中、第一生命の執行役員で団体年金事業部長の飯田貴史氏は、引き下げの経緯を次のように語っている。
「一般勘定は“著しい環境の変化”を事由として予定利率を見直しているのですが、これまでも国内の金利水準に歩調を合わせて利率を下げてきました。最後に引き下げを実施したのは2002年でしたが、その後の約20年で市場環境は大きく様変わりしています。特にマイナス金利政策の影響は甚大で、2017年には利率変更事由に該当するものと認識していました。それ以降、数年にわたって社内で議論を重ねた末に、今回の引き下げを決定しました」
第一生命保険 執行役員 団体年金事業部長
飯田 貴史 氏
前号の『オル・イン』Vol.58でもこの数十年で世界中の金利が消えていった姿を紹介したが、19年前と現在では運用環境の変化が著しい。企業年金サイドでも環境の変化に対応して、投資対象の拡大や予定利率の引き下げ、ポートフォリオの高度化などを迫られてきた。
とりわけ、2016年に導入された日銀のマイナス金利政策は国内年金にも大きなインパクトを与え、利回りを求めて国内債券に投資する価値はほとんど消えてしまう一方で、相対的に高い利回りを保証する一般勘定への期待はいっそう高まっていった。
利率引き下げと代替案の提示に投資家のネガティブな反応も
すでに第一生命は2010年から一般勘定の新規受託を停止していたが、国内年金が投資対象を拡大することで新たなリスクを負っているとの認識に基づき、現環境にこそ利率が保証される一般勘定が必要になると判断。ゼロ近傍に沈む金利水準との兼ね合いや代替策が練られたことを受けて、0.25%という水準で新規受託の再開に至ったという。
「言葉を選ばずに言えば19年前は頭を下げただけでしたが、今回はそうではありません。社内で徹底されていたのは、企業年金の負担を回避する代替策を用意できないのであれば引き下げるべきではないという認識です。また、同じ社内を見渡せば個人年金の予定利率はすでに1.25%を下回っており、事業者としてこの差をどう考えるのかという葛藤もありました。もちろん、皆様からは厳しいご意見をいただくこともありますが、今は真摯にご説明とご提案に徹することが重要だと考えています」(飯田氏)。
代替策である「特別勘定フロアセットプラン」は2年ほど前から研究が始まったと、特別勘定運用部長である渡辺康幸氏は語る。参考にしたのは米国の個人年金分野で普及している商品設計で、ここ数年の技術革新によって可能になった、下値を抑えて上値を取る手法だ。
第一生命保険 特別勘定運用部長
渡辺 康幸 氏
代替案があるとはいえ、投資家にとっては突然の発表だったため、現在はその影響や今後の対応策を協議している最中だと推察される。先ほど紹介した弊誌調査でも、利下げがあったとしても全額解約に動くとする回答は少数にとどまっていた。飯田氏や渡辺氏も利率引き下げや特別勘定フロアセットプランについて説明に赴き、投資家の声に直接耳を傾けているとのことだ。
実際に引き下げとなる10月までに対応を考えるといった反応が多いというが、やはり厳しい意見を寄せられたり特別勘定フロアセットプランの複雑さを指摘されたりすることもあるという。こうした声について渡辺氏は、「利
率の引き下げや代替案についてご理解いただくには、数年単位の時間を要することも覚悟しています。丁寧なご説明やサポート、積極的な情報開示をしながら信頼関係を構築していきます」と語っている。
長期金利が予定利率を下回るいびつな状態は解消へ
さて、第一生命の一般勘定予定利率の引き下げは、少し期間を広げて見てみると、図のように2000年代前半までは長期金利に追随する形で推移していたことがわかる。しかし、長期金利が1.25%の予定利率を下回ることが恒常化していった2010年以降は、新規受託を停止しているとはいえ、2~3年ごとに利率を引き下げていた2000年代前半とは明らかに様相が異なる。
一企業が主力商品の販売を10年近く止めるのは、普通なら考えられない事態かもしれないが、今回の対応によって、良くも悪くもこのいびつな状態は解消されるだろう。当面は第一生命のみの引き下げとなったが、国内他生保の思惑や投資家の動向、提案された代替案の効果など、しばらくは目が離せない状況が続きそうだ。
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